5 / 33
5 誰も知らない出来事 スウィーディーside
しおりを挟む
「ここなら誰もいない。何かあったのか、ワーテラー公爵令嬢様と」
その言葉に驚いて、コノアを見上げる。
救護室に連れて来てくれたコノアは、あたしをベッドに座らせると、すぐに扉の方へ引き返してしまった。そのまま授業に戻ると思ったら、開け放たれたままの入り口の壁に寄りかかってそう言った。
きっと、誰か来たらすぐ話を切り上げられるように見張ってくれているんだ。
あたしの話を、人に聞かれないように配慮してくれていることが、とっても嬉しい。
「私の話を、聞いてくれるの?」
誰もが口を開けば賛辞の言葉しか出て来ない、ユセフィラ様。そんなユセフィラ様なのに、あたしは、怖いの。そんなあたしの話、信じてもらえるのかな。そもそも、ユセフィラ様と何かあったって思ってくれることが信じられない。ユセフィラ様は誰にでも分け隔てなく接してくれる女神だって、慈悲深い聖女だって言われている。そんなユセフィラ様と、何かあるなんて誰も思わない。あったとしても、悪いのはユセフィラ様じゃなくて、むしろ聖女で女神のユセフィラ様を怒らせた方だ、怒らせるなんてあり得ないって、大顰蹙を買うのに。
「ああ」
間髪入れずにコノアは頷いてくれたけど。
「でも、私、みんなから嫌われてるんだよ?そんな子の話、信じてくれるの?」
恐る恐る尋ねると、
「ほぅ。嫌われている自覚はあるのか」
驚いたようにそう言われた。
「もう!ひどいよ、コノア!」
からかわれてるのかな。もう、コノアったら。
「だが、みんなから嫌われているわけではないだろう。好意を向けている目もあるだろう」
コノアの言葉に、一瞬過ぎった顔。
「う、ん、まあ、ね」
気恥ずかしくて、ちょっと顔を逸らす。
すごいな、コノア。まだほんの数時間しかこの学園にいないのに、いろいろ見ているんだ。
「それから信じる信じないは、私は自分の目で見て感じたものしか信じない、とだけ言っておこう」
そう言ったコノアは、とても同い年と思えないほど大人びた表情をしていて。
何でだろう、あたしは、コノアなら信じられるって思った。
だから話したの。
包み隠さず。憶測もある、証拠もない。でも、あたしの気持ちを、全部、全部。
授業が始まることも気にせず、コノアは黙って聞いてくれた。あたしの下手な説明に苛立つこともなく、相槌を打つだけで、最後まで黙って聞いてくれた。
全部話し終わったあたしは、涙が零れていた。
「キミの話が事実なら、キミがワーテラー公爵令嬢様に対して恐怖するのも頷ける」
事実なら。そう言ったコノアの言葉に、さらに涙が溢れる。
「信じて、くれないの?」
コノアは、フゥ、と息を吐くと、あたしに近付いて来た。
「言っただろう。目で見て感じたものを信じると」
あたしの目の前に来ると、手が差し出された。差し出されたその手には、真っ白なハンカチがあった。ハンカチに目をやり、もう一度コノアを見上げると、コノアはそっぽを向いていた。照れて、いるのだろうか。
「ふふ。ありがとう、コノア」
ありがたくハンカチを手に取り、そっと涙を拭うと、コノアはそのハンカチをあたしの手から引き取り、また自分のポケットにしまった。
「コノア、汚しちゃったから、洗ってから返すわ!」
慌ててそう言うと、気にするな、と言われてしまった。
やっぱり、優しい人。
ねえ、コノア。
あなたの前でなら、あたしはバカなフリをしなくてもいいかな?
ムリして笑わなくてもいいかな。
あたしはあたしでいても、いいかな。
本当のあたしを、見せてもいいかな。
*つづく*
その言葉に驚いて、コノアを見上げる。
救護室に連れて来てくれたコノアは、あたしをベッドに座らせると、すぐに扉の方へ引き返してしまった。そのまま授業に戻ると思ったら、開け放たれたままの入り口の壁に寄りかかってそう言った。
きっと、誰か来たらすぐ話を切り上げられるように見張ってくれているんだ。
あたしの話を、人に聞かれないように配慮してくれていることが、とっても嬉しい。
「私の話を、聞いてくれるの?」
誰もが口を開けば賛辞の言葉しか出て来ない、ユセフィラ様。そんなユセフィラ様なのに、あたしは、怖いの。そんなあたしの話、信じてもらえるのかな。そもそも、ユセフィラ様と何かあったって思ってくれることが信じられない。ユセフィラ様は誰にでも分け隔てなく接してくれる女神だって、慈悲深い聖女だって言われている。そんなユセフィラ様と、何かあるなんて誰も思わない。あったとしても、悪いのはユセフィラ様じゃなくて、むしろ聖女で女神のユセフィラ様を怒らせた方だ、怒らせるなんてあり得ないって、大顰蹙を買うのに。
「ああ」
間髪入れずにコノアは頷いてくれたけど。
「でも、私、みんなから嫌われてるんだよ?そんな子の話、信じてくれるの?」
恐る恐る尋ねると、
「ほぅ。嫌われている自覚はあるのか」
驚いたようにそう言われた。
「もう!ひどいよ、コノア!」
からかわれてるのかな。もう、コノアったら。
「だが、みんなから嫌われているわけではないだろう。好意を向けている目もあるだろう」
コノアの言葉に、一瞬過ぎった顔。
「う、ん、まあ、ね」
気恥ずかしくて、ちょっと顔を逸らす。
すごいな、コノア。まだほんの数時間しかこの学園にいないのに、いろいろ見ているんだ。
「それから信じる信じないは、私は自分の目で見て感じたものしか信じない、とだけ言っておこう」
そう言ったコノアは、とても同い年と思えないほど大人びた表情をしていて。
何でだろう、あたしは、コノアなら信じられるって思った。
だから話したの。
包み隠さず。憶測もある、証拠もない。でも、あたしの気持ちを、全部、全部。
授業が始まることも気にせず、コノアは黙って聞いてくれた。あたしの下手な説明に苛立つこともなく、相槌を打つだけで、最後まで黙って聞いてくれた。
全部話し終わったあたしは、涙が零れていた。
「キミの話が事実なら、キミがワーテラー公爵令嬢様に対して恐怖するのも頷ける」
事実なら。そう言ったコノアの言葉に、さらに涙が溢れる。
「信じて、くれないの?」
コノアは、フゥ、と息を吐くと、あたしに近付いて来た。
「言っただろう。目で見て感じたものを信じると」
あたしの目の前に来ると、手が差し出された。差し出されたその手には、真っ白なハンカチがあった。ハンカチに目をやり、もう一度コノアを見上げると、コノアはそっぽを向いていた。照れて、いるのだろうか。
「ふふ。ありがとう、コノア」
ありがたくハンカチを手に取り、そっと涙を拭うと、コノアはそのハンカチをあたしの手から引き取り、また自分のポケットにしまった。
「コノア、汚しちゃったから、洗ってから返すわ!」
慌ててそう言うと、気にするな、と言われてしまった。
やっぱり、優しい人。
ねえ、コノア。
あなたの前でなら、あたしはバカなフリをしなくてもいいかな?
ムリして笑わなくてもいいかな。
あたしはあたしでいても、いいかな。
本当のあたしを、見せてもいいかな。
*つづく*
380
お気に入りに追加
782
あなたにおすすめの小説
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
[完結] 伴侶は自分で選びます。
キャロル
恋愛
獣人と人間が共存する世界でお互いの国が協定を結び共通の脅威である魔物を排除すべくお互いの特性を生かし平和に暮らしていた。
ある一点おかしな法律を除いては、………。
獣人の竜種と狼種は番以外には発情しない為種族繁栄のため人間が番と判断された場合、婚約者がいようが恋人がいようが番と結婚しなければならない………獣人には番はわかるが人間にはわからないが、人間が獣人の番の場合生まれた時に心臓の位置に紋様が現れる。逆に獣人も人間が番の場合同じ位置に同じ紋様が出るため紋様がある者は同族と婚姻できない。
………なんだそりゃ、まるで呪いじゃないの、冗談じゃない
私はそんなのごめんです。幸い天才的な魔道具作りの才能を持つ私。番とは認識させてやるもんか!
伴侶は自分で探します。いや、いらないかも。
竜人の王である夫に運命の番が見つかったので離婚されました。結局再婚いたしますが。
重田いの
恋愛
竜人族は少子化に焦っていた。彼らは卵で産まれるのだが、その卵はなかなか孵化しないのだ。
少子化を食い止める鍵はたったひとつ! 運命の番様である!
番様と番うと、竜人族であっても卵ではなく子供が産まれる。悲劇を回避できるのだ……。
そして今日、王妃ファニアミリアの夫、王レヴニールに運命の番が見つかった。
離婚された王妃が、結局元サヤ再婚するまでのすったもんだのお話。
翼と角としっぽが生えてるタイプの竜人なので苦手な方はお気をつけて~。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる