では、復讐するか

らがまふぃん

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3 運命の別れ道 スウィーディーside

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この学園は、十七になる歳から二年間、貴族の令息令嬢が通う。社交界デビュー前の、プレ社交界みたいなもの。一年は前期と後期に分けられ、前期と後期の間と、学年が上がる時に、少しまとまった休暇が入る。そんな前期の終盤に差し掛かり、あと二週間もせず休暇に入る頃。

「こんな中途半端な時期から入ってくるのは、何かと大変だと思うの。良かったら学園内を案内するわ?」

子爵家のコノア・クルードが編入してきた。隣国で学んでいたけれど、急遽こちらに戻らなくてはならなくなったとか。
「ありがたい申し出だ。キミは?」
「私はスウィーディー。オプト伯爵家の娘よ。気軽に名前で呼んでね、コノア」
満面の笑顔で手を差し出すと、コノアは遠慮がちに握手に応じた。遠巻きにしていたご令嬢たちが、悔しそうにあたしを見ている。

これよ。これの意味がわからない。

そんな顔をするなら、どうして自分から話しかけないのかしら。困っている人を見たら助けるのなんて当たり前。自分だって困っていたら助けて欲しいでしょう?だからあたしは人助けをするの。
「ね、コノア。次の時間は移動教室よ。案内するから行きましょう」
「ああ」
立ち上がったコノアは、リスラン様よりすこし低いくらいの身長。背が高くて素敵。黒い髪はサラッサラのストレート。羨ましいな。リスラン様より深く濃い緑の瞳は、とっても綺麗。ついジッと見つめていると、視線に気付いたコノアが片眉を上げた。
「あ、ジロジロ見ちゃってごめんなさい。とっても綺麗な目だなって、見とれちゃった」
ちょっと不躾だったよね。少し俯きながら、チラ、とコノアに視線をやると、コノアと目が合った。すぐに視線を逸らされる。嫌われちゃったかな。コノアの袖を軽く引く。
「あの、気分を悪くさせたなら、ごめんなさい」
何だか悲しくなってきた。ジワリ、目に涙の膜が張る。ダメダメ、こんなことで泣いたら。あたしは元気が取り柄なんだから。涙が零れないように堪えていると、コノアが口を開く。
「気分を害してなどいない。これしきのことで泣くな。キミは、涙もろいな」
表情はちっとも変わらないけど、口調もぶっきらぼうだけど、コノアは優しい。ほんの僅かな時間で、それがよくわかる。
「えへへ。よかったあ。コノアに嫌われちゃったら悲しいもの」
コノアが僅かに目を開く。
「あ、あ、コノアにだけじゃないよっ?誰から嫌われても悲しいからっ」
変な言い方したら誤解させちゃうよね。あぶないあぶない。

「ね、コノア。授業の合間の休憩時間は短いから、お昼の休憩と放課後、しっかり案内したいと思うの。コノア、時間はどう?」
少しでも早くこの学園に馴染めるように、全力でサポートするよ。
「私はありがたいが、放課後までキミの時間を使わせるのは申し訳ない」
「全然!気にしないで!私が早くコノアにこの学園になれて欲しいだけ!」
そう言うと、少しだけあたしに視線を投げた後、
「そう。ではよろしく」
そうぶっきらぼうに言った。

何だか可愛くてクスクス笑っていたら、強い視線を感じた。振り返ると、ご令嬢たちの憎々しげにあたしを睨む視線。あたしは恐怖を感じて、つい、隣を歩くコノアの腕にしがみついた。
「何」
「あ、ご、ごめんなさい。何でもないの」
あたしの抱きつくクセは、学園の人たちなら誰でも知っている。このクセが、同性から嫌がられていることは知っているのよ。直そうとはしているけれど、咄嗟の時には出てしまう。かなり頻度は減っているんだけどな。でも、コノアは来たばかりで知らない。常識のない女だって思われたら悲しいな。
そう思っていたら。
「少し顔色が悪い。救護室はどこだ。付き添おう」
コノアがそう言ってくれた。



*つづく*
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