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2 素敵な人たちとの日常 スウィーディーside
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「リスラン様!」
名前を呼ぶと、ゆっくり振り返る。
太陽のように燃えさかる赤い髪はゆるく波打ち、美しく冷たい緑の双眸があたしを認めると、僅かに細められる。
あたし、スウィーディー・オプト。伯爵家の次女。
蜂蜜のような金の髪に、夏の空のような青い瞳。ちょっと小柄だけど、女の子だから気にしない。フワフワとまとまらないクセッ毛を悩みに持つ、元気が取り柄の十六歳。まあ、この髪を相手に、いつも侍女が苦労してるのはご愛嬌。ストレートヘアに憧れていたけど、リスラン様もゆるいクセッ毛だから、このままでもいいかって思えるようになったの。
リスラン様は、この国の王太子。そのお立場から、常に側には人がいる。
お父様を宰相に持つ、ひとつ上のアサト・ヴィーダ公爵令息様。
お母様が隣国の元第二王女、お父様が外交官の、やっぱりひとつ上、シュリ・コスモラナ侯爵令息様。
お父様が騎士団長で同い年の、ガイアス・ソネス伯爵令息様。
みんな、リスラン様の側近候補なんですって。
王太子の側近に選ばれるなんて、本当に凄いと思う。家柄だけで選ばれるはずがないもの。本人たちの努力の成果だわ。
それなのに。
みんな、婚約者がいるの。こんなに素敵な人たちだもの。いないわけないでしょ?いないわけないんだけど、ね。
相応しく、ないなあって、思っちゃうの。
みんな、本当に素敵なんだよ?それなのに、どうしてあんな人たちが、みんなの、婚約者、なのかな。
あ、表向きの評判はすっごくいいの。みんなに選ばれるだけあるなあって納得!なんだけど。
「何か考え事か」
リスラン様の気遣う言葉にハッとする。いけないいけない。また心配させちゃう。
あたし、誰にでも分け隔てなく話しかけちゃう性格で、それを良く思わない人がいるみたい。その筆頭が、リスラン様の――、ううん、証拠がないもの。この話になると、みんな眉を顰めるの。いろいろ聞いてこようとするけど、あたしは上手くはぐらかす。だって、みんなの隣に立つ人たちがそんな人だなんて思いたくないでしょ?だから、あたしは証拠がないことで騒ぎ立てたりしない。みんなを悲しませたくないから。
「いえいえ、何でもないですよー。あ、そうだ。来週の観劇、楽しみです!ずうっと観たかったんです!本当に嬉しい!」
楽しい話題にしないとね。みんなといる時は、笑顔でいて欲しいもの。だから、満面の笑みでそう言った。
「そうか」
リスラン様が、顔を逸らしてそう言った。ふふ、照れてる照れてる。リスラン様、あたしが笑うといつも顔を逸らすの。きっとリスラン様も笑ってくれているんだと思う。でも笑顔を見せるの恥ずかしいみたいなのよね。それがなんだか可愛くて、ついその腕に抱きついちゃう。
「オプト嬢、無闇に異性の体に触れてはいけませんよ」
柔らかな口調ではあるけれど、あたしとリスラン様をくっつけないように体を割り込ませてくるシュリ様。いつも穏やかなシュリ様だけど、あたしが誰かとくっついたり親しく話していると、必ずと言っていいほど注意をしてくる。体ごと割って入ってくるのはリスラン様の時だけだけど。だからそのままシュリ様に抱きつく形になることが多いの。もう。一歳しか違わないけどお父様みたい。お父様も、あたしがパーティーとかで男性とお話ししていると割り込むの。ウチの娘に何か、とか言って。そんなお父様を、お母様は呆れた顔で見ているわ。
「殿下、そろそろ」
生徒会室に着く頃、アサト様がリスラン様にそう声をかけた。生徒会室に用があったみたい。あ、リスラン様もみんなも、生徒会役員ではないわよ。王族としてのお仕事がお忙しいから、とても学園のことまで手は回らない。けれど、時々意見を求められる。
「リスラン様、皆さまも、無理はしないで下さいね?何か私に出来ることがあればいつでも仰って下さい。それではまた」
四人に手を振って離れると、四人ともジッとあたしを見つめていた。
ホント、すっごくカッコイイわ。
あたしもがんばって、みんなみたいに優しくてカッコイイ人見つけるぞーっ。
気合いを入れるあたしは、運命を大きく変える出会いがあることなど、この時は知る由もなかった。
*つづく*
名前を呼ぶと、ゆっくり振り返る。
太陽のように燃えさかる赤い髪はゆるく波打ち、美しく冷たい緑の双眸があたしを認めると、僅かに細められる。
あたし、スウィーディー・オプト。伯爵家の次女。
蜂蜜のような金の髪に、夏の空のような青い瞳。ちょっと小柄だけど、女の子だから気にしない。フワフワとまとまらないクセッ毛を悩みに持つ、元気が取り柄の十六歳。まあ、この髪を相手に、いつも侍女が苦労してるのはご愛嬌。ストレートヘアに憧れていたけど、リスラン様もゆるいクセッ毛だから、このままでもいいかって思えるようになったの。
リスラン様は、この国の王太子。そのお立場から、常に側には人がいる。
お父様を宰相に持つ、ひとつ上のアサト・ヴィーダ公爵令息様。
お母様が隣国の元第二王女、お父様が外交官の、やっぱりひとつ上、シュリ・コスモラナ侯爵令息様。
お父様が騎士団長で同い年の、ガイアス・ソネス伯爵令息様。
みんな、リスラン様の側近候補なんですって。
王太子の側近に選ばれるなんて、本当に凄いと思う。家柄だけで選ばれるはずがないもの。本人たちの努力の成果だわ。
それなのに。
みんな、婚約者がいるの。こんなに素敵な人たちだもの。いないわけないでしょ?いないわけないんだけど、ね。
相応しく、ないなあって、思っちゃうの。
みんな、本当に素敵なんだよ?それなのに、どうしてあんな人たちが、みんなの、婚約者、なのかな。
あ、表向きの評判はすっごくいいの。みんなに選ばれるだけあるなあって納得!なんだけど。
「何か考え事か」
リスラン様の気遣う言葉にハッとする。いけないいけない。また心配させちゃう。
あたし、誰にでも分け隔てなく話しかけちゃう性格で、それを良く思わない人がいるみたい。その筆頭が、リスラン様の――、ううん、証拠がないもの。この話になると、みんな眉を顰めるの。いろいろ聞いてこようとするけど、あたしは上手くはぐらかす。だって、みんなの隣に立つ人たちがそんな人だなんて思いたくないでしょ?だから、あたしは証拠がないことで騒ぎ立てたりしない。みんなを悲しませたくないから。
「いえいえ、何でもないですよー。あ、そうだ。来週の観劇、楽しみです!ずうっと観たかったんです!本当に嬉しい!」
楽しい話題にしないとね。みんなといる時は、笑顔でいて欲しいもの。だから、満面の笑みでそう言った。
「そうか」
リスラン様が、顔を逸らしてそう言った。ふふ、照れてる照れてる。リスラン様、あたしが笑うといつも顔を逸らすの。きっとリスラン様も笑ってくれているんだと思う。でも笑顔を見せるの恥ずかしいみたいなのよね。それがなんだか可愛くて、ついその腕に抱きついちゃう。
「オプト嬢、無闇に異性の体に触れてはいけませんよ」
柔らかな口調ではあるけれど、あたしとリスラン様をくっつけないように体を割り込ませてくるシュリ様。いつも穏やかなシュリ様だけど、あたしが誰かとくっついたり親しく話していると、必ずと言っていいほど注意をしてくる。体ごと割って入ってくるのはリスラン様の時だけだけど。だからそのままシュリ様に抱きつく形になることが多いの。もう。一歳しか違わないけどお父様みたい。お父様も、あたしがパーティーとかで男性とお話ししていると割り込むの。ウチの娘に何か、とか言って。そんなお父様を、お母様は呆れた顔で見ているわ。
「殿下、そろそろ」
生徒会室に着く頃、アサト様がリスラン様にそう声をかけた。生徒会室に用があったみたい。あ、リスラン様もみんなも、生徒会役員ではないわよ。王族としてのお仕事がお忙しいから、とても学園のことまで手は回らない。けれど、時々意見を求められる。
「リスラン様、皆さまも、無理はしないで下さいね?何か私に出来ることがあればいつでも仰って下さい。それではまた」
四人に手を振って離れると、四人ともジッとあたしを見つめていた。
ホント、すっごくカッコイイわ。
あたしもがんばって、みんなみたいに優しくてカッコイイ人見つけるぞーっ。
気合いを入れるあたしは、運命を大きく変える出会いがあることなど、この時は知る由もなかった。
*つづく*
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