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ばんがいへん

勇者とは ー前編ー

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 「その首筋にある痣こそ勇者の証。どうか魔王を滅ぼし、この世界に平和を」
 国王ディアンの言葉に、一堂が勇者へ頭を下げた。
 「首の痣こんなもので勇者だと決めつけられ、王都こんなところまで呼びつけられるとはな」
 勇者と言われた男が不機嫌にそう言った。周囲がどよめく。
 「いくら勇者とは言え無礼な!国王の御前であるぞ!」
 そう叫んだ男を、勇者は睨んだ。睨まれた男は顔を青ざめさせる。
 「はっ。ならば自分たちで何とかしてみろ。魔王如きで騒いでいる者が国王であるとは世も末だ」
 そう嗤って立ち去ろうとする男に、ディアンが待ったをかける。
 「無礼はこちらであった。すまない、エリアスト・カーサ・ディレイガルドよ。どうか貴殿の力を貸してもらえないだろうか」
 頭を下げるディアンに、エリアストは溜め息をいた。
 「魔王を倒せば世界が平和に?何故わかる。誰か倒したのか」
 周囲がざわつく。
 「いや、言い伝えでは」
 「そんな不確かな物で私に命を賭けろと。そもそもその言い伝えとは何だ。出所は確かなのか。脅威だというものに私一人に立ち向かわせるその神経は何だ」
 エリアストの極寒の瞳がディアンを睥睨する。
 「ご、ごもっとも、です。あの、あの、ですが、一人ではありません。三人、仲間が」
 「仲間?」
 「は、はい。入ってもらえ」
 紹介された一人は、眼光鋭い、エリアストの二倍はある体躯を丁寧に折り曲げた。
 「アイザック・デイ・ガストラフと申す。よろしく頼む」
 もう一人は、赤子を抱いた優男。
 「ヨシュア・カラフスト。そしてこの子が姪のマアル。よろしくね」
 「舐めているのか貴様」
 エリアストの放つオーラが禍々しい。全員が震える。
 「いやいやいやいや、マアルはまだ二歳だけど!立派に聖女として」
 「その赤子ではない。貴様に言っている。足手纏いが」
 思いきり舌打ちをするエリアストに、ヨシュアは涙目だ。
 「見ただけで足手纏い?!」
 「使えそうなのはおまえとその赤子だけか」
 「私も!私も役に立つから!本当だから!」
 仲間に入れて欲しくてアピールするヨシュア。
 「貴様が喰われている隙に急所を狙うか」
 「命懸けの囮?!って言うか人柱?!そもそも魔王って人を食べるの?!」
 全員が場にそぐわない空気に戸惑っている。エリアストは構わず続ける。
 「一人も三人も同じだ。何も出来ないと怯えて暮らしている者たちは何だ。人類総出で立ち向かえばいいだろう。恐怖に怯えて暮らすなら、未来のためにとその命を投げ出したらどうだ」
 三人。自分は仲間として眼中に入れてもらえていない。
 ヨシュアが床に崩れ落ちて泣いていると、アイザックが一生懸命慰める。マアルもよしよしとヨシュアを撫でてあげる。
 「人類総出とたった三人で立ち向かうのと、どちらに勝機があるのだろうな」
 やっぱり三人なんだ。
 ヨシュアの心はボロボロだった。
 「貴様ら全員で立ち向かって弱ったところでこちらがとどめを刺す。それでいいな」


 一方、魔王城では。
 「ララ様ー。限定スイーツゲットしましたよー」
 「よくやった、シャール!食べよう食べよう」
 魔王ララの側近シャールは、人里に降りてスイーツをご購入。早速お茶の用意を始めたもう一人の側近レンフィが、そう言えば、と口を開く。
 「人間たちが、ララ様の討伐に動き出したそうですよ」
 「へ?ああ、魔物を魔王が使役してるってヤツ?マジで誤解なんだけどなあ」
 魔物の脅威に晒されている人間たちは、定期的に魔王討伐に乗り出す。
 「説明してもすぐ忘れちゃうんだよね、人間は」
 魔王は確かに魔物を使役している。ただ、使役出来ない魔物が、人間の脅威となっているのだ。だから魔王たちも、定期的にそういう魔物を間引いているのだ。
 「前回人間と話し合ったのは、二百年近く前です。その頃の人間など生きているはずないでしょう」
 冷静なレンフィの言葉に、ララは、そんなに経つのか、と溜め息をいた。
 「文書に残しても、どうしても魔王を悪としたい者が処分でもしているのでしょう。気長に付き合うしかないですよ」
 「その話が本当である証拠は」
 突然の第三者の声に、シャールがララを守る位置で身構えた。
 声の主を見て、三人は動けなかった。美しすぎる容姿もそうだが、その、絶対零度の瞳が恐ろしかった。だがララは別の意味で震えた。
 「どこから、いや、どうやってここへ?」
 どうにかララが声を絞り出す。
 「転移魔法だ」
 魔王城の中に転移出来るはずがない。そういう魔法を施しているからだ。して王の部屋など、あり得ない。それが、現実に起きてしまっていることに、ララは冷たい汗が流れるのを感じた。



*後編へ続く*
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