上 下
59 / 78
フルシュターゼの町編

16

しおりを挟む
 「貴様の認識は間違っている。国への貢献も財の潤沢さも、ディレイガルドは他の追随を許さん。単純に財だけで言えば、この国の国家予算の五年分は優に超える」
 アルシレイスの目が落ちそうだ。自分たちの調べでは、国家予算の半分程度の財だったからだ。それが、五年分だと?単純計算で?
 「目に見えるものをすべてだと思うな。この国の最高位にいてそんなこともわからんとは、実に嘆かわしい」
 ディアンはアルシレイスを睨む。
 「おまえたちの処遇が決まった。アルシレイス」
 アルシレイスの肩が揺れた。
 「おまえの家は取り潰しだ」
 アルシレイスが、意味がわからない、という目を向ける。
 「は、な、何ですと?と、とり、取り、潰し?」
 ディアンは、同じことを言わせるなと言うように冷たい目で肯定した。そして固まっている子女たちに向かって、
 「おまえたちの家は全員降格」
 そう沙汰を下す。子女たちも明らかに動揺している。公爵家に逆らえず、ただついて来ただけだというのに、あんまりではないか。口には出さないが、態度がそう言っている。ディアンは鼻で嗤う。軽薄な気持ちでくっついて来たくせに被害者気取りとは。ディレイガルドを見たい、あわよくばお近づきに、なんて魂胆が透けて見える。もう話は終わりだとばかりに立ち去ろうとしたディアンを止めたのは、もちろんアルシレイス。
 「いや、待て、何故だ、何故」
 体を怒りに震わせるアルシレイスに、ディアンは溜め息をいた。
 「ディレイガルドを怒らせるからだ。私は言った。手を出すなと」
 「ふざけるな!そんなこと認めん!認めんぞ!」
 アルシレイスは真っ赤な顔をして、怒りを全身からほとばしらせた。
 「貴様が認めようが認めまいが決定事項。覆らん」
 子どもをあしらうような態度に、ますますアルシレイスは憤慨する。
 「ふざけるなふざけるなふざけるな!この犬めが!貴様はディレイガルドの犬だ!何が王族!何が王家!ディレイガルドに尻尾を振る、ただの薄汚い犬ではないか!」
 「最期にひとつ、この国の実態を教えてやろう」
 不敬どころではないアルシレイスの言葉に、ディアンは静かに言った。見る者が見ればわかる。誰がこの国のあるじなのか。
 「我々王族は、ディレイガルドの駒だよ」
 その場の全員がキョトンとした。言っている意味がわからない。アルシレイスなど、王家はディレイガルドの犬だとまで言ったにも拘わらず、だ。頭が、理解しようとしない。何を言われたのだろう。そんな困惑を余所に、ディアンは嗤う。
 「不敬罪には問わないよ。なぜならおまえたちの運命は、もう決まっている・・・・・・・・

*~*~*~*~*

 ディアンがアルシレイスたちと話をしている頃。
 「今夜護送が到着するだろう。おまえたちで対応をしろ」
 畏まりました、と双子は頭を下げる。ディレイガルドを名乗る者として、このくらいの対応はそつなくこなせなくてはならない。エリアストとアリスは出掛けるため留守にする、という意味であることも同時に理解している。
 エリアストは、初めてのことはすべてアリスと二人きりで思い出を共有する。それを邪魔する無粋なやからはここにはいない。二人の子どもとは言え、いや、二人の子どもだからこそ、両親の時間の邪魔をしない。不可侵の領域を、間違えたりしない。
 エリアストはそれだけ言うと、席を立った。湯浴みをしているアリスがもうすぐ戻ってくる。その前にエリアストも湯浴みを済ませるためだ。
 エリアストが部屋を出ると、双子は話し始めた。
 「たくさん実験体が手に入った」
 ノアリアストが薄く笑う。
 「あの部屋、暫く賑やかになる」
 王城の地下部屋を思い、ダリアも薄く笑う。
 「リカリエットのあの二人、まだ壊れてないんでしょ」
 「壊れてないよ。さすがお父様だ」
 「昔やり過ぎて早々に壊したって聞いた。その女が弱すぎたっていうのもあるみたいだけど」
 「学園に通っていた頃、お母様を攫ったっていうゴミの」
 「拷問にかけて正気を取り戻させたって言うのも凄い」
 「私にも出来るかな」
 「やってみよう、ディア」
 「そうだね。たくさん実験体、いるからね、ノア」


 「今日はとても天気がいい。エルシィ、夜は星を見に行こう」
 アリスにそう伝えていたので、早めの入浴となった。伝えたときのアリスの反応が可愛すぎた。
 「まあっ。はい、はい。参りましょう、参りましょう、エル様」
 アリスがキラキラと輝く瞳で喜んでくれた。あまりの可愛さに、エリアストは自身の顔を押さえる。
 このまま部屋に閉じ込めてしまいたい。
 そんな欲望と葛藤する羽目になった。



*最終話へつづく*
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。 結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。 ソフィアは彼を愛しているのに…。 夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。 だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?! 不器用夫婦のすれ違いストーリーです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

処理中です...