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フルシュターゼの町編

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 「うううう、さ、最近短気じゃないかなあ。穏やかとは言わないけどさあ、何となく平和だったじゃんずっと」
 思わず俗っぽい言葉が出てしまう王様。王弟メラルディが苦笑する。
 「本当によくやってくださっていますよ、兄上は」
 「あ、あれほど恐ろしい人物と、本当に。兄上、凄いです」
 第二王弟カルセドも続く。
 「明日までにリスフォニア領に行かないと国が滅びる。胃が痛い」
 エリアストの護衛が、馬を取り替えながら夜通し走り抜けて王城へ来た。昨日の夕方に出たと言って今はお昼ちょっと前。あり得ない速度だ。さすがディレイガルド家の護衛と言ったところか。
 「すぐに行くよ。時間が惜しい。すまないが、後は頼んだ」
 王弟たちに仕事をぶん投げて、ディアンは着の身着のまま出発する羽目となった。
 僅かな休憩を挟みながら、何とか翌日の夕方になる前にはエリアストのもとに辿り着く。
 「遅い」
 寝ずに夜通し走り続けて頑張ったのに、開口一番これだ。魔王様は容赦がない。
 「うう、すまない。精進する」
 言い訳をすることもなく謝るディアンに、エリアストはそれ以上何も言わず、本題に入った。
 「爵位の継承についての法を変える」


 爵位の継承は血ではなく、実力とする。
 爵位に応じた最低基準を設け、そこにその家独自の条件を設ける。それを満たす者に、その爵位を継承させる。
 「子どもに継がせたいならその基準を満たすよう教育すればよい。それだけの話だ」
 「まったくの他人がディレイガルドを名乗ることもあり得ると?」
 「例外はない」
 本音を言えば、貴族制度など廃止してしまいたい。貴族の義務から解放されたアリスと二人、気ままに旅をするのもいい。たくさんの美しいものを見て、たくさんの感動を、たくさんの思い出を共に。
 ディレイガルドは、貴族でなくてはならない理由はない。爵位がなくても問題ない。むしろ、爵位が外れたときこそ、ディレイガルドの本領発揮となるだろう。エリアストは、そう、家を導いてきた。
 「基準を満たす者が現れなかったら?」
 「潰せ」
 自分の家を継承する者を育てられない家など不要。守ることも出来ない家名に価値などない。こうして貴族が減っていき、最後には貴族などいなくなってしまえ。貴族なんて縛りがなくても、仕えたいと思える者には自然と人が仕えるのだ。
 「わかりました。そうしましょう。愚か者が減れば、国民も豊かになる。無能が上に立つと下が苦労する」
 そこまでわかっていて何故貴族制度を廃止しないのか。何事も急な変化は受け入れられない。特に特権階級の者たちは、保身に走るため反発が酷い。少しずつ、緩やかに変化をさせることが理想だが、この法案は緩やかなものではない。だが、突然廃止にするよりずっと現実的だ。
 「ところでアルシレイス公爵家とそのお連れさんたちはどこへ?」
 エリアストは視線を外に向けた。どうやらもう一つの宿の方にいるらしい。もちろん、逃げ出さないよう護衛を張り付かせている。
 「あの、い、生きています、よね?」
 ディアンの言葉に、当然だろうとエリアストは眉をひそめた。
 「そうですよね。いくらなんでも」
 「死は慈悲だ。そんなもの、くれてやるはずがないだろう」
 ディアンの言葉に被せるように言ったエリアストを見る。
 え?死ぬ方がマシなの?
 「何だ」
 「えっと、いえ、何でもありません」
 そう言えばそうだったな、と城の地下にある部屋を思い浮かべつつ、ディアンは苦笑いを浮かべた。
 「あの者たちをどうするのですか?」
 「知れたこと」
 はい、公爵家はお取り潰しですね。お連れさんたちの家は降格ですね。宿に押し込まれている全員、ディレイガルドに生殺与奪の権利を与えろ、と。
 「かしこまりました」
 手続きが大変だなあ、城に帰ったら荒れるよなー。法案も含めて。次の議会までにまとめてー、来年中には成立させないとやべー。でもそれで済んで良かったと思おう。
 そうディアンが思っていると。
 「あんな者たちに爵位を与えてのさばらせた貴様らの罪は重い」
 「ゑ?」
 突然矛先が向いて、変な声が出たディアン。
 「いやいやいやいや、私が与えたわけではないですよっ。代々続いて」
 「あんな者を代々続かせた貴様ら王族の罪だと言っている」
 「え、嘘」



*つづく*
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