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フルシュターゼの町編
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街から馬車で二十分ほどの場所に、大きな森がある。その三分の二ほどが、フルシュターゼの町域だ。隣町域の程近くに、目的のものがある。馬が通れる程度の幅分だけ、道が綺麗に整備されている。環境保全のため、馬車では通れないようにしてあった。
森に入ると、少し空気がひんやりしていた。
エリアストは、アリスの頭に掛けていたショールを肩に掛け直してやる。お礼を言って微笑むアリスに、エリアストも微笑んだ。
「ああ、ほら、エルシィ。あれが始まりの樹と言われているものだ」
他の木々に遮られ、今はその幹しか見えない。けれど、かなりの大きさであることがわかる。近付くにつれ、その樹の大きさがとんでもないとわかる。大きすぎて全貌が見えない。周囲の木々をどれほど伐採すれば、全体を見ることが出来るのだろう。
大樹のお膝元。大人十人が手を繋いで囲っても、とても囲いきれないどっしりとした極太の幹。
「これは、何と言う…」
始まりの樹。
この世界、すべての生命の源と言われるほど、太古の昔から存在する大樹。悠久の時を見守り続け、今も尚、青々と雄々しく葉を茂らせている。
言葉を失ったアリスを馬から下ろし、その大樹にゆっくり近付く。見上げると、大樹は優しく枝を揺らし、二人を歓迎しているようだった。
「エルシィ」
言葉を詰まらせ、涙を流すアリスを後ろから抱き締め、頬を伝う涙を舐めとる。
「エル様、素晴らしいですねえ」
ボロボロと涙を零しながら、その大樹から目が離せない。圧倒的なその存在に、体が歓喜に震える。
「ああ、これは凄いな。何故だか、懐かしく感じられる」
エリアストも大樹を仰ぎ見、不思議な感覚に包まれていた。
これほど大きく圧倒的な存在であるにも関わらず、威圧的ではない。とても優しい、大きな愛に包まれているようだ。
まるで、アリスのような。
二人は、ただ無言で長いこと大樹を見つめていた。
*~*~*~*~*
「お母様にお土産を選びたいわ」
「ここの特産は何だろう」
「密かな名所はあるけれど、特産はないのではないかしら」
そんな話をしながら、馬でゆっくり街中を見ているノアリアストとダリア。人々は口を開けたまま二人を凝視する。人外の美貌が二つある。
着替えをしていたため、エリアストたちより遅れて街に到着した。馬を預けてゆっくり見て回ろうと、厩を探している。メイン通りも終わろうという場所に、ようやく目的のものを見つけた。
厩の主は美貌の二人に声が出せず、ただ頷いて了承することしか出来なかった。
「こ、こんな立派な馬、何かあったらどうしたらいいんだ」
二人を見た衝撃から立ち直った後、主は頭を抱えた。
「ん?何だこれは。おい、これは何だ」
横柄な態度の子どもに、店主はぺこぺこと頭を下げながら商品の説明をしている。イグルーシャ侯爵家の人間だ。間違いがあってはただでは済まない。街の人に限った話ではないが、イグルーシャ家の横暴さはよく耳にする。この町がイグルーシャの領地ではないことに感謝することもしばしば。そんな侯爵家が、何故か今、リスフォニア領であるフルシュターゼに訪れている。この人たちも星でも見に来たのだろうか。街の人たちはヒソヒソとそんな話をしていた。
イグルーシャの子どもたちが買い物を楽しんでいると、末っ子のカトリーナが興奮した声で兄姉を呼ぶ。
「お兄様、お姉様、凄い、凄いですっ」
「どうしたカトリーナ」
そう言って顔を上げたアイルは時が止まった。つられてツイーナとサーレンも視線の方向に目をやり、固まる。
美の化身が、そこにはいた。
*つづく*
森に入ると、少し空気がひんやりしていた。
エリアストは、アリスの頭に掛けていたショールを肩に掛け直してやる。お礼を言って微笑むアリスに、エリアストも微笑んだ。
「ああ、ほら、エルシィ。あれが始まりの樹と言われているものだ」
他の木々に遮られ、今はその幹しか見えない。けれど、かなりの大きさであることがわかる。近付くにつれ、その樹の大きさがとんでもないとわかる。大きすぎて全貌が見えない。周囲の木々をどれほど伐採すれば、全体を見ることが出来るのだろう。
大樹のお膝元。大人十人が手を繋いで囲っても、とても囲いきれないどっしりとした極太の幹。
「これは、何と言う…」
始まりの樹。
この世界、すべての生命の源と言われるほど、太古の昔から存在する大樹。悠久の時を見守り続け、今も尚、青々と雄々しく葉を茂らせている。
言葉を失ったアリスを馬から下ろし、その大樹にゆっくり近付く。見上げると、大樹は優しく枝を揺らし、二人を歓迎しているようだった。
「エルシィ」
言葉を詰まらせ、涙を流すアリスを後ろから抱き締め、頬を伝う涙を舐めとる。
「エル様、素晴らしいですねえ」
ボロボロと涙を零しながら、その大樹から目が離せない。圧倒的なその存在に、体が歓喜に震える。
「ああ、これは凄いな。何故だか、懐かしく感じられる」
エリアストも大樹を仰ぎ見、不思議な感覚に包まれていた。
これほど大きく圧倒的な存在であるにも関わらず、威圧的ではない。とても優しい、大きな愛に包まれているようだ。
まるで、アリスのような。
二人は、ただ無言で長いこと大樹を見つめていた。
*~*~*~*~*
「お母様にお土産を選びたいわ」
「ここの特産は何だろう」
「密かな名所はあるけれど、特産はないのではないかしら」
そんな話をしながら、馬でゆっくり街中を見ているノアリアストとダリア。人々は口を開けたまま二人を凝視する。人外の美貌が二つある。
着替えをしていたため、エリアストたちより遅れて街に到着した。馬を預けてゆっくり見て回ろうと、厩を探している。メイン通りも終わろうという場所に、ようやく目的のものを見つけた。
厩の主は美貌の二人に声が出せず、ただ頷いて了承することしか出来なかった。
「こ、こんな立派な馬、何かあったらどうしたらいいんだ」
二人を見た衝撃から立ち直った後、主は頭を抱えた。
「ん?何だこれは。おい、これは何だ」
横柄な態度の子どもに、店主はぺこぺこと頭を下げながら商品の説明をしている。イグルーシャ侯爵家の人間だ。間違いがあってはただでは済まない。街の人に限った話ではないが、イグルーシャ家の横暴さはよく耳にする。この町がイグルーシャの領地ではないことに感謝することもしばしば。そんな侯爵家が、何故か今、リスフォニア領であるフルシュターゼに訪れている。この人たちも星でも見に来たのだろうか。街の人たちはヒソヒソとそんな話をしていた。
イグルーシャの子どもたちが買い物を楽しんでいると、末っ子のカトリーナが興奮した声で兄姉を呼ぶ。
「お兄様、お姉様、凄い、凄いですっ」
「どうしたカトリーナ」
そう言って顔を上げたアイルは時が止まった。つられてツイーナとサーレンも視線の方向に目をやり、固まる。
美の化身が、そこにはいた。
*つづく*
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