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フルシュターゼの町編
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最終章開始です。最後までお付き合いくださると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
*~*~*~*~*
王都から西へ、馬車でゆっくり四日の道程。目的地はエリアストの母アイリッシュの兄、ユーシエスが治めるカイアレイン領。カイアレイン邸に一泊した後、馬車で半日かかる場所にあるカイアレインの別荘地を目指す。そこで二泊し、戻ってカイアレイン邸で一泊してから王都に帰る予定だった。だが休暇がひと月に延びたため、別荘地で二泊した後カイアレイン邸には戻らず、北へゆっくり馬車の道程三日の場所にある、リスフォニア領を目指す。エリアストの父の友人だというリスフォニア当主ベリルに挨拶後、さらに北東へ三時間。リスフォニア領フルシュターゼという街でしばらく滞在予定となる。街から馬車では行けない場所が、噂で聞いた場所だ。馬で二時間かかるという。
予定の変更に各所早馬を走らせてある。準備で一日費やしたが、アリスの体を慮っての、ゆっくりすぎるほどゆっくりの日程。そのため、最初の目的地であるカイアレイン邸へは、普通に行けば三日かからない道程なので、そこの変更はさせないようにした。エリアストは、そんな強行で本当に大丈夫かと心配そうにしていたが、強行でも何でもない。だが、溢れ出るエリアストの気遣いに、アリスは嬉しそうに微笑んだ。
「エル様とのお出かけに、時が経つのも忘れるでしょう。ふふ。たくさんお話しいたしましたのに、もっともっとお話し出来るのですね」
本当に、移動時間なんてないに等しいに違いありません、と嬉しさを隠せない様子で、アリスの声はいつも以上に弾んでいた。
可愛くて、愛しくて。アリスがそこにいるだけで、その幸せに涙が出そうになる。
「エルシィ」
抱き締めて、くちづける。
恥ずかしそうに頬を染めるアリスの手が、エリアストの胸の辺りの服をキュッと掴んだ。
*~*~*~*~*
「遠いところよく来たね。ここへ来るのは随分久しぶりではないか、エリアスト」
「そうなりますか、伯父上」
「そうだよ。もっと顔を見せに来てくれ。夫人も子どもたちも疲れただろう。ゆっくり休むといい」
「式典後でお疲れのところ、申し訳ありません。カイアレイン侯爵様、カイアレイン侯爵夫人様、お世話になります」
「まあまあ、みなさま、お揃いで嬉しいわ。あなたたちに会えて、疲れなんてどこかへ行ってしまったわ。さあさあ、立ち話も何です、サロンにお茶を用意しておりますのよ。参りましょう参りましょう」
夫人はアリスの手を取ると、子どものようにはしゃいでサロンへ案内をする。ふくよかな体型の夫人の動きは機敏だ。驚くほど身のこなしが軽い。いつも穏やかに微笑んでいるが、怒らせたらやべー人物トップ3に必ずランクインする人物。式典での出来事も、格闘技を観戦する人物のようだったと、見ていた者が青ざめながら証言していたという。そんな夫人は、アリスを娘のように可愛がっている。月に一度は必ず手紙のやり取りも行っている。
「ご予定も狂わせてしまい、大変申し訳ありません」
アリスの謝罪に、夫人は軽快に笑う。
「それはまったく構わないわよぉ。でも、残念だわ。アリスちゃんとお話し出来る日が一日少なくなってしまったのですもの。変更後のご予定を伺っても差し支えないかしら」
「はい。フルシュターゼの町に伺います」
「まあ、そうだったの。リスフォニア伯のところね」
「はい」
ユーシエスが不思議そうに返す。
「また随分遠くへ足を伸ばすね。何かあったかな、あそこ」
「あら、旦那様はご存じないのですか?」
夫人が目を丸くする。
「キミの情報網が凄すぎるんだよ」
「まあまあ、うふふ。あの地では、とても素敵なものが見られるそうですわよ」
*~*~*~*~*
四頭立ての豪奢な馬車を真ん中に、七台の立派な馬車がフルシュターゼの町をゆっくり走る。道行く人々は足を止め、その壮麗な馬車に感嘆の息を漏らす。
「なんだなんだ。随分立派な馬車だな」
「領主様だってあんなに立派な馬車はお持ちじゃないだろう?」
「とても高貴な方が乗ってらっしゃるんだろうよ」
「こんな田舎町に高貴な方ってことは」
「そうだよ、あれじゃないか?」
「この町の密かな名物かい?」
「そうそう。星が降るのを見に来たんだよ」
*つづく*
よろしくお願いいたします。
*~*~*~*~*
王都から西へ、馬車でゆっくり四日の道程。目的地はエリアストの母アイリッシュの兄、ユーシエスが治めるカイアレイン領。カイアレイン邸に一泊した後、馬車で半日かかる場所にあるカイアレインの別荘地を目指す。そこで二泊し、戻ってカイアレイン邸で一泊してから王都に帰る予定だった。だが休暇がひと月に延びたため、別荘地で二泊した後カイアレイン邸には戻らず、北へゆっくり馬車の道程三日の場所にある、リスフォニア領を目指す。エリアストの父の友人だというリスフォニア当主ベリルに挨拶後、さらに北東へ三時間。リスフォニア領フルシュターゼという街でしばらく滞在予定となる。街から馬車では行けない場所が、噂で聞いた場所だ。馬で二時間かかるという。
予定の変更に各所早馬を走らせてある。準備で一日費やしたが、アリスの体を慮っての、ゆっくりすぎるほどゆっくりの日程。そのため、最初の目的地であるカイアレイン邸へは、普通に行けば三日かからない道程なので、そこの変更はさせないようにした。エリアストは、そんな強行で本当に大丈夫かと心配そうにしていたが、強行でも何でもない。だが、溢れ出るエリアストの気遣いに、アリスは嬉しそうに微笑んだ。
「エル様とのお出かけに、時が経つのも忘れるでしょう。ふふ。たくさんお話しいたしましたのに、もっともっとお話し出来るのですね」
本当に、移動時間なんてないに等しいに違いありません、と嬉しさを隠せない様子で、アリスの声はいつも以上に弾んでいた。
可愛くて、愛しくて。アリスがそこにいるだけで、その幸せに涙が出そうになる。
「エルシィ」
抱き締めて、くちづける。
恥ずかしそうに頬を染めるアリスの手が、エリアストの胸の辺りの服をキュッと掴んだ。
*~*~*~*~*
「遠いところよく来たね。ここへ来るのは随分久しぶりではないか、エリアスト」
「そうなりますか、伯父上」
「そうだよ。もっと顔を見せに来てくれ。夫人も子どもたちも疲れただろう。ゆっくり休むといい」
「式典後でお疲れのところ、申し訳ありません。カイアレイン侯爵様、カイアレイン侯爵夫人様、お世話になります」
「まあまあ、みなさま、お揃いで嬉しいわ。あなたたちに会えて、疲れなんてどこかへ行ってしまったわ。さあさあ、立ち話も何です、サロンにお茶を用意しておりますのよ。参りましょう参りましょう」
夫人はアリスの手を取ると、子どものようにはしゃいでサロンへ案内をする。ふくよかな体型の夫人の動きは機敏だ。驚くほど身のこなしが軽い。いつも穏やかに微笑んでいるが、怒らせたらやべー人物トップ3に必ずランクインする人物。式典での出来事も、格闘技を観戦する人物のようだったと、見ていた者が青ざめながら証言していたという。そんな夫人は、アリスを娘のように可愛がっている。月に一度は必ず手紙のやり取りも行っている。
「ご予定も狂わせてしまい、大変申し訳ありません」
アリスの謝罪に、夫人は軽快に笑う。
「それはまったく構わないわよぉ。でも、残念だわ。アリスちゃんとお話し出来る日が一日少なくなってしまったのですもの。変更後のご予定を伺っても差し支えないかしら」
「はい。フルシュターゼの町に伺います」
「まあ、そうだったの。リスフォニア伯のところね」
「はい」
ユーシエスが不思議そうに返す。
「また随分遠くへ足を伸ばすね。何かあったかな、あそこ」
「あら、旦那様はご存じないのですか?」
夫人が目を丸くする。
「キミの情報網が凄すぎるんだよ」
「まあまあ、うふふ。あの地では、とても素敵なものが見られるそうですわよ」
*~*~*~*~*
四頭立ての豪奢な馬車を真ん中に、七台の立派な馬車がフルシュターゼの町をゆっくり走る。道行く人々は足を止め、その壮麗な馬車に感嘆の息を漏らす。
「なんだなんだ。随分立派な馬車だな」
「領主様だってあんなに立派な馬車はお持ちじゃないだろう?」
「とても高貴な方が乗ってらっしゃるんだろうよ」
「こんな田舎町に高貴な方ってことは」
「そうだよ、あれじゃないか?」
「この町の密かな名物かい?」
「そうそう。星が降るのを見に来たんだよ」
*つづく*
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