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リカリエット王国編
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レイガードの王城の地下には、牢屋の他に、もう一つ部屋があった。
壁から伸びた鎖が、シャルアとミカレイラの四肢を拘束している。武器のようなものを手にしては置き、をエリアストは繰り返している。わかるものにはわかる。エリアストが品定めをしているのは拷問具。この部屋には、あらゆる拷問具が揃っていた。
「た、頼む、助けてくれ。何でもする。何でもするから」
シャルアが震えながら命乞いをする。その手で数え切れないほどの無慈悲なことをしてきたというのに、いざ自分にその役割が回ってきたらこの有様だ。
安全な場所で好き放題やって来た。常に自分は狩る側。狩られる側になるなんて、露程も思わない。
「安心しろ。私は貴様と違って殺しはしない」
足の腱を切られたため、膝立ちのシャルアの髪を掴んで視線を合わせる。
「よく見ておけ。そこの女が何をされるのか。よく、見ておけ」
そう言って、エリアストはシャルアから離れる。
目を切り裂かれ、視力を失ったミカレイラは、状況がまったくわからずただ怯えていた。
「もともと見えていた者が視力を失うと、知っているだけに、想像力が豊かになる」
ミカレイラが人の気配を感じたかと思うと、その両頬を片手で掴まれた。
「これから行うことを教えてやろう」
エリアストが口にすることが、実際に行われる。実際の何倍もの恐怖を、痛みを、脳が勝手に作り出す。何度も気を失い、何度も叩き起こされ、終わりのない地獄のような苦痛に苛まれる。
「壊れてしまってはつまらん」
一旦休憩だ、そう言ってエリアストはミカレイラから離れた。
シャルアは目が離せなかった。自分の性癖もどうかと思っていたが、自分など大概だと思えた。気を失っても尚、縫合された目から血の涙を流し続けるミカレイラを見て、自分は一体何をされるのかと恐怖に震える。エリアストの手には、ミカレイラの時とは違う拷問具がある。そっとエリアストの顔を伺う。何の感情もない目が見下ろしている。
エリアストは、シャルアの髪を掴んでその顔を覗き込む。
「五感を奪うようなことはせん」
五感すべてで恐怖を、苦痛を感じろ。
「私は貴様のように優しくはない」
間違っても死ぬようなことはない。
「殺してくれと頼まれたって、殺してやらん」
そんな慈悲、くれてなどやるものか。
「なるほど。あのようなやり方もあるのですね、父上」
ノアリアストが、勉強になりますと頭を下げる。
「お母様に害を及ぼそうなど、考えただけで加減が出来ません」
ダリアは凍てつく空気を纏っている。
二人はディレイガルドの血を継いでいる。あらゆる経験を自身の血肉にしなくてはならない。今回は、非常に勉強になる出来事だ。大切な人を狙われ、それでも感情に流されずに成すべきことを成せるか。
「その通りだ。だがよく覚えておけ。死は慈悲だと」
慈悲をくれてやるつもりか、とエリアストは言外に二人に問う。
「もっと、感情のコントロールを学びますわ」
「同じく、よく自分と向き合いたいと思います」
誰の目にも明らかなほど、エリアストのすべてはアリスにある。そのエリアストが、感情の赴くままに嬲り殺さないことが、二人には不思議でならない。死は慈悲だと言う。あの執拗な責め苦を見た者は、確かにそう思うだろう。実際この二人もそうだ。
そうなのだが。
エリアストは、どれほどの激情を抑え込んでいるのか。二人はますますエリアストに畏敬の念を抱いたのだった。
*最終話へつづく*
壁から伸びた鎖が、シャルアとミカレイラの四肢を拘束している。武器のようなものを手にしては置き、をエリアストは繰り返している。わかるものにはわかる。エリアストが品定めをしているのは拷問具。この部屋には、あらゆる拷問具が揃っていた。
「た、頼む、助けてくれ。何でもする。何でもするから」
シャルアが震えながら命乞いをする。その手で数え切れないほどの無慈悲なことをしてきたというのに、いざ自分にその役割が回ってきたらこの有様だ。
安全な場所で好き放題やって来た。常に自分は狩る側。狩られる側になるなんて、露程も思わない。
「安心しろ。私は貴様と違って殺しはしない」
足の腱を切られたため、膝立ちのシャルアの髪を掴んで視線を合わせる。
「よく見ておけ。そこの女が何をされるのか。よく、見ておけ」
そう言って、エリアストはシャルアから離れる。
目を切り裂かれ、視力を失ったミカレイラは、状況がまったくわからずただ怯えていた。
「もともと見えていた者が視力を失うと、知っているだけに、想像力が豊かになる」
ミカレイラが人の気配を感じたかと思うと、その両頬を片手で掴まれた。
「これから行うことを教えてやろう」
エリアストが口にすることが、実際に行われる。実際の何倍もの恐怖を、痛みを、脳が勝手に作り出す。何度も気を失い、何度も叩き起こされ、終わりのない地獄のような苦痛に苛まれる。
「壊れてしまってはつまらん」
一旦休憩だ、そう言ってエリアストはミカレイラから離れた。
シャルアは目が離せなかった。自分の性癖もどうかと思っていたが、自分など大概だと思えた。気を失っても尚、縫合された目から血の涙を流し続けるミカレイラを見て、自分は一体何をされるのかと恐怖に震える。エリアストの手には、ミカレイラの時とは違う拷問具がある。そっとエリアストの顔を伺う。何の感情もない目が見下ろしている。
エリアストは、シャルアの髪を掴んでその顔を覗き込む。
「五感を奪うようなことはせん」
五感すべてで恐怖を、苦痛を感じろ。
「私は貴様のように優しくはない」
間違っても死ぬようなことはない。
「殺してくれと頼まれたって、殺してやらん」
そんな慈悲、くれてなどやるものか。
「なるほど。あのようなやり方もあるのですね、父上」
ノアリアストが、勉強になりますと頭を下げる。
「お母様に害を及ぼそうなど、考えただけで加減が出来ません」
ダリアは凍てつく空気を纏っている。
二人はディレイガルドの血を継いでいる。あらゆる経験を自身の血肉にしなくてはならない。今回は、非常に勉強になる出来事だ。大切な人を狙われ、それでも感情に流されずに成すべきことを成せるか。
「その通りだ。だがよく覚えておけ。死は慈悲だと」
慈悲をくれてやるつもりか、とエリアストは言外に二人に問う。
「もっと、感情のコントロールを学びますわ」
「同じく、よく自分と向き合いたいと思います」
誰の目にも明らかなほど、エリアストのすべてはアリスにある。そのエリアストが、感情の赴くままに嬲り殺さないことが、二人には不思議でならない。死は慈悲だと言う。あの執拗な責め苦を見た者は、確かにそう思うだろう。実際この二人もそうだ。
そうなのだが。
エリアストは、どれほどの激情を抑え込んでいるのか。二人はますますエリアストに畏敬の念を抱いたのだった。
*最終話へつづく*
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