35 / 79
リカリエット王国編
5
しおりを挟む
残酷な表現があります。ご注意ください。
*~*~*~*~*
「いいのか、あれ」
引きつった顔でヴァイアツェルトが言うと、ライリアストは相変わらず微笑んだまま、
「どうせ殿下の国にのまれるでしょう。そんな王族に何か配慮がいりますか?」
そう言った。
「私の国に?何を知っているんだ、おまえたちは」
ライリアストもディアンもただ笑うだけ。ヴァイアツェルトは仕方なく成り行きを見守ることにした。
一方、シャルアとミカレイラは戦慄する。他国の王太子を、何もしていない王太子を害するなど、あり得ない。この男は危険だ。
何より確信している。
エリアストは、確信しているのだ。自分たちがアリスに何かをしようとしていると。
言葉など関係ない。何を言っても無駄だ。逃げるしかない。
シャルアは踵を返すと走り出した。
それは、肯定である。
アリスを害そうとした、と。
エリアストの体がぶれた。
エリアストは逃げるシャルアに一瞬で追いつく。その後ろ衿を掴むと、そのまま引っ張り後方へ投げた。シャルアはテーブルに乗り上げ、料理が派手な音と共に床に落ちる。勢い、シャルアも床に転げ落ちた。
シャルアは急ぎ立ち上がろうと床についた手を、いつの間にかそこにいたエリアストに踏みつけられた。
「いっ、あっ」
シャルアは手を引き抜こうともう片方の手で引っ張るが、微動だにしない。それどころか、益々圧がかかる。そして。
「ああああああ゛あ゛っ」
骨が無数に折れる音がした。
エリアストは踏みつけた右手の二の腕を、側の護衛から受け取った剣で床に縫い付ける。絶叫が響いた。
エリアストの表情はない。
足を離すと、今度は背中を踏みつける。ミシリと嫌な音がする。シャルアの顔は、痛みと恐怖からいろいろな液体が混ざって大惨事だ。構わずエリアストは、シャルアの左腕を持ち上げる。シャルアは背中を踏みつけられているため、足をバタバタとさせることしか出来ない。
「やめ、やめろっ、やめてくれえっ」
ゴキン。
肩が外れたのではない。折れた。ついでとばかりに肘も折る。シャルアはあまりのことに、泡を吹いて意識を失った。それを見てエリアストはシャルアの腕から剣を抜くと、その両足の腱を切り裂いた。目覚めても逃げられないように。
他国の人々は、逃げ遅れて見てしまった。そしてその容赦のなさに、躊躇いのなさに、震えた。動かない足を叱咤しホールから出ようとするが、体がいうことをきかない。中には倒れた者もいた。
表情のないエリアストが振り向く。
その目は、腰を抜かしてガタガタと震えるミカレイラを見た。シャルアの血が流れるままの剣を手に、コツコツと近付くエリアスト。それに、首を振って涙を流しながら、ミカレイラはズリズリと後退する。トン、と背中が壁に当たる。
見誤った。完全に誤算だった。
シャルアの残酷性に慣れていたが、自分が獲物となると、酷く恐ろしい。エリアストの静かな殺気もまた、恐ろしさに拍車がかかる。
美しく残酷なディレイガルド。
愛する妻が、逆鱗である。
その噂は、本物であった。
*つづく*
*~*~*~*~*
「いいのか、あれ」
引きつった顔でヴァイアツェルトが言うと、ライリアストは相変わらず微笑んだまま、
「どうせ殿下の国にのまれるでしょう。そんな王族に何か配慮がいりますか?」
そう言った。
「私の国に?何を知っているんだ、おまえたちは」
ライリアストもディアンもただ笑うだけ。ヴァイアツェルトは仕方なく成り行きを見守ることにした。
一方、シャルアとミカレイラは戦慄する。他国の王太子を、何もしていない王太子を害するなど、あり得ない。この男は危険だ。
何より確信している。
エリアストは、確信しているのだ。自分たちがアリスに何かをしようとしていると。
言葉など関係ない。何を言っても無駄だ。逃げるしかない。
シャルアは踵を返すと走り出した。
それは、肯定である。
アリスを害そうとした、と。
エリアストの体がぶれた。
エリアストは逃げるシャルアに一瞬で追いつく。その後ろ衿を掴むと、そのまま引っ張り後方へ投げた。シャルアはテーブルに乗り上げ、料理が派手な音と共に床に落ちる。勢い、シャルアも床に転げ落ちた。
シャルアは急ぎ立ち上がろうと床についた手を、いつの間にかそこにいたエリアストに踏みつけられた。
「いっ、あっ」
シャルアは手を引き抜こうともう片方の手で引っ張るが、微動だにしない。それどころか、益々圧がかかる。そして。
「ああああああ゛あ゛っ」
骨が無数に折れる音がした。
エリアストは踏みつけた右手の二の腕を、側の護衛から受け取った剣で床に縫い付ける。絶叫が響いた。
エリアストの表情はない。
足を離すと、今度は背中を踏みつける。ミシリと嫌な音がする。シャルアの顔は、痛みと恐怖からいろいろな液体が混ざって大惨事だ。構わずエリアストは、シャルアの左腕を持ち上げる。シャルアは背中を踏みつけられているため、足をバタバタとさせることしか出来ない。
「やめ、やめろっ、やめてくれえっ」
ゴキン。
肩が外れたのではない。折れた。ついでとばかりに肘も折る。シャルアはあまりのことに、泡を吹いて意識を失った。それを見てエリアストはシャルアの腕から剣を抜くと、その両足の腱を切り裂いた。目覚めても逃げられないように。
他国の人々は、逃げ遅れて見てしまった。そしてその容赦のなさに、躊躇いのなさに、震えた。動かない足を叱咤しホールから出ようとするが、体がいうことをきかない。中には倒れた者もいた。
表情のないエリアストが振り向く。
その目は、腰を抜かしてガタガタと震えるミカレイラを見た。シャルアの血が流れるままの剣を手に、コツコツと近付くエリアスト。それに、首を振って涙を流しながら、ミカレイラはズリズリと後退する。トン、と背中が壁に当たる。
見誤った。完全に誤算だった。
シャルアの残酷性に慣れていたが、自分が獲物となると、酷く恐ろしい。エリアストの静かな殺気もまた、恐ろしさに拍車がかかる。
美しく残酷なディレイガルド。
愛する妻が、逆鱗である。
その噂は、本物であった。
*つづく*
101
お気に入りに追加
548
あなたにおすすめの小説
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます
刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる