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リカリエット王国編
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「毒か」
箱を開けて中を見、それの匂いを確かめたエリアストは言った。
周囲はざわめく。
シャルアとミカレイラは目を見開く。人間の嗅覚ではほぼわからないような、微かな匂い。小さな箱に閉じ込めていたとはいえ、籠もるほどの匂いを発するものではない。
「な、にを、仰いますの?こんな、小さな子が、そんなこと」
「エルシィをどうする気だった」
ミカレイラの言葉に、エリアストは被せた。
気温が下がったような錯覚に、思わず二人は後退る。
ライリアストとアイリッシュがエリアストたちの側に来た。
「アリス嬢になにかしようって輩、ホントキリがないねぇ」
国内ではだいぶ鳴りをひそめてはいるが、いなくならない不思議。国外になると、ディレイガルドを知らない分、より顕著だ。
「アリスちゃん、ほんわか優しい雰囲気ですもの。見た目に騙されるおバカさんが多いのではなくて?」
「なるほど。目に見えるモノだけを信じるバカばかりというわけだ」
今回のそのバカは、リカリエット王国第四王子シャルアとその婚約者ミカレイラ。
「目に見えるモノでしか図れない国は滅ぶ。彼の国は風前の灯火と言うわけだ」
背後の声に振り返ると、シュヴァルタイン帝国皇太子ヴァイアツェルトが口の端を上げて立っていた。その隣にディアンもいる。
「これは、皇太子殿下に陛下。愚息が騒がせそうで申し訳ありません」
ライリアストが頭を下げると、周囲も、ヴァイアツェルトとディアンの登場に頭を下げる。
「よい。ディレイガルド前当主よ。なんの余興が始まるのだろうな」
「市井で流行の恋愛劇でしょうか」
ヴァイアツェルトの言葉にライリアストがそう返すと、
「かなり過激なものになりそうだ」
とディアンが苦笑いをした。ライリアストは笑う。そして、仕方がないな、と言うように、会場の全員に声をかけた。
「私の愚息がお怒りのようだ。あまり目に優しくないことが起きそうだから、どうぞこのホールから出た方がよろしいかと」
言っていることと顔が合っていない。ライリアストは微笑んでいる。
「まあ、愚か者の末路が見たい方はどうぞ。何の保障もありませんが」
エリアストの残酷性を知る者たちは、そそくさとホールを後にする。魔王様が降臨している。魔王様が降臨している!
他国の人々は戸惑う。何が起きているのか。わからないまま目にしてしまった。エリアストの狂気を。
「わ、わたくしたちが、何をしたと?子どもが悪意なく渡した物ではございませんか」
リーナに持たせた物は、ブローチだ。そのブローチには仕掛けがしてあり、その仕掛けの中に、毒が仕込んであった。致死の毒ではない。体が痺れるものだ。揮発性の毒で、すぐに空気に混じって薄れてしまい効果はなくなるが、胸元に飾って側で嗅ぎ続けると、一定時間で効果が出る。子どもにかなり心を砕いているというアリスであれば、リーナにお願いされればその場で包みを開け、ブローチを飾る。そして毒にあてられ、控え室で休んでいる隙に攫おうと考えていた。それを、横からエリアストが奪うものだから焦った。
その焦りを、エリアストは見逃さなかった。
「エルシィをどうする気だったのかと訊いている。同じことを言わせるな」
そこへリカリエット王国の王太子夫妻が駆けつけた。リーナがいることに驚き、シャルアとミカレイラの姿に驚く。
王太子妃に子どもを連れて出るようアリスが促す。王太子妃は不安そうにしながら頭を下げてホールを出た。ファナトラタ家も何とか説得をして出てもらえた。
「これは、一体、何があったのでしょう」
大人しい二人だ。何かに巻き込まれたと思った王太子は、シャルアにも声をかける。
「シャルア、どうした。何があった。大丈夫か?」
「黙れ。邪魔だ」
王太子が横に吹き飛んだ。
*つづく*
箱を開けて中を見、それの匂いを確かめたエリアストは言った。
周囲はざわめく。
シャルアとミカレイラは目を見開く。人間の嗅覚ではほぼわからないような、微かな匂い。小さな箱に閉じ込めていたとはいえ、籠もるほどの匂いを発するものではない。
「な、にを、仰いますの?こんな、小さな子が、そんなこと」
「エルシィをどうする気だった」
ミカレイラの言葉に、エリアストは被せた。
気温が下がったような錯覚に、思わず二人は後退る。
ライリアストとアイリッシュがエリアストたちの側に来た。
「アリス嬢になにかしようって輩、ホントキリがないねぇ」
国内ではだいぶ鳴りをひそめてはいるが、いなくならない不思議。国外になると、ディレイガルドを知らない分、より顕著だ。
「アリスちゃん、ほんわか優しい雰囲気ですもの。見た目に騙されるおバカさんが多いのではなくて?」
「なるほど。目に見えるモノだけを信じるバカばかりというわけだ」
今回のそのバカは、リカリエット王国第四王子シャルアとその婚約者ミカレイラ。
「目に見えるモノでしか図れない国は滅ぶ。彼の国は風前の灯火と言うわけだ」
背後の声に振り返ると、シュヴァルタイン帝国皇太子ヴァイアツェルトが口の端を上げて立っていた。その隣にディアンもいる。
「これは、皇太子殿下に陛下。愚息が騒がせそうで申し訳ありません」
ライリアストが頭を下げると、周囲も、ヴァイアツェルトとディアンの登場に頭を下げる。
「よい。ディレイガルド前当主よ。なんの余興が始まるのだろうな」
「市井で流行の恋愛劇でしょうか」
ヴァイアツェルトの言葉にライリアストがそう返すと、
「かなり過激なものになりそうだ」
とディアンが苦笑いをした。ライリアストは笑う。そして、仕方がないな、と言うように、会場の全員に声をかけた。
「私の愚息がお怒りのようだ。あまり目に優しくないことが起きそうだから、どうぞこのホールから出た方がよろしいかと」
言っていることと顔が合っていない。ライリアストは微笑んでいる。
「まあ、愚か者の末路が見たい方はどうぞ。何の保障もありませんが」
エリアストの残酷性を知る者たちは、そそくさとホールを後にする。魔王様が降臨している。魔王様が降臨している!
他国の人々は戸惑う。何が起きているのか。わからないまま目にしてしまった。エリアストの狂気を。
「わ、わたくしたちが、何をしたと?子どもが悪意なく渡した物ではございませんか」
リーナに持たせた物は、ブローチだ。そのブローチには仕掛けがしてあり、その仕掛けの中に、毒が仕込んであった。致死の毒ではない。体が痺れるものだ。揮発性の毒で、すぐに空気に混じって薄れてしまい効果はなくなるが、胸元に飾って側で嗅ぎ続けると、一定時間で効果が出る。子どもにかなり心を砕いているというアリスであれば、リーナにお願いされればその場で包みを開け、ブローチを飾る。そして毒にあてられ、控え室で休んでいる隙に攫おうと考えていた。それを、横からエリアストが奪うものだから焦った。
その焦りを、エリアストは見逃さなかった。
「エルシィをどうする気だったのかと訊いている。同じことを言わせるな」
そこへリカリエット王国の王太子夫妻が駆けつけた。リーナがいることに驚き、シャルアとミカレイラの姿に驚く。
王太子妃に子どもを連れて出るようアリスが促す。王太子妃は不安そうにしながら頭を下げてホールを出た。ファナトラタ家も何とか説得をして出てもらえた。
「これは、一体、何があったのでしょう」
大人しい二人だ。何かに巻き込まれたと思った王太子は、シャルアにも声をかける。
「シャルア、どうした。何があった。大丈夫か?」
「黙れ。邪魔だ」
王太子が横に吹き飛んだ。
*つづく*
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