上 下
34 / 78
リカリエット王国編

しおりを挟む
 「毒か」
 箱を開けて中を見、それの匂いを確かめたエリアストは言った。
 周囲はざわめく。
 シャルアとミカレイラは目を見開く。人間の嗅覚ではほぼわからないような、微かな匂い。小さな箱に閉じ込めていたとはいえ、籠もるほどの匂いを発するものではない。
 「な、にを、仰いますの?こんな、小さな子が、そんなこと」
 「エルシィをどうする気だった」
 ミカレイラの言葉に、エリアストは被せた。
 気温が下がったような錯覚に、思わず二人は後退あとじさる。
 ライリアストとアイリッシュがエリアストたちの側に来た。
 「アリス嬢になにかしようってやから、ホントキリがないねぇ」
 国内ではだいぶ鳴りをひそめてはいるが、いなくならない不思議。国外になると、ディレイガルドを知らない分、より顕著だ。
 「アリスちゃん、ほんわか優しい雰囲気ですもの。見た目に騙されるおバカさんが多いのではなくて?」
 「なるほど。目に見えるモノだけを信じるバカばかりというわけだ」
 今回のそのバカは、リカリエット王国第四王子シャルアとその婚約者ミカレイラ。
 「目に見えるモノでしか図れない国は滅ぶ。の国は風前の灯火と言うわけだ」
 背後の声に振り返ると、シュヴァルタイン帝国皇太子ヴァイアツェルトが口の端を上げて立っていた。その隣にディアンもいる。
 「これは、皇太子殿下に陛下。愚息が騒がせそう・・・・・で申し訳ありません」
 ライリアストが頭を下げると、周囲も、ヴァイアツェルトとディアンの登場に頭を下げる。
 「よい。ディレイガルド前当主よ。なんの余興・・が始まるのだろうな」
 「市井で流行はやり恋愛劇ロマンスでしょうか」
 ヴァイアツェルトの言葉にライリアストがそう返すと、
 「かなり過激なものになりそうだ」
 とディアンが苦笑いをした。ライリアストは笑う。そして、仕方がないな、と言うように、会場の全員に声をかけた。
 「私の愚息がお怒りのようだ。あまり目に優しくないことが起きそうだから、どうぞこのホールから出た方がよろしいかと」
 言っていることと顔が合っていない。ライリアストは微笑んでいる。
 「まあ、愚か者の末路が見たい方はどうぞ。何の保障もありませんが」
 エリアストの残酷性を知る者たちは、そそくさとホールを後にする。魔王様が降臨している。魔王様が降臨している!
 他国の人々は戸惑う。何が起きているのか。わからないまま目にしてしまった。エリアストの狂気を。
 「わ、わたくしたちが、何をしたと?子どもが悪意なく渡した物ではございませんか」
 リーナに持たせた物は、ブローチだ。そのブローチには仕掛けがしてあり、その仕掛けの中に、毒が仕込んであった。致死の毒ではない。体が痺れるものだ。揮発性の毒で、すぐに空気に混じって薄れてしまい効果はなくなるが、胸元に飾って側で嗅ぎ続けると、一定時間で効果が出る。子どもにかなり心を砕いているというアリスであれば、リーナにお願いされればその場で包みを開け、ブローチを飾る。そして毒にあてられ、控え室で休んでいる隙に攫おうと考えていた。それを、横からエリアストが奪うものだから焦った。
 その焦りを、エリアストは見逃さなかった。
 「エルシィをどうする気だったのかと訊いている。同じことを言わせるな」
 そこへリカリエット王国の王太子夫妻が駆けつけた。リーナがいることに驚き、シャルアとミカレイラの姿に驚く。
 王太子妃に子どもを連れて出るようアリスが促す。王太子妃は不安そうにしながら頭を下げてホールを出た。ファナトラタ家も何とか説得をして出てもらえた。
 「これは、一体、何があったのでしょう」
 大人しい二人だ。何かに巻き込まれたと思った王太子は、シャルアにも声をかける。
 「シャルア、どうした。何があった。大丈夫か?」
 「黙れ。邪魔だ」
 王太子が横に吹き飛んだ。


*つづく*
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。 結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。 ソフィアは彼を愛しているのに…。 夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。 だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?! 不器用夫婦のすれ違いストーリーです。

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!? 貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。 愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。

処理中です...