上 下
32 / 78
リカリエット王国編

しおりを挟む
 世界の王たる帝国、シュヴァルタイン。強大な軍事力と肥沃な大地、様々な文化が花開き、長い歴史を物語るように、威風堂々、帝王である姿を見せつける。
 中小国は、王族でさえ滅多に帝国の王族と交流を持てない。侯爵または公爵家との交渉となる。大国ともなれば、帝国の王族も重い腰を上げるが。
 そんな帝国だが、中小国に分類されるレイガード王国だけは、必ず王族が対応をしていた。王族の中でも、皇帝や皇太子など、トップが対応することが殆どだった。さらに、王族ではなく筆頭とは言え中小国の公爵家に、王族況して国のトップが対応することは、異例中の異例。それほど、帝国はレイガードに敬意を払っている。
 帝国はきちんと自分たちの影響力を理解している。故に、大抵のことには寛容な帝国である。だが、もちろん害意には容赦しない。

*~*~*~*~*

 レイガード王国国王ディアンの即位十五周年式典に、リカリエット王国からは、王太子夫妻と、後学のためにと第四王子シャルアとその婚約者、コーミ侯爵家のミカレイラが来訪していた。シュヴァルタイン帝国の東にある国だ。レイガード王国は帝国と隣接はしていないが、その西南西辺りに位置するため、リカリエットとの交流はほぼない。だが、大きな式典などで顔を合わせる程度の面識はあった。
 昼間の式典が終わり、会場は夜会に移る。
 ファナトラタ伯爵家やクロバレイス王国の元王女ララ、同年代たちに囲まれて談笑していたアリス。その輪の中に、可愛らしいお客様がやって来た。
 「おねえしゃま。こちりゃ、どうじょ」
 小さな女の子がニコニコとしながら、アリスの前に小さな箱を差し出した。リカリエットの王族は、赤みの強い茶色の瞳が特徴的だ。アリスがお礼を言うと、箱はエリアストが受け取った。すると慌てたようにこちらへ向かってくる二人組が目に入った。
 「申し訳ありません、ディレイガルド夫人。姪がご迷惑をおかけしませんでしたか」
 リカリエット王国第四王子シャルアと、婚約者のミカレイラだ。予想通り、この子どもはリカリエットの血縁者だった。王子の姪ということであれば、王太子夫妻の子どもだろう。
 「殿下、コーミ侯爵令嬢様、何もありませんわ。王女様からこちらをいただきましたの。いただいてしまってよろしいのでしょうか」
 二人はニッコリと笑った。
 「まあ、ディレイガルド夫人様。リーナ王女様からですの?羨ましいですわ。リーナ王女様は、我が国リカリエットでは、お気に召した者たちに贈り物をしておりましたの。ディレイガルド夫人様のお人柄に惹かれたに違いありませんわね」
 「こんなところに来てしまうとは、余程ディレイガルド夫人をお気に召した様子。ご迷惑でなければ、是非受け取っていただけると、姪も喜びます」
 夜会に子どもが出席することはない。アリスにどうしても贈り物をしたかったために、リーナが紛れ込んでしまったのだろうと言いたいようだ。
 エリアストの手に乗せられたその箱を、二人は見る。アリスに渡せという意志が感じられる。
 だが。
 慌ててやって来た二人の反応。アリスではなくエリアストが箱を受け取ったとき。エリアストは見逃さなかった。シャルアとミカレイラの反応を。


*つづく*
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。 結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。 ソフィアは彼を愛しているのに…。 夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。 だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?! 不器用夫婦のすれ違いストーリーです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

処理中です...