2 / 78
日常編
2
しおりを挟む
尾行けられている。
エリアストは、街に買い物に来ていた。注文していた品物を受け取りに出向いている。店からは届けると言われたが、アリスへのプレゼントであったため、受け取りに行くと伝えてあった。その品物を受け取り、店を出たときのことだ。そっと護衛に耳打ちをし、エリアストは歩き出した。
エリアストは誘うように路地裏に入った。
尾行けていた男たちは、しめたとばかりに路地裏に駆け込む。かなり身なりのいい貴族。それが一人で街を歩いている。なかなかこんなチャンスには出会えない。そう思って飛び込んだのに。シルクハットを目深に被り、貴族はこちらを向いて立っていた。退路を断つように、路地の入り口を馬車が塞ぎ、馬車の入り口には護衛が二人並び立つ。
四人の男は誘われたのだと悟る。
「私に何の用だ」
右手のステッキを、左の手のひらにトントンとリズミカルに打つ。
何も答えられない男たちに、エリアストは一瞬で間合いを詰め、一番前の男の左頬を掠めるようにステッキで突きを繰り出す。エリアストの動きに着いてこられなかったシルクハットが、一拍遅れて地面に落ちた。
美しいアクアマリンの双眸が、男を冷たく睨む。
「何の用だと聞いている。同じことを言わせるな」
今度はあまりの美しさに言葉が出ない。
「ふむ。耳が聞こえないのか口がきけないのか。不要なものはいらないな」
何をされるか理解をした一人の男が叫ぶ。
「かっ、金!金だ!」
エリアストは叫んだ男を見た。
「金が欲しいなら働け。私に関わるな」
その言葉に、男たちは気色ばんだ。
「どんなに働いたってスズメの涙ほどしか金は貰えねぇ!おまえら貴族が贅沢するために税金ばっかり上げやがって!」
「今着ているその上等な服一枚買うのに、オレたちがどれだけ汗水流してるか知らねぇんだ!だから平気でそんなことが言えるんだ!」
「まともに働いたって碌な稼ぎにならねぇ!だったらって!」
「金は稼ぐんじゃねぇ!奪うんだ!ある奴から、奪うもんだ!おまえら貴族は、ない奴から奪う!オレたちの方がよっぽど良心的だ!」
口々に喚く男たち。エリアストは表情のないままステッキをクルクルと回す。ヒュンヒュンと鳴る風切り音が怖い。嗜みのための持ち物ではない。絶対に武器として所持している。
「私は貴様らのような者が出ないよう法を整備している。なぜだかわかるか」
恐ろしく高貴な身分だと思っていたが、まさかの法相。二年前に、若く美しい法相誕生と世間を賑わせていたが、まさかこれ程までとは想像すら出来なかった。そして、こんなに恐ろしい男とは。やっとの思いで首を横に振る。
「貴様らなど生きようが死のうがどうでもいい。勝手にしろ。だが」
恐ろしい男に睥睨され、体を半分以上小さく縮こまらせた男たちは、さらに身を縮める。
「私の愛しい妻は、貴様らのような者にまで慈悲を与える女神だ。その必要性を無くすために、私は動いている。そんな時間があったら、少しでも私との時間に使ってもらうためだ。理解したか」
眼差しは極寒、醸し出す空気は絶対零度。恐ろしすぎるはずなのに、なぜだろう。言っていることは、これは、規模のデカすぎる独占欲、かな。
内容はもちろん素晴らしい。浮浪者や浮浪児、生活困窮者が出ないよう、国を豊かにしようとしているのだ。ただ、動機が。いや、案外世の中とはそういうものなのかも知れない。
男たちはコクコクと頷く。それを見てエリアストは馬車へと戻って行った。
「まじめに、働こうかな」
愛する人を、持ってみたくなった。
残されたシルクハットを見つめる男たちの呟きが、路地裏に落ちた。
*つづく*
エリアストは、街に買い物に来ていた。注文していた品物を受け取りに出向いている。店からは届けると言われたが、アリスへのプレゼントであったため、受け取りに行くと伝えてあった。その品物を受け取り、店を出たときのことだ。そっと護衛に耳打ちをし、エリアストは歩き出した。
エリアストは誘うように路地裏に入った。
尾行けていた男たちは、しめたとばかりに路地裏に駆け込む。かなり身なりのいい貴族。それが一人で街を歩いている。なかなかこんなチャンスには出会えない。そう思って飛び込んだのに。シルクハットを目深に被り、貴族はこちらを向いて立っていた。退路を断つように、路地の入り口を馬車が塞ぎ、馬車の入り口には護衛が二人並び立つ。
四人の男は誘われたのだと悟る。
「私に何の用だ」
右手のステッキを、左の手のひらにトントンとリズミカルに打つ。
何も答えられない男たちに、エリアストは一瞬で間合いを詰め、一番前の男の左頬を掠めるようにステッキで突きを繰り出す。エリアストの動きに着いてこられなかったシルクハットが、一拍遅れて地面に落ちた。
美しいアクアマリンの双眸が、男を冷たく睨む。
「何の用だと聞いている。同じことを言わせるな」
今度はあまりの美しさに言葉が出ない。
「ふむ。耳が聞こえないのか口がきけないのか。不要なものはいらないな」
何をされるか理解をした一人の男が叫ぶ。
「かっ、金!金だ!」
エリアストは叫んだ男を見た。
「金が欲しいなら働け。私に関わるな」
その言葉に、男たちは気色ばんだ。
「どんなに働いたってスズメの涙ほどしか金は貰えねぇ!おまえら貴族が贅沢するために税金ばっかり上げやがって!」
「今着ているその上等な服一枚買うのに、オレたちがどれだけ汗水流してるか知らねぇんだ!だから平気でそんなことが言えるんだ!」
「まともに働いたって碌な稼ぎにならねぇ!だったらって!」
「金は稼ぐんじゃねぇ!奪うんだ!ある奴から、奪うもんだ!おまえら貴族は、ない奴から奪う!オレたちの方がよっぽど良心的だ!」
口々に喚く男たち。エリアストは表情のないままステッキをクルクルと回す。ヒュンヒュンと鳴る風切り音が怖い。嗜みのための持ち物ではない。絶対に武器として所持している。
「私は貴様らのような者が出ないよう法を整備している。なぜだかわかるか」
恐ろしく高貴な身分だと思っていたが、まさかの法相。二年前に、若く美しい法相誕生と世間を賑わせていたが、まさかこれ程までとは想像すら出来なかった。そして、こんなに恐ろしい男とは。やっとの思いで首を横に振る。
「貴様らなど生きようが死のうがどうでもいい。勝手にしろ。だが」
恐ろしい男に睥睨され、体を半分以上小さく縮こまらせた男たちは、さらに身を縮める。
「私の愛しい妻は、貴様らのような者にまで慈悲を与える女神だ。その必要性を無くすために、私は動いている。そんな時間があったら、少しでも私との時間に使ってもらうためだ。理解したか」
眼差しは極寒、醸し出す空気は絶対零度。恐ろしすぎるはずなのに、なぜだろう。言っていることは、これは、規模のデカすぎる独占欲、かな。
内容はもちろん素晴らしい。浮浪者や浮浪児、生活困窮者が出ないよう、国を豊かにしようとしているのだ。ただ、動機が。いや、案外世の中とはそういうものなのかも知れない。
男たちはコクコクと頷く。それを見てエリアストは馬車へと戻って行った。
「まじめに、働こうかな」
愛する人を、持ってみたくなった。
残されたシルクハットを見つめる男たちの呟きが、路地裏に落ちた。
*つづく*
51
お気に入りに追加
428
あなたにおすすめの小説
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~
春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。
6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。
14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します!
前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。
【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】
外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます
刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。
政略結婚だけど溺愛されてます
紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。
結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。
ソフィアは彼を愛しているのに…。
夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。
だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?!
不器用夫婦のすれ違いストーリーです。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!?
貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。
愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる