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番外編

ディレイガルド当主の若かりし日 前編

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 エリアストの両親の馴れ初めです。
 よろしかったらお読みください。

*~*~*~*~*


 筆頭公爵家ディレイガルド現当主の若かりし日の話。これは、現公爵夫人を見初めたときの話だ。
 白に近い金色の髪に、淡く優しい水色の瞳。柔和な笑みを常に湛える形の良い唇。穏やかな雰囲気を持つ筆頭公爵家嫡男ライリアスト・カーサ・ディレイガルド。釣書が山と積まれながらも、なかなか婚約者が決まらないまま、学園生活も二年目を迎えた。
 「ライリアスト、まだ選り好みしてんの?いい加減決めろって。おまえの婚約者の座が決まらないと、他の奴らに話が回ってこないだろ」
 侯爵家、ユーシエス・カイアレインがそう話しかける。ライリアストより家格は下がるが、プライベートでは畏まった話し方をしなくていい、とライリアストが望んだために、くだけた話し方をしている。
 「なかなかね。そろそろ、とは思うんだけどなあ」
 「まあわからんでもないけど」
 学食でそんな話をしていると、声がかかった。
 「お話し中失礼いたします。初めまして、ディレイガルド公爵令息様。カイアレイン侯爵が次女、アイリッシュ・カイアレインにございます。兄に言伝がございます。少々兄をお借りしてもよろしいでしょうか」
 美しくお辞儀カーテシーをしながら、ユーシエスの妹だと言うアイリッシュが挨拶をした。
 ライリアストは驚く。
 「ああ、初めまして。ディレイガルド公爵嫡男、ライリアストです。ユーシエス、妹いたんだった?姉君がいるのは知ってたけど」
 「言ってなかったか?」
 「聞いてないよ。そう、アイリッシュ嬢、か。よろしくね」
 アイリッシュは再度綺麗にお辞儀をした。
 「どうした、アイリ」
 ユーシエスとアイリッシュは席を離れた。
 「アイリッシュ、ね。ふふ」
 ライリアストは笑みを深めた。



 「ねえ、ユーシエス」
 アイリッシュと出会った翌日。ライリアストはユーシエスに尋ねた。
 「アイリッシュ嬢は、婚約者いるの?」
 ユーシエスは目を丸くする。
 「は?え?マジか?」
 そんなことを訊く理由はひとつしかない。相変わらず穏やかな笑みを浮かべるライリアストに、ユーシエスはバツが悪そうに目を逸らす。
 「あー、ライリアスト、すまん。アイリッシュは昨年婚約した。同い年の伯爵家だ」
 ライリアストの笑みは崩れない。それにユーシエスはホッとした。
 「悪いな、ライリア」
 「誰?」
 ユーシエスの言葉を遮った。ユーシエスは額に手を当てる。ダメだったか。学園に入ってからの付き合いだが、ユーシエスはライリアストの為人ひととなりを知っている。笑っている内は大丈夫だと思っていたが、少し認識を改めた方がいいようだ。
 欲しいと思ったものは、必ず手に入れる。
 それに間違いはないようだが。
 「ユーシエス、誰?」
 ユーシエスは観念したように、ひとつ息を吐いた。
 「リスフォニア辺境伯のとこの長男。ベリル・コーサ・リスフォニア」
 「ありがとう、ユーシエス」
 ライリアストはニッコリと笑った。



 「ベリル・コーサ・リスフォニア、いる?」
 ひとつ上の学年、美しく穏やかな筆頭公爵家嫡男の登場に、ベリルのクラスが湧いた。
 「はい、私がベリル・コーサ・リスフォニアにございます」
 「そう、きみが。私はライリアスト。ライリアスト・カーサ・ディレイガルド。きみに決闘を申し込む」
 どよめきが起きる。ベリルも目を見開いて、ライリアストを凝視してしまう。
 「な、ぜ、そのような」
 「きみの婚約者を賭けて」
 一層大きくなるどよめきに、何事かと廊下にも人が集まり始める。
 ライリアストは変わらず笑みを浮かべたまま、手袋を投げた。手袋を相手に投げる行為は、決闘申し込みのサイン。
 「明日十六時。場所は学園闘技場。私が勝ったらアイリッシュ・カイアレイン侯爵嬢の婚約者の座を譲ってもらう」
 周囲はもうお祭り騒ぎだ。騒ぎを聞きつけたアイリッシュが、ライリアストについて来ていたユーシエスに詰め寄る。
 「お兄様、どういうことです、これは。何があったのですか」
 なぜ自分を賭けて決闘なんてことになっているのか。
 「うーん、ライリアストに気に入られたようだ、アイリ」
 「はい?」
 昨日初めて会ったとき、綺麗な人だと思った。みんなが騒ぐわけだと思った。だが、それだけだ。向こうもただ挨拶をしただけだ。気に入られる要素がわからない。こんなこと望んでいない。今すぐにでもやめて欲しい。しかし、紳士の決闘を止めることは、誰にも出来ない。してはいけない。
 話はとんでもない方向に進む。
 「では、私が勝ったら?」
 ライリアストは笑った。次の言葉で、これがたわむれではない、本気だと知る。
 「ディレイガルドを譲ろう」
 静まり返る。そして。
 学園全体が揺れるほどのどよめきが巻き起こった。


 *中編につづく*
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