50 / 67
結婚編
結婚式前夜
しおりを挟む
アリスの十四の誕生日には、婚約指輪を贈った。
十五の誕生日に、懐中時計を贈った。
十六には温室を贈ろうと思ったが、私の構想する物だと、とても間に合わないと言われ、それではと四季の花々が見られるガゼボを贈った。
十七で、念願の温室を贈ることが出来た。
十八の誕生日は、結婚式だ。やっと、やっと夫婦になれる。帰ればアリスがいて、目覚めてもアリスがいる。それが当たり前になるのだ。この世で一番幸せな男だと思う。
明日はアリスの誕生日。結婚式だ。もうすぐアリスはファナトラタ家へ帰る時間。ファナトラタ家の娘として家族と過ごす最後の日。いつもと変わらずアリスはディレイガルド家で過ごしてくれている。
「エルシィ、寒くないか」
春とは言え、外は冷える。アリスに贈った温室に二人はいた。
「少し、寒いですが、大丈夫です、エル様」
肩を寄せ合い、空を見上げていた。満月が煌々と照らしている。昼間のように明るい。
エリアストはアリスを抱き上げ、自分の膝の間に座らせた。後ろから抱き締め、その後頭部にくちづけを落とす。
「これで少しは温かいだろうか、エルシィ」
「は、はい、温かい、です」
アリスは真っ赤になって俯く。その白い項に、エリアストはまたくちづける。アリスの体がビクリと震えた。エリアストの唇が何度も押し当てられ、時には舌が這わされる。アリスは恥ずかしさから、小さく声が漏れる。薄く涙が滲んだ。
「ふぇ、え、エル様、は、恥ずかしいです」
思い切って告げるアリスに、エリアストは笑った。
「ふふ、すまないエルシィ。あまりに可愛くて、つい、な」
そう言いつつ、なかなかキスの雨は止まなかった。
「なあ、エルシィ」
ようやく羞恥の時間が終わり、エリアストが言った。
「踊らないか、エルシィ」
そう言うと、アリスをベンチに降ろし、エリアストはアリスの前に跪いた。
「アリス・コーサ・ファナトラタ嬢。私と踊っていただけますか」
アリスの手を掬い上げ、その手にくちづけながらエリアストはアリスを見上げた。
「はい、はい。喜んでお受けいたします」
花が綻ぶような笑顔をくれた。
今宵は満月。アリス・コーサ・ファナトラタを名乗れる最後の夜。
月明かりが降り注ぐ中、二人は踊る。
互いに見つめ合う。
これからもずっと離れないように。
そう誓いながら。
*最終話へつづく*
十五の誕生日に、懐中時計を贈った。
十六には温室を贈ろうと思ったが、私の構想する物だと、とても間に合わないと言われ、それではと四季の花々が見られるガゼボを贈った。
十七で、念願の温室を贈ることが出来た。
十八の誕生日は、結婚式だ。やっと、やっと夫婦になれる。帰ればアリスがいて、目覚めてもアリスがいる。それが当たり前になるのだ。この世で一番幸せな男だと思う。
明日はアリスの誕生日。結婚式だ。もうすぐアリスはファナトラタ家へ帰る時間。ファナトラタ家の娘として家族と過ごす最後の日。いつもと変わらずアリスはディレイガルド家で過ごしてくれている。
「エルシィ、寒くないか」
春とは言え、外は冷える。アリスに贈った温室に二人はいた。
「少し、寒いですが、大丈夫です、エル様」
肩を寄せ合い、空を見上げていた。満月が煌々と照らしている。昼間のように明るい。
エリアストはアリスを抱き上げ、自分の膝の間に座らせた。後ろから抱き締め、その後頭部にくちづけを落とす。
「これで少しは温かいだろうか、エルシィ」
「は、はい、温かい、です」
アリスは真っ赤になって俯く。その白い項に、エリアストはまたくちづける。アリスの体がビクリと震えた。エリアストの唇が何度も押し当てられ、時には舌が這わされる。アリスは恥ずかしさから、小さく声が漏れる。薄く涙が滲んだ。
「ふぇ、え、エル様、は、恥ずかしいです」
思い切って告げるアリスに、エリアストは笑った。
「ふふ、すまないエルシィ。あまりに可愛くて、つい、な」
そう言いつつ、なかなかキスの雨は止まなかった。
「なあ、エルシィ」
ようやく羞恥の時間が終わり、エリアストが言った。
「踊らないか、エルシィ」
そう言うと、アリスをベンチに降ろし、エリアストはアリスの前に跪いた。
「アリス・コーサ・ファナトラタ嬢。私と踊っていただけますか」
アリスの手を掬い上げ、その手にくちづけながらエリアストはアリスを見上げた。
「はい、はい。喜んでお受けいたします」
花が綻ぶような笑顔をくれた。
今宵は満月。アリス・コーサ・ファナトラタを名乗れる最後の夜。
月明かりが降り注ぐ中、二人は踊る。
互いに見つめ合う。
これからもずっと離れないように。
そう誓いながら。
*最終話へつづく*
50
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~
春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。
6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。
14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します!
前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。
【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】
ラスボス魔王の悪役令嬢、モブを目指します?
みおな
恋愛
気が付いたら、そこは前世でプレイした乙女ゲームを盛り込んだ攻略ゲーム『純白の百合、漆黒の薔薇』の世界だった。
しかも、この漆黒の髪と瞳、そしてローズマリア・オズワルドという名。
転生先は、最後に勇者と聖女に倒されるラスボス魔王となる悪役令嬢?
ラスボスになる未来なんて、絶対に嫌。私、いっそモブになります?
王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】
霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。
辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。
王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。
8月4日
完結しました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約破棄目当てで行きずりの人と一晩過ごしたら、何故か隣で婚約者が眠ってた……
木野ダック
恋愛
メティシアは婚約者ーー第二王子・ユリウスの女たらし振りに頭を悩ませていた。舞踏会では自分を差し置いて他の令嬢とばかり踊っているし、彼の隣に女性がいなかったことがない。メティシアが話し掛けようとしたって、ユリウスは平等にとメティシアを後回しにするのである。メティシアは暫くの間、耐えていた。例え、他の男と関わるなと理不尽な言い付けをされたとしても我慢をしていた。けれど、ユリウスが楽しそうに踊り狂う中飛ばしてきたウインクにより、メティシアの堪忍袋の緒が切れた。もう無理!そうだ、婚約破棄しよう!とはいえ相手は王族だ。そう簡単には婚約破棄できまい。ならばーー貞操を捨ててやろう!そんなわけで、メティシアはユリウスとの婚約破棄目当てに仮面舞踏会へ、行きずりの相手と一晩を共にするのであった。けど、あれ?なんで貴方が隣にいるの⁉︎
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?
夕立悠理
恋愛
ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。
けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。
このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。
なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。
なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる