上 下
47 / 67
結婚編

しおりを挟む
 ララは一歩前に出た。
 「クシャラダナ嬢、確認をしても?」
 「どなたかしら。わたくしを誰だと思っているの?未来のディレイガルド夫人よ」
 このパーティーに参加しておいて、主賓の顔を知らないとは。後ろに控えるレンフィとシャールは呆れた。
 「これは失礼いたしました。ご挨拶が遅れました。わたくし、クロバレイス国より参りましたクロバレイス国第二王女ララと申します。わたくしたちのための王家主催パーティーご参加くださり、恐悦至極に存じます」
 ララの挨拶に、カリアの顔色が変わる。
 「ま、まあ、主賓が何故このようなところに?それに隣にいるその女性、婚約者のいる男性をたぶ」
 「言葉は選ばれた方がよろしい」
 ピリッと張り詰めたララの声に、カリアは知らず一歩後退る。
 「あなたがディレイガルド家嫡男の婚約者、とはどういうことです?わたくし、こちらにいらっしゃるアリス嬢との結婚式に参加するべく参りました。これはわたくしどもの国がたばかられている、ということでしょうか」
 外交に関わる由々しき事態だと言っている。カリアは明らかに顔色を悪くしながら視線を彷徨わせている。すると、ララたちの背後から声がかかった。
 「カリア!何をしている!」
 「お、お父様!」
 ディレイガルド公爵に袖にされ、いたたまれずに会場から出て来たクシャラダナ侯爵だった。
 ララは内心拍手喝采だ。絶対親子で何かやらかす。期待に胸を膨らませるララに、レンフィは呆れたように溜め息をつき、シャールはやれやれと首を振った。
 「おお、これはこれは、王女殿下。我が娘に何か?」
 娘に何かじゃねぇ。娘が何かじゃボケェ。
 「殿下、顔」
 こっそりいさめるレンフィに、ララは扇で隠して一旦顔を直す。
 「おや、お隣はファナトラタ家の。ディレイガルド家だけでは飽き足らず、隣国の王女にまで触手を伸ばすとは。いやはやその手腕、見習いたいものですなあ」
 「あ゛?」
 「殿下、顔」
 「クシャラダナ侯爵様」
 レディにあるまじき顔になったララを諫めるレンフィとのやり取りに微笑んだアリスは、侯爵に穏やかに話しかけた。ララたちはアリスを見る。
 「クシャラダナ侯爵嬢様から伺いました。エリアスト様のご婚約者様であったと」
 侯爵の顔が強ばる。
 「ええそうよ。ね、お父様。お父様が仰っていましたもの。“おまえはエリアスト様の妻となるのだ。よくよく自分を磨いておきなさい”って。“お父様が話はつけておくから安心して花嫁修業に勤しむように”とも仰っていましたもの!」
 侯爵の顔色が一気に悪くなる。額に汗が滲んでいる。
 「それで、クシャラダナ侯爵嬢様は今の今まで待っていた、ということでしょうか」
 アリスの言葉にカリアはキッと睨みつける。
 噂は噂でしかない。自分がディレイガルドの花嫁になるのだ。例え一度として話どころか顔合わせもしたことがないとしても。父が、大丈夫だと言っているのだから。
 「そうよ。それなのに、それなのに」
 結婚式のために呼ばれた隣国の王族は、アリスが花嫁だという。今後続々と来る諸外国の人々も、エリアストとアリスの式だと思って来るのだろう。それでは自分は一体今まで何をしていたというのだろう。酷い裏切りだ。
 「あ、いや、カリア、それについては」
 侯爵の様子を見るに、カリアは言ってしまえば騙されていたのだろう。
 アリスたちは、カリアを可哀相なものを見る目になった。被害者と言ってもいいかもしれないが、そんな騙され方するか普通、という意味合いが大きい。
 「絶対に赦さないわ!このドロボウ猫!わたくしのエリアスト様を返しなさい!」
 さめざめとしていたかと思ったら、急にアリスに向かって突進してきた。驚いて動けないアリスの前に、ダイヤモンドの髪が揺れた。そして難なくカリアを制する。両手首を後ろ手に片手でまとめられ動けなくなった。
 「きゃあ!無礼者!放しなさい!」
 「騒がしい。エルシィ、大丈夫か」
 アリスは安堵の息と共に微笑んだ。
 「エル様」


 *つづく*

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】

霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。 辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。 王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。 8月4日 完結しました。

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?

夕立悠理
恋愛
 ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。  けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。  このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。  なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。  なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

婚約破棄目当てで行きずりの人と一晩過ごしたら、何故か隣で婚約者が眠ってた……

木野ダック
恋愛
メティシアは婚約者ーー第二王子・ユリウスの女たらし振りに頭を悩ませていた。舞踏会では自分を差し置いて他の令嬢とばかり踊っているし、彼の隣に女性がいなかったことがない。メティシアが話し掛けようとしたって、ユリウスは平等にとメティシアを後回しにするのである。メティシアは暫くの間、耐えていた。例え、他の男と関わるなと理不尽な言い付けをされたとしても我慢をしていた。けれど、ユリウスが楽しそうに踊り狂う中飛ばしてきたウインクにより、メティシアの堪忍袋の緒が切れた。もう無理!そうだ、婚約破棄しよう!とはいえ相手は王族だ。そう簡単には婚約破棄できまい。ならばーー貞操を捨ててやろう!そんなわけで、メティシアはユリウスとの婚約破棄目当てに仮面舞踏会へ、行きずりの相手と一晩を共にするのであった。けど、あれ?なんで貴方が隣にいるの⁉︎

処理中です...