美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛

らがまふぃん

文字の大きさ
上 下
32 / 68
デビュタント編

しおりを挟む
 なぜ、わたくしは部屋に閉じ込められているのでしょう。
 なぜ、わたくしはお父様に叩かれたのでしょう。
 なぜ、誰もわたくしの話を聞いて下さらなかったのでしょう。
 いいえ、本当はわかっています。
 あの時。図々しくもエリアストと共に挨拶に来たあの時。みんなに魔法をかけたのよ。正体を見破ったわたくしを孤立させようと、みんなにわたくしを追い出すよう仕向ける魔法を。
 そうでなくては、説明が出来ません。あのお優しいお父様が、わたくしを叩くなど。お優しいお兄様たちが、黙って見ているだけなど。
 何という恐ろしい魔女なのでしょう。
 わたくしはひとりで戦わなくてはならないのですね。
 いいでしょう。
 エリアストがわたくしの元へ安心して来られるよう、わたくしはひとりででも戦って見せますわ。待っていて下さいね、エリアスト。必ずわたくしが守って差し上げますから。
 今度は間違えません。軽率に行動せず、どうすればあなたを救えるか、あの魔女から引き離せるか、よくよく考えて行動いたしますわ。
 ここから出たら、すぐにあなたを助けて差し上げますから。
 もう少し。もう少しだけ、我慢してくださいませ。
 勉強が、少しは役に立つと知った。知りたい情報を知ることが出来た。我慢をして大人しく勉強していたら、部屋から出してもらえた。そうなればあとは待つ。自分から動いてはいけない。そういう素振りを見せると、きっとまた閉じ込められてしまうから。だって、みんな、魔女の魔法が解けていないから。
 神様は見ている。わたくしに、魔女を討伐する機会を必ず与えてくれる。
 ほら、ね。
 神様は、見ているのよ。
 「あら、ファナトラタ家の。アリスさん、でしたかしら」
 院内で魔女の姿を見つけた。するとマージは、スッとわたくしの前に立つ。警戒していることがありありと伝わってきて、思わず嗤ってしまった。その背に大丈夫よ、と声をかけると、マージは眉をひそめつつ、不承不承下がる。そして始まる。一世一代の大芝居。何事もないかのように、魔女に声をかけた。
 これを待っていた。この偶然を、待っていたのよ。
 サーフィアは気付かれないようほくそ笑んだ。


*~*~*~*~*


 魔女の魔法を封じる、聖刻せいこくというものがある。それをどこでもいい、体のどこかに刻むと、魔法が使えなくなるという。かけられた魔法の効果もなくなると、そう記されていた。
 聖刻を紙に写し取り、“家紋用の指輪”として職人に作らせた。
 「ねえ院長。今こちらに訪問されているファナトラタ家の娘は、よくいらっしゃるの?」
 院長は微笑みながら頷く。
 「月に二、三度は訪れてくださいますよ」
 「そう。とても素晴らしい方ね。少しお話ししてみたいわ」
 「ええ、ええ、もちろんですとも。お年もちこうございます。きっと殿下にとって良き話し相手になりましょう」
 早速院長はアリスを呼びに行った。それを見届けると、サーフィアは暖炉の火をすぐに燭台に移し、聖刻の指輪を火で炙る。どの孤児院で遭遇してもいいように、すべての孤児院でのシミュレーションは出来ている。訪問先で馬車が止まっていたら、采配のわからない物を紛れさせることも忘れてはいけない。マージに席を外させるためだ。訪問時の馬車は家紋がない質素なものなので、何度も期待しては外れていた。だがやっと当たりだ。やっとエリアストが手に入る。
 少しして、院長はアリスを連れて戻って来た。アリスの侍女もついて来ている。まあいい、とサーフィアは思った。
 どうせ侍女如き、わたくしに触れることは出来ないのだから。
 「あなたと少し、話がしたくて。院長、彼女にもお茶を」
 サーフィアとアリスは部屋に残された。侍女のルタが、警戒している。
 「ねえ、アリスさん」
 サーフィアは暖炉の上に置いた燭台に近付く。レンガ造りの暖炉の隙間に指輪を固定して炙り続けていた。燭台の火を息を吹きかけて消す。ハンカチで指輪を掴み、コツリコツリとアリスに歩を向ける。
 アリスはジリ、と一歩下がる。扉近くに控えていたはずのルタが、アリスとサーフィアの間に入った瞬間、サーフィアは素早くアリスの左手を掴んだ。
 「何を!」
 ルタが言うや否や、アリスの叫び声が部屋中に響いた。
 「リズ様!」
 左手を押さえてうずくまるアリスを、ルタは庇うように抱き締める。見ると、手の甲が真っ赤に火傷をしていた。
 「何てことを!!」
 ルタが青ざめ非難の目を向けると、サーフィアは歪んだ顔で叫んだ。
 「エリアストを解放なさい!この魔女め!」
 アリスもルタも、驚いたようにサーフィアを見つめる。何を言われたのだろう。理解できずにいると、アリスの叫び声を聞きつけた院長とマージ、数名の修道女と子どもたちまでもが駆けつけた。


 *つづく*
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?

夕立悠理
恋愛
 ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。  けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。  このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。  なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。  なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

処理中です...