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最終話 僕のすべてを捧げる

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 「リオぉ、疲れたよう。リオの膝枕で休みたいよう」
 「今椅子に座られたばかりです、殿下」

 ぐずるカダージュを、いつもの如く淡々と切る。

 「リオ。実はあまり眠れていない。考えることが多かった」
 「そうですか。お休みの時間は何時でしたか」
 「二十二時」
 「起床は何時ですか」
 「六時だよ」

 二人は見つめ合う。

 「あのね、考えることが多かったんだよ」
 「どのようなことなのですか」
 「リオと行きたいところとか、リオに着せたい服とか、リオと食べたいものとか」
 「そう、ですか」
 「あっ。でもでも、一番悩んでいるのはね」

 メリオラーザの耳元で囁くと、少しの間の後、メリオラーザは真っ赤になった。その言葉に、先日の第一皇子レヴェージュの生誕祭での出来事まで思い起こされてしまう。


*~*~*~*~*


 「もしティシモ嬢が、世界が欲しい、と言ったら、カダージュは笑ってティシモ嬢に世界を贈るだろう」

 レヴェージュは、迷うことなくそう言い切った。

 「そうだね。リオ、世界が欲しい?」
 「ひえっ?!いりませんわっ」

 肩に腕を回され、間近で覗き込まれるメリオラーザは、とんでもないと首をブンブン横に振る。カダージュはその様子にクスクスと笑う。

 「でもね、リオ。世界を手に入れると言うことは、この国さえ手中に収めると言うこと。愚か者たちを、生かすも殺すも自由」

 カダージュは、メリオラーザを取り囲んでいた者たちを、冷たく一瞥する。

 「リオの、自由に出来るんだよ」

 金の瞳に険呑な光を宿すカダージュに、愚か者たちは青ざめ、震える。

 「そのようなことは望みません。わたくしは、あの、わたくし、は」

 ちらりとカダージュを見ると、

 「カダ様と、穏やかに、生きて行ければ、と、思います」

 ぽしょりと、カダージュだけに聞こえるように、そう言った。
 カダージュの頭が、メリオラーザの肩に乗る。

 「ああ、リオ。リオ、リオ」

 愛しくて堪らない。そう言うように、カダージュはメリオラーザを何度も呼び、唇の側にくちづける。ふよふよとメリオラーザの頬に触れると、愛おしいと、微笑んだ。

 「私のメリオラーザは聖母のようだ。メリオラーザに免じて今回は、今回だけは、本当に、仕方なく、嫌々、目を瞑ろう。だが、今後おかしなことをする者がいたら、ああ、言わなくてもわかるな?」

 全員が、自然と頭を下げた。
 それを見ると、もう用はないとばかりにメリオラーザを連れ、会場を後にした。

………
……


 「早く結婚したい、リオ」

 会場を出てすぐに、すり、と頬をすり寄せ、耳に吐息を注ぎ込まれるように囁かれた。

 「すべて、僕のものにしたいんだよ、メリオラーザ」


*~*~*~*~*


 「あっ。でもでも、一番悩んでいるのはね」

 メリオラーザの耳元で囁く。

 「リオとの家族計画だよ」

 少しの間の後、真っ赤になるメリオラーザに、カダージュは頬というか、唇のすぐ脇にくちづける。

 皇妃の生誕祭、カダージュの成人の儀と婚約発表、レヴェージュの生誕祭と、皇族イベントが目白押し。次のカダージュの誕生日、つまり一年後が結婚式に望ましかったが、皇族イベントに少し隙間のある、カダージュの成人の儀から半年後が結婚式と決まっていた。さすがに成人の儀と婚約発表と結婚式を同時に行うほど、情緒がないわけではない。

 結婚式まで、あと少し。

 「ねえ、リオ」

 メリオラーザの肩に頭を乗せ、顔はメリオラーザを向いている。そのため、カダージュの吐息が首をくすぐることに、メリオラーザは震える。

 「リオはどう思う?」
 「どう、とは」
 「子どもは何歳までに欲しいとか、何人欲しいとか、産める限り産み続けたいとか」

 カダージュの手が、頬を、耳を撫でていく。メリオラーザはゾクゾクと背中を震わせる。

 「いっそ子どもはいらない、僕だけでいい、とか」

 指が、唇をなぞる。ふるり、メリオラーザの全身が震える。

 「ねえ、リオ。メリオラーザ。僕はリオが望むようにしたいんだ」

 額に、唇が触れる。

 「リオの望みは僕の望み」

 瞼に、鼻に、頬に、唇が落とされる。

 「愛しているよ、メリオラーザ」

 唇の側へ、くちづけ。


*~*~*~*~*


 カダージュ・アス・ヒオニアは、結婚と同時に皇位継承権を返上し、大公位を授かると、家名をリシアンサスとする。

 「リオ。この家名を、リオに捧げる」

 リシアンサス。花の名前。その花言葉は


 永遠の愛




*おしまい*

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
カダージュのギャップを楽しんでいただけたなら、嬉しいです。
この後いくつか、番外編をお届けいたします。
よろしかったらお付き合いください。
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