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3 : 女神ローレンシア

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「ーーーと、言うわけで」

 俺の対面にいる女性が、申し訳なさそうにそう呟く。

 あの後とりあえず椅子に座ってゆっくり話そうということになったので、こうして面と向かって話を聞いているのだが、

「貴方はこの世界に転移してしまったのです……」

 目の前の女性から聞かされた話は寝耳に水どころではない、奇想天外なものだった。


 ーーまず、目の前に座っている綺麗な女性。
 どうやら彼女はローレンシアという、この世界で豊穣を司る女神だそうだ。

 ……この時点で既に現実離れしすぎている。
 まあ、目覚めたら別の世界に転移してました、なんてこと自体が現実離れした事なんだけど。

 でどうやら、転移の原因はこの女神ローレンシアにあるらしい。
 しかも、どうもその原因とやらが

「暇つぶしに下界の人物リストを見て暇つぶししてたら、間違えて転移呪文を発動しちゃいました☆」

 ……という事だそうだ。

 猛烈に反省しているであろうその女神様とやらは、現在進行形で顔を俯けていた。

「色々とツッコミどころはありますけど、まずは頭をあげてください。転移しちゃったことに関してはあまり怒ってないですし」

「……ありがとうございます」

「いやまぁ本当の事ですよ?のどかで綺麗な景色も見れたし。……でも流石に、元の世界に戻れないとかそんな事ないですよね?」

「……」

 一瞬の沈黙。
 ふと、女神は顔を上げると、

「戻れない」

「え?」

「元の世界には、一度転移しちゃうと戻れない。そういう決まりがあるの」

 目を机に向けたままそう言った。

 ………元の世界に、戻れない……?
 ちょっと気になっていたあの子が、両親が、いやそれよりも日々の癒しだった尊いマンガも深夜アニメも、もう見れない……だと………?

「……ふ、ふざけてんじゃねーーっ!何が豊穣の神だ、疫病神の間違いじゃないのかこの女神様はよぉーーっ!!」

「はーーっ、そんなの仕方ないでしょ!!誰だって間違いとかあるじゃない!」

怒りのあまり立ち上がると、女神も負けじと机を叩いて反論してきた。

「あーー、ついに本性表しやがったな豊穣の女神様が!そんな間違いがあってたまるか!もう二度とアニメが見れねーじゃねーーか!!」

「別にいいでしょアニメなんて!逆にあれよ、貴方を真人間に更生させてあげようと思ってやった私の好意であって……」

「最後のほう濁ってんじゃねーか!一発でバレる嘘をなんでこの後に及んで吐くんだよ!?」

「う、嘘じゃないわよ!いや本当でもないけど!あーもう、文句ばっかり多すぎるのよーーっ!!!!」

 ひとしきり文句を言い合った俺たちは、ぜえぜえと息を吐きながら呼吸を整える。

 そしてお互いの目を見つめると、

「…………ねぇ、一旦落ち着かない?ココアでも出すから」

 豊穣の女神ローレンシアは、そんな提案をしてきた。


…………それはこっちのセリフだよ。
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