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番外編

第二王子のとある報告書

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[本日の報告]

 隣国、ドルゲウス王国の動きが不穏だ。要警戒。
 まだ未熟な自分に潜入捜査はさせてもらえそうにない。無念だ。
 早く強くなりたいものだ。



[本日の報告]

 毎日厳しい訓練に、さすがに疲れてきた。
 気分転換にと、とある侯爵家令嬢の誕生パーティに出席した。が、たまらなく詰まらないので庭木に登って時間をつぶしていたら、彼女と出会った。

 声をかけるつもりなど無かった。大勢が集まるパーティでは印象の残らぬように影を薄くするのは得意だ。だが一対一でそれは不可能。だから話しかけてしまったら最後、王家の影となって動く自分にとって良くない事になるのは分かっていたのに。

 悲痛な面持ちでバルコニーから下を覗き込む彼女を見ていたら、声をかける以外の選択肢が無かったのだ。

 言い訳はしない。
 問題行動だと分かっているのに、それを止められなかった未熟な自分を認めよう。

 けれど後悔はしていない。

 彼女の、驚愕の目が俺に向けられたその瞬間。

 俺は彼女に恋をした。



[本日の報告]

 彼女とキスをした!

 初めてのそれはとても柔らかく気持ちがよくて──止められないと思った。
 俺はもうこの気持ちを止めるつもりはない。

 危険な仕事がこれからどんどん増えるであろう身だと分かっている。だが、だからこそ心の安らぎが欲しいんだ!

 彼女はそんな俺を嫌がるかもしれない。
 ずっとそばに居られない俺の事を嫌いになるかもしれない。

 けれど離すつもりは無い。
 自由に会えないけれど、少しの逢瀬でも俺は全力で彼女を愛すると決めた。

 王家の影としての自覚がない?
 いいや、だからこそ、だ。
 王家の影だからこそ。
 俺は彼女のために全ての任務を完璧に遂行しよう。

 彼女を不安にさせないために。
 必ず彼女の元へ戻るために。

 俺は絶対に失敗しない。
 俺は絶対に死なない。

 全ては王家のために、とはもう言わない。

 俺は彼女の為に、全力で王家の影となろう。



[本日の報告]

 雪の季節が終わったら彼女に会いに行くつもりだったのに、忙しくて時間が取れない。
 もう三月だというのに!

 彼女は俺の事を忘れてやしないだろうか?不安が否応なしに増していく。

[本日の報告]-2回目

 今日、王家からとんでもない知らせが来た。
 あの馬鹿兄と侯爵家令嬢の婚約が決まったと言う知らせだ。

 あれが誰と婚約しても気にしないつもりだった。

 だが相手の名前を聞いて俺の血の気は引いた。

 リンティアだと?あの侯爵家のリンティアという令嬢──彼女以外の何者でもないではないか!

 俺は気が狂いそうになった。
 すぐに王家に、父上に文を書いた。

 絶対にこの婚約を認めないと。リンティアは俺のものだと。

 父上は何と言ってくるだろうか。



[本日の報告]

 あの馬鹿兄貴、逃げやがった!

 ドルゲウス王国との交渉に王族代表として出ろとの父上の命に対し、勉学が今一番重要だと言って!
 何が勉学だ!面倒だとほとんどさぼってやがったくせに!

 あれが次期王だと!?そんなこと誰が認めるというのか!

 既に俺の周りでは不穏な空気が流れている。
 そして父上の考えも……。

 あの馬鹿が未だリンティアの婚約者などと、誰が許せるものか。

 王太子であることが必要?

 そうか、それなら俺にも考えがある──



[本日の報告]

 夏の暑い日が続く。

 リンティアが大怪我をしたと馬鹿兄貴から聞かされた。
 大した事ないと笑ってやがったが、俺は気が気でなかった。

 仕事が押していたが、なんとか時間を作って彼女に会いに行った。

 案の定、彼女は痛々しい姿でベッドの住人となっていた。
 あまりに酷い姿に、俺はただ彼女に謝る事しかできなかった。

 なぜって俺は全てを知ってるから。

 リンティアの妹の仕業だと調べて知っていたから。
 ドジって階段から落ちただけだと優しい彼女は言っていたが、全て調べはついてるんだ。

 おのれ……許さん、絶対許さんぞ!

 俺は知っている、全て知っているぞ!

 ずっと彼女が家族に虐げられていることも。
 学園で糞兄貴とフレアリアが何をしているのかを。
 リンティアへの仕打ちの数々を──

 俺は全てを知っている。

 だが今奴らを問い詰めたところで大した罪には問えない。
 まだだ、まだ早い。

 リンティアの事を考えると辛いが……まだ時期尚早だ。焦っては彼女をちゃんと救えない。
 
 奴らには必ず報いを受けさせる。

 この胸の怒りの炎をいつやつらに投げてやろうか。

 グツグツと煮えたぎる怒りを抱えながら、俺は静かにその機会を窺っている。



[本日の報告]

 一度は流血沙汰となったドルゲウス王国との一件がようやく落ち着きそうだ。
 かの国の国王は、俺が王となるならば良い関係を築いていこうと言っている。

 凶悪なドルゲウス王国がいつ寝首をかきにくるかと怯えていては、他国への防衛が手薄になる。心から信頼することは出来ない国だが、ある程度の安心にはなるだろう。ドルゲウス王国にばかり国防に力を割くわけにはいかないのだから。

 そして俺の願いはこれで叶うというものだ。

 ドルゲウス王国の信頼を得る事ができた俺の存在は、この国にとって最重要となるだろう。

 他国もまた、そんな俺に脅威を覚え、簡単に手を出そうとはしないだろうから。

 となると、今後の展開は分かりやすい。

 あの馬鹿兄貴を消す手筈はこれで整った。

 覚悟しろ、屑どもめ。

 リンティアに酷い事をした罪はきっちり償ってもらおう。
 簡単に楽になれると思うな。

 苦しんで苦しんでとことんまで苦しみぬけ。
 俺のものに手を出した罪を理解して、苦しみもがき死ね。

 糞兄と屑女には死以上の苦しみを与えてやろう。

 父上の許可は既にとってある。計画を話した当初は渋い顔をしていたが、王家にとって頭の痛いお荷物が居なくなることの方が、今後の国のためには良いと結論を出したようだ。
 さすが父上、親子の情より冷徹なまでに国王としての責務を全うしてくださる。

 糞兄をドルゲウスの糞の館に送る事も、既に話がついている。

 ああ、楽しみだ、本当に楽しみだ。

 あいつらはどんな顔をするだろう?楽しみで仕方がない。

 そしてリンティア……もうすぐだ。

 もう少しだけ我慢しておくれ。もう少しだけ待ってておくれ。

 その日はもうすぐやってくるから。
 もうすぐ君を助けられるから。

 そしたらもう離さない。
 君は俺だけのもの。俺の腕の中にずっと閉じ込めよう。

 愛してる。愛してるよリンティア。

 全てはキミのために──














===作者の呟き===

・・・ヤンデレ?
前回ダークだったから、今回はラブで幸せな話のはずが・・・
おかしいなあ(汗
ていうか、こんな病んでる報告書、誰が読むんだ。影の特殊部隊(?)のリーダーか。
そしてこの報告書は闇に葬られたのかな。



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