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しおりを挟むボンシュ王太子の言葉に、頭を抱えたのは……国王だ。
そりゃそうだ。
王と王太子、二人きりの会話でも頭痛くなるだろう内容なのに。それを婚約者である私と、その父親の目の前で言っちゃうんだもの!
国王様も、自分の息子がこんな馬鹿に育ってると思わなかったんだろうなあ。まあ学園での様子なんて知らないだろうし。
そして……王より気になる存在が一人。
私の目の前に立ち、背中しか見えませんが……明らかにどす黒いオーラを出してる方が一人。その存在を、私の父と言う。
ゴオオ……ってな感じで殺気ビシビシなんですけどね!痛い痛い!背後に居る私ですら殺気が痛い!なのに平然としてるなんて、ボンシュ王太子は鈍感なのか馬鹿なのか大物なのか!?──ただの鈍感馬鹿だろうな。
「ボンシュ、お前な……」
「ほら父上!ハセッド公爵もにこやかな顔で許してくださってます!もういっそ側室二十人とかでも良いのでは!?」
やめて、もうやめたげて!
その笑顔はね、その口閉じないと殺すぞお前!ていう思いを込めた殺人スマイルなの!分かって!
そして倍にするな、人数倍にするな!
いい加減、私も頭が痛くなってきた。本気か、こいつは?
「ボンシュ、王たるもの……」
「王たる心得は理解してるつもりです!そのためにこの三年、ただただ勉学のみに励んでまいりました!青春をストイックに過ごしたのです、心休まる側室の存在くらい許してくださってもよろしいのでは!?」
はああああ!?
流石にその言葉は聞き捨てならない。
勉学のみ励んでた?
ストイックに過ごしてた?
どの口が言うか!
「お言葉ですが殿下、私の記憶が確かなら、随分たくさんのご令嬢と仲良くされてたようですが?」
「そんなものは知らん!女と話した事もない!記憶に無い!」
「いや、女性と話くらいしてるでしょう……」
「忘れた!!!!」
ぅおいっ!!お前ふざけんなよ!あれだけ散々女遊びしといて知らんだあ?忘れただあ!?舐めてんのか!汚いから舐めんな!
「俺はお前の被害妄想に付き合ってる暇はないのだ!お前のような女でも公爵家の娘というだけで俺と結婚できるのだ、ありがたく思え!大体なんだその貧相な体は!女と言うのはだな、こう出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んでだなあ……!」
はい、今この男は全世界の女性を敵にまわしました!まわしましたよ、この馬鹿は!
ふざけんなよ、こちとら確かに出るとこ出てないかもしれないが、スリム体型はきっちり維持してきたんだ!
ぽっちゃり体型でなくなってから公爵令嬢として、必死で頑張って来たんだ、舐めんなよ!汚いから舐めんな!もうこのネタいいわ!
「確かにボンシュ様が関係をもってらした女性達は、皆様スレンダーでありながら、出るとこ出てましたけど……」
「だからそんなものは知らん!学生生活での人間関係など、忙しすぎて忘れた!!」
「記憶喪失か!」
思わず王太子に突っ込んだわ!そしてそんな私に誰も突っ込まないわ!なんだこの状況は!
叫んだら一気に力が抜けてしまった。
こんな男のために。ために!
私は王妃教育頑張ってきたのか?
そう。
そんなに厳しくはないけど、一応王妃教育なるものがありました。
王太子との婚約から十数年。
意外に気の合う王妃様と仲良くお茶飲みながら、王家の話を色々話してくださった。
異国のお菓子を頂きながら、王妃の務めについてお聞きした。
たまにお酒を飲みかわしつつ(この国では16歳から飲めるよ!)このツマミさいこー!と語らった。
……うん、王妃教育、楽しかったな。
じゃないわ。
まあそんなこんなで未来のお姑さんと仲良く、時に厳しく……なかったけど、色々教えていただいたのだ。
なんかその時間も一気にぶち壊しだわあ。この馬鹿王太子のせいで。
「分かりました」
父の血管が切れそうなので、そろそろ退室しよう。今日はとりあえず終わろう。今度は王太子抜きで話した方がいい気がするの。
そう思って、私は脱力感からくる大きな溜め息と共に言った。
「ボンシュ様は記憶喪失になられたようですね。よく分かりました。とりあえず今日のところはお暇させていただきます。陛下、宜しいでしょうか?」
「ああ、そうだな。私もこの馬鹿とよく話すから、そなたも公爵と話すがいい」
そう言って、疲れ切った笑顔を王様は向けてくださった。今馬鹿って言ったよこの人。自分の息子、馬鹿って言ったよ。
「馬鹿な子ほど可愛いという意味ですね!父上の愛情、俺は心より嬉しく思います!マジ感動!」
いやホント。
馬鹿だわこれ。
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