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「というわけで、まずは検証することになりました」

 なにが「というわけで」なのか分かりませんが、とりあえず目の前に並んだものを私は目にして絶句した。

 あれから数日。
 何事もなく──頻繁にロビーの突撃を受ける以外は、この上なく快適に牢屋生活を送っていた私だったが。

 いきなり呼び出されて来てみれば。

 国王に王太子、聖女フィリアに勇者に。
 国の中枢を担う貴族の重鎮。

 あとはベリアトにロビーもオマケっぽくその場に居る空間に連れて来られた。

 そして目の前には。

「ねえフィリア、これ何?」
「魔女かどうか検証する道具よ」

 これだけ聞いたら、前世の歴史で学んだ恐ろしい魔女裁判を思い出すわけだけど。

 そうじゃない。
 さすがにそんな恐ろしい物では無かった。

 んが!
 ちょっとどうしたらいいのか分からない。

 モフモフの。
 犬や猫に熊、羊などなど。よく分からないのも含めて。

 大量のぬいぐるみが山となって積まれていたから!

「え、本気ですか?これで?ぬいぐるみで?」
「ほ、本気だ!ゆ、勇者殿がこれを用意しろと……」

 最後の方は小声になってますよ、ラルフ。

 どうやら魔王がとり憑いてるかどうか分かる方法だと、勇者に言われたらしい。大丈夫か、この勇者。

「勇者様、本当に?」

 本当にこれで私の中に魔王が居るかどうか分かるんですか?

 ものすっごく疑い深い目で見たら。
 大きく頷かれた。

「本気と書いてマジと読む!」

 それ誰から聞いたの!?そんな台詞吐く勇者知りませんよ!

「ま、まあいいです。勇者様がそう言うなら……で、これどうするんです?」

 とっとと終わらせるのが吉だと思い。
 私は諦めて目の前のぬいぐるみに意識を戻すのだった。

「そうだな。まず手始めにこれを」
「犬……ですか」

 真っ白でホワホワなぬいぐるみを渡された。毛が長くて気持ちいい。

「ギュッと抱きしめて!」
「へ!?あ、はい!」

 厳しい声で言われたので、慌てて真剣に抱きしめた!

「どうでしょうか!?」
「うん、可愛い!」

 ……もうお前国に帰れ!即帰れ!

「真面目にやれ!」

 さすがラルフ様。いいツッコミをなさる。
 私の代わりに勇者の頭をバシッとやってくださいました。さすがに私には出来ないことなのでありがとうございます!

 気を取り直して、私は他のぬいぐるみに目を向けた。

 何となく気になった熊のぬいぐるみをヒョイと持ち上げた。
 茶色の毛は短いが、フワフワな感触が気持ちいい。

「……何の反応もありませんねえ」

 持ち上げてペタペタ触るも、何も起きなかった。

「これ、魔王がとり憑いてたら、どうなるんですか?」
「ボロボロになる」
「そうなの!?」

 こんなに可愛いぬいぐるみが!?
 信じられなくて勇者を見れば、真剣な顔をしていた。

「ぬいぐるみは人とは違えど器になる素質があるからな。しかも人と違って空っぽだ。余計な魂が入っていない。魔王は思わず入ろうとするだろうが、ぬいぐるみは人と違って脆いからな。少しでも魔王が入ろうとすればボロボロになる」
「なるほど……」

 ボロボロにならなくて良かったね。
 そう思って思わず熊をギュッと抱きしめれば。

「うはあ!最高!」

 のけぞって親指立てる勇者に。

 思わずぬいぐるみを投げてしまいましたよ。
 ゴメン、熊。


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