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「あっはっは!おっもしろ!すんごい面白いね、キミら!聖女もやばいけど、その聖女と言い合うなんて……キミ、面白すぎ!」

 涙流しながら笑ってるよこの人。

 勇者は剣を収め、魔物から足をどける。

 全然返り血浴びてないとか凄いですね。でも剣はちゃんと血を拭いてから仕舞った方が良かったと思うんですけど。

「いいよ、借り物だから」
「いいのか」

 借り物なら尚更ちゃんと綺麗にして返さないといけないんじゃないでしょうか!?

 どうでもいい事を心配してると。

 気付けば目の前に勇者が立って居た。

 右にロビー。
 左にベリアト。
 正面に勇者──リューランド。

 なんだこのイケメンパラダイスは!

 どこを見てもイケメン溢れてて、視線をどこに向ければいいのか分からなくて。
 最終的に俯いたのだけど。

クイッ

 はい、アゴクイされました!

 顎を!クイッと!持ち上げられて。

 朱色の瞳が血のようだなあ……なんて思ってたら、随分近いなと気付いて。

「はあ!?」
「な……!!」

 ロビーとベリアトの叫び声が聞こえた気がした。
 けれど私はそちらを見ることが出来ず。
 言葉を発する事も出来ず。

 ただ、その感触に目を見開いていた。

 その感触──唇に触れる、その……唇の感触を……。

 ふに……

 そんな柔らかさ。
 男性の唇って柔らかいのね。なんてそんな事を思いながら。
 ただ、動けずにいた。

 それは一瞬か、永遠か。

 誰もが微動だに出来ないまま、それは終わった。勇者の顔が離れたのだ。

 ……て、ちょっと待て。今何された?今何が唇に触れた?あ、なんか両親が……特にお父様が真っ赤になってプルプル震えてる。怒ってるわあ~……

「ってちょっと待てえええぇ!!!!」

 ついに出た言葉!
 ようやく呪縛が解けたように動いた私は。
 直後。

 一歩前に出て、思いっきり手を振りかぶって。

 その手を──勇者に向けて……振り下ろしたのだ!!



※ ※ ※



「いやあ、なかなかいいビンタだったねえ」
「そりゃどうも」
「アイシャ、勇者殿は多分褒めてない」
「いや、褒めてるよベリアト殿。アイシャの行動は最高だ」
「そりゃどうも」
「アイシャ、目が死んでるよ」
「ロビー殿、何を言うんだ。見てごらん、このアイシャの目を。美しき眼を。彼女の目は生きてるよ!」
「いや勇者、そういう意味じゃ……」

 なんだこれ。
 なんで私はイケメン三人に囲まれながら牢屋に入ってるのだろうか。

 あの後、勇者に思いっきりビンタをくらわした私は。

 当然のように牢屋に逆戻りとなりました。

 まあそれはいい。良くないけどいい。むしろその方が平和になるならと思ったのだけど。

 なぜかイケメン三人が付いてくるから、国王始め重鎮貴族が大慌てだ。

 今も牢屋の前でわめいてる。

「勇者殿、早く離れてください!その女は危険です!」
「そうですぞ!聖女だけでなく勇者殿にまで暴力振るうとは!絶対魔王がとり憑いております!早く成敗を!」

 うんうん、もうどうでもいいから静かにしてくんない?私、もう一生この牢屋生活でいいからさ。

 早くイケメンズを連れて行ってくれ!

 だが相手が相手だけに強硬手段にいけないのだろう。

 あまりにうざいので、とりあえず私は一つずつ疑問を解決する事にした。

「ねえロビー」
「ん~?」
「どうして私を大広間に連れてったんですか?」

 それがそもそもの発端だ。
 私をあのまま牢屋に入れておいてくれたら、こんな事にはならなかったのに!

 そう言えば、ニコッと微笑むロビー。

「だってあのままだと、アイシャが魔王で決着付きそうだったんだもん。そうなったらアイシャの知らないとこで死刑決定してたよ。それは嫌でしょ?」
「嫌ですね」

 嫌に決まっとるわい!せめて裁判して!反論させろ!

「でしょ?だから呼びに行ったんだ~」

 だ~とか言われましても。勝手な話ですが、この状態になるなら呼びに来ないで居てくれた方が私的には平和だったのかも知れない。

 以前にも言ったけど、私はモブ希望なんだよ!陰から見守り隊なんです!

 だからくっつくな、暑い!

「ちょ、ベリアト、暑い!離れて!」
「嫌だ、愛車は俺が守る!」

 素敵なセリフだが脳内変換で誤字ってるので、全然ときめかない!

「リューランド様」

 ベリッとベリアトを引き剥がし、次は勇者を向く。

「なに?」

 ニコニコ無邪気に笑ってますけどね。

 魔王の魂どうなった。て聞くのは野暮なんだろうか。聞いちゃ駄目ですか。空気読め?空気って何だ。

「あれはセクハラだと思います。次やったらぶっ飛ばします」
「もうビンタしてるよね」
「せくはら?」

 ロビーとベリアトのそれとないツッコミはこの際聞かなかったことにしておこう。


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