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「な……!」

 突如現れた私に、驚愕の目を向けるは我が親友──もとい、元親友フィリア。

「な……アイシャ!?なぜここに……!」

 目を見開いて叫ぶのは王太子、ラルフ。

 そして、一様に驚いた目で私を見る、その他大勢。
 省略しすぎ?いやいや、省略しすぎないと話が進まないくらいに人が多いんだよ。あ、国王夫妻が居るって事くらいは省略しない方がいいのかな。

 呑気に考えてると思われるかも知れませんが、内心大パニックなんです。

 あちらさんも驚いてるけど、こちらさんも……私もビックリなんですよ。いきなりロビーに連れられて出たのが、まさかのフィリア達の居る場所なんて!

 え、何これ騙された?ひょっとしてロビーはすでにフィリアに懐柔されてるとか?

 そう思ってパニック。
 でもこんな時にこそ……貴族たるもの、令嬢たるもの、どんな時でも表面上は冷静であれ!と言われてきた。ので、顔に出ないだけなのよ!

 見覚えのあるこの場所は、何度かパーティーで入ったことある大広間だった。

 そこに居並ぶはさっき言った面々に、見覚えあったり無かったりの貴族連中。おや、私の両親も居るねえ。

 だが、そこではたと気付く。

 人々がわやくちゃと集う中で、その人だけが異彩を放っていたのだ。

 ラルフと同じ金髪。
 ラルフとは異なる朱の瞳。
 端正な顔立ちは、ラルフよりも美形と言えた。

 完璧なまでのイケメンが、そこにいたのだ。

 その周囲に人はなく──まるで近寄る事すら失礼にあたると思わせるような、崇高な威厳をまとい、その人は立っていた。

 その右手には抜き放った剣を持ち。

 左足で『それ』を踏みつけにしながら。

「──って、何それ!?」

 それ、とはその謎の男性が踏みつけてる代物だ!

 魚のような鱗をその体に持ち、顔は獣のように毛が生え、その口はやはり獣のごとく鋭い牙を覗かせていた。

 腕の一本が無くなっているが、おそらくは謎の男性が持つ剣によるものだろう。
 その剣の先端から、紫という有り得ぬ色の体液が滴り落ち、化け物の傷口からは同様の体液が流れ出していたから。

 思わず『それ』扱いしたけど、どう見ても獣じゃないことは分かる。

 これはあれだ、そうだそれだ、きっとこれだ、一体どれだ。……いやまて落ち着け。

「アイシャ、落ち着きなよ」

 ロビーに言われたあ!
 分かってます分かってます、冷静に、ですね?

 分かっては居るんですが。

 不意にツンと鼻をつく異臭。これ、そこの化け物の臭いですよね!?

 思わず鼻押さえて顔をしかめたわ!

 そんな私を見てクスリと笑う男性。

「──!!」

 その綺麗な顔に浮かぶ美しい笑みに。

 ドカーンと何かがやられた気がした。

「ロビー殿、その女性は?」

 その時、謎の男性が口を開いた。あああ、なんて耳心地の良い声!これ、前世だったらあの声優さんに近いんじゃないかな!?私一押しのあの人のおお!!

 内心ハアハアしてるのは内緒です。

 どうやら私の事を言ってるようで、私は慌てて頭を下げた。──なんか、礼儀を持って接するべきだと思わせる雰囲気をもっていたから。

「失礼しました。わたくしは──」
「リューランド様、そいつですわ!!!!」

 自己紹介しようとしたまさにその瞬間。
 私の声にかぶせるようにして叫んだのは……フィリアだった。

 すんごい形相で私を指さし『そいつ』呼ばわり。一体なんなのだ。

 思わず二の句を告げれず絶句していれば、フィリアが更に叫ぶ。

「この女こそが──この女に、魔王の魂がとり憑いておりますわ!わたくしには分かります、この女から立ち上がる魔の気配に!」
「は、え、は、んんん???」

 温度差はかくもというくらいの温度差で。

 熱くなって叫ぶフィリアとは対照的に、意味が分からない私は、ただひたすらに疑問符を浮かべる事しか出来なかった。

 ええっとフィリアさんや、あんた何言ってんだい?

 ポカンとして彼女を見つめていたら、ラルフも前に出て、私を指さした。

「そうかアイシャ、やはりお前は魔にとり憑かれていたのだな!なんと恐ろしいことだ、この魔女め!さあ勇者殿、どうかこの女めを一思いに斬り捨ててください!」
「そうよそうよ、アイシャなんてやっちゃえ殺っちゃえ~!」
「はああああ!?」

 これがかつての友か、親友か。

 あまりにあまりなラルフとフィリアの言葉に。
 もう私、開いた口がふさがりませんよ!

 てかこの二人、何言った?
 魔王?
 勇者?

 え、何それ。私が地下牢入ってる間に何が起こったの?急展開すぎて、話がついてけません!

 一人置いてかれてる感が凄い私。
 その時、ポンと右肩を叩く人物がいた。ロビーだ。

「あのね。ちょっと遠い国の話なんだけどね。魔王が復活したんだって」
「はあ……」
「でね、この人が──リューランドが、魔王倒した勇者なんだって」
「はあ」
「でも肉体は滅んだけど、魔王は魂だけになって逃げちゃたんだって」
「はあ、さいで」

 そしてポンと左肩を叩かれた。どこに居たのか、ベリアトが神妙な面持ちで立って居た。

「勇者殿は、その魔王の魂がこの国まで飛んで来たのを追いかけて来られたのだ。そしてあと少し、というところで……寸での所で奴は逃げ込んだ。この城内へ」
「はあ」
「どうやらこの城内の誰かにとり憑いたようなのだが、気配がぼやけて分からない。そこで城内に居る者をここに集めたところで……あの魔物が現れたので、勇者殿が倒された」
「はあ~……」

 で、今ここ状態なんですね。

「つまり、その魔王の魂がとり憑いたのは、私ではないかと?」

 そうフィリアとラルフは言ってるんですね?

 状況はよく分かった。よく分からんけど分かった!

 つまりこれはあれか。私を処刑エンドに持ってこうとするフィリアの策略ってわけかああ!!!!

 おのれフィリア……いや、理沙め。私が邪魔だか何だか知らないが、そこまでするかあ!?

 ほとほと呆れた私は、ビシッとフィリアに指を突きつけるのだった。

「フィリア!もう私は貴女を親友だとは思いません!これっぽっちも、これーっぽっちも!砂一粒分すらも!思いませんから!!!!」
「あっはっは!こっちは元から親友だなんて思ってないわ!わたくし聖女ですのよ?貴女が友だなんて恥ずか死しますわ!」
「にゃ、にゃにおう!?お弁当に入ってた嫌いな人参、食べてあげたこと忘れたわけ!?」
「んな……愛理こそ!ウニが駄目だって修学旅行で半べそかくから食べてあげたでしょ!?」
「は、半べそかいてないわあ!理沙だって職員室の花瓶割っちゃった時、泣いてたでしょうが!一緒に謝ってあげたの忘れたのかあ!」
「そんなのもう時効よ!」
「ならあれはどうだ、あの……!」

 もはや醜い子供の喧嘩だ。
 というか、前世の名前もネタもバンバン出してるけど、いいのかなこれ。まあいいか、どうせ誰も理解できまい。

 歯軋りしながらギリギリ睨み合いをしていたら。

 大きな声で笑う人物が、一人。

 すっかり忘れてた、勇者その人だった。








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