上 下
7 / 23

6、

しおりを挟む
 
 
「二人とも無事で何よりだ。しかし、どうしてこんな魔物が学園内に……?」

 それから少しして、息を切らしながら王太子が走って来た。どうやらベリアトはとんでもない速さで駆けて来てくれたらしい。でもってロビーは瞬間移動か飛行魔法か?とりあえず王太子が敵わないほどの実力者二人が来てくれたってわけだ。

 そうして到着した王太子は現場の状況を分析し、教師や学園の警備の者たちと話していた。呆然としてるうちに人が集まってて、現場は騒然としている。

 少し離れた場所で、私とフィリアは座り込んでいた。

「アイシャ、ごめんね……」

 不意に、フィリアが呟くように口を開いた。ショックだったのか、これまでずっと黙ってたのだけど。

 現場検証のごとく魔法や道具やらでその場を調べてる大人を見やってから、王太子とベリアト、ロビーがそばに寄って来た時だった。

「フィリア?」
「わ、わたし恐くて。本当に恐くて……」

 私の事を突き飛ばしたことを謝ってるのだろうか?それは仕方ないよ。あれは不可抗力ってやつだ。結果として今生きてるんだから。だから気にする事無いよ。

 そう言おうと口を開きかけたら、一瞬フィリアの方が早かった。

「まさかアイシャが私を置いて逃げようとするなんて、思わなくって!突き飛ばされた瞬間よろけて……!伸ばした手がアイシャに当たって、まさかあんな事になるなんて!!!!」

 ……

 それはその場に居る者全員の耳に届くような大きな声だった。検証作業をしていた者たちも驚いて顔を上げ。次いで私の顔を見る。その目が険しいというか、責めるような……。

「ええっと、フィリア……?」
「アイシャが『あんたが囮になりなさいよ!』って言って来た時はビックリしたけど……ごめんね、ごめんねアイシャ。私上手に囮になれなかった!」
「え、ええっと……?」

 何を言ってるんでしょ?
 私がフィリアを囮に?

 え、ていうかフィリア、私を前に押しやって、私の背後に隠れてたよね?

 あの時は、フィリアが何かに躓いたのか、いきなり私を押したんだよね?

 え、どうなってんの、これ?

 あまりに理解不能な言葉に頭がついていかなくて。ポカンとしてたら。

 わあっ!!と泣き出されてしまった。
 泣き出して、フィリアは王太子の胸に顔を埋める。

「ごめんなさい、ごめんなさい!私が悪いの、アイシャをうまく逃がそうと思ったのに!ごめんなさいー!!」

 そのままワアワア泣き続けるもんで。
 私はそのまま何も言えないのであった。

「アイシャ……本当か?」

 信じられないといった目を向ける王太子。
 ブンブンと首を横に振ったところで信じて貰えるのかな、これ。

「え~アイシャってそんなことする人なんだ?」

 知らなかった~女ってこえ~。
 既に白い目を向けてくるロビー。

 そして。

「アイシャ……流石に友を囮にするのはどうかと……」

 えええええ!

 ベリアトまで!

 え、何これ、全て私が悪い説!?
 私が悪者!?

 いや別にフィリアを悪者にするつもりないけどさあ!でも酷くね!?

 何かを言いかけたその時。

「いっつ──!!」

 不意に膝に痛みが走った。
 そこで初めて気付く。倒れた時にすりむいたのだろう。結構な出血をしてることに。

 気付いてしまえば、どんどん痛みが浮上する。ジンジンと痛む膝と今生じてる誤解の状況に、知らず涙が浮かんできた。

 なんで?なんで私だけこんな目に……?

「ひどいわ、泣きたいのは私の方よ、アイシャ」

 なのにフィリアは容赦ない。
 容赦なく、酷い言葉をかける。

 どうしてフィリア?
 どうして、理沙?──私達、親友でしょ?

 悲しくなってその目を見つめ返したら。

 そっと近づいてきた。

 そして膝に手を伸ばすフィリア。

 ビクリと体が震えたが、膝に触れる直前で手が止まるので私も動かない。

 膝の上で手をかざしたフィリアは。
 直後、何かをブツブツと呟き始めた。
 それは、私には理解出来ない言葉。

「フィリア……?」

 目を閉じて、フィリアは呟き。
 言い終えたのか、そっとその目が開かれたその瞬間。

 青い瞳だったはずのフィリアのそれが、淡い光をもつ。そしてかざされた手もまた──。

「温かい……」

 ほわ……と、膝に温もりを感じ。
 そしてその手が離された後、私は信じられないといったように目を見開いた。

「嘘!傷が……治ってる!?」

 魔法が存在するこの世界で。
 けれど治癒魔法だけは存在しなかった。
 しないはずだった。

 唯一の例外はあれど、もう数百年とその例外は存在しなかった。

 しなかったというのに……。

「フィリア、あなた……」
「なんだか出来そうな気がしたの。良かった」

 そう言って、ニコリと微笑んだフィリア。
 その目の奥に、何か嫌な光が見えた気がしたのは。

 それは気のせいだろうか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール
ホラー
愛しています愛しています 私はあなたを愛しています 恨みます呪います憎みます 私は あなたを 許さない

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

悪役令嬢がキレる時

リオール
恋愛
この世に悪がはびこるとき ざまぁしてみせましょ 悪役令嬢の名にかけて! ======== ※主人公(ヒロイン)は口が悪いです。 あらかじめご承知おき下さい 突発で書きました。 4話完結です。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

婚約破棄だと言われたので喜んでいたら嘘だと言われました。冗談でしょ?

リオール
恋愛
いつも婚約者のそばには女性の影。私のことを放置する婚約者に用はない。 そう思っていたら婚約破棄だと言われました。 やったね!と喜んでたら嘘だと言われてしまった。冗談でしょ?

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

処理中です...