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4、王家に虐げられる

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「モリア嬢の不貞に関して、申し開きがあるなら述べよ」

 帰城した王太子が王に報告したのだろう。その日のうちに、王城に一家総出で呼び出された。

 王の間にて家族で膝を折り頭を垂れる相手は、当然ながらボランジュ国王だ。高座に置かれた立派な椅子に腰かける王の横には王妃様。そしてその背後に後ろ手に立つのは王太子。

 三人とも冷たい目でこちらを見下ろしている。

 見下ろされるは我が公爵家一家。
 そしてベニート侯爵家一家である。

 ベニートとモリアは当然なのだけれど、私は関係ない……と逃げたかったが、ベニートが一応私の婚約者なので無関係な顔はしてられないのだ。そういう意味では妹のカンナが最も無関係なんだろう。

 だが王家は一人残さず呼び出した。それの意味を理解出来ないほど、ここに集った者も馬鹿ではなかった。

「なんで私が呼び出されなきゃいけないのよ」

 違った。理解してない馬鹿が一人居た。
 妹のカンナが、小声でブツブツ文句たれてる。理解出来てないのってある意味幸せなのかもしれない。

 頭を下げながらチラリと視線を動かせば、真っ青な顔でガタガタ震えてるモリア。
 そして震えはしてないが、蒼白な顔の父。そして母。

 どうやらこの三人は理解してるようだ。
 この後に何が待ってるのかを。

「ち、違うのです王よ!全て誤解なのです!」

 最初に口を開いたのは父だった。
 公爵家が消えて無くなるかどうかの瀬戸際なのだ。流石に黙って処罰を受けるつもりはないらしい。

「何が違うのだ?」

 だが王は冷徹に問い返す。きっとどんな言い訳も受け入れるつもりは無いのだろう。

 それを理解したのか一瞬父は沈黙し。
 だが次にバッと顔を上げた時には、何かを決意した顔をしていた。

「これは全て……ミレナのせいなのです!!」

 ──なんかとんでもない事を言いだしましたね。

 え、私のせい?なぜ?

 理解が追い付かなくてポカンと父を見れば、グルンとその顔がこっちに向いた。軽くホラー。

「ミレナ!お前、王太子妃となる姉を妬んだ挙句、姉と婚約者であるベニートを騙してあのような状況を作り出すとは!なんと恐ろしい娘だ!!」
「──は?」
「分かっているぞ!お前は見た目通りに腹黒で恐ろしい女だ!ベニートの愛が自分に向かない事、モリアが幸せな結婚をすること。こたびの件は、それらを妬んでいたお前の仕業だろうが!!」
「いえ、私は何も……」
「そうですわ!あの日ミレナに呼び出されて、何やら飲まされたのです。きっとその中に薬でも入っていたのでしょう!気絶した私は目を覚ました時には……アルンド様、貴方がおられたのです!」

 父のとんでもない発言にモリアが乗っかる。こいつら……全て私のせいにするつもりね。

「本当か、ベニート」

 疑わし気な目で問う王太子の言葉に一瞬ビクッとなったベニートだったが。
 無駄にこういう時の回転はいいのか。父やモリアの考えを理解して、大きく頷くのだった。

「そ、そうです!俺もあの日ミレナに呼び出されて……気付いたら裸でベッドに横たわっていたのです。凄い音で目が覚めて、何事かと外に出たら……あのような事態になっていたのです!」

 えええ……そうきたか。
 はたして国王や王太子は信じるのか。
 そっと見やれば、その目には戸惑いが見て取れた。あ、なんかまずいかもしれない。

「そうなのか?モリア……お前は私を裏切って無いと?」
「ええそうですわ!わたくしは純潔のまま、貴方に嫁ぐことだけを夢見ておりました!そして今も清いままです!」

 清いの意味、分かってるのだろうか。モリアの言葉に呆気に取られてしまう。
 そんな私をモリアが勢いよく首をグルンと回して見て来た。これもホラー。

「ミレナ!お前は私と王太子の仲を引き裂こうと画策したようだけれど!残念ね!私の清らかさは、誰よりもアルンド様が理解してるわ!」
「そうだ!ミレナ、お前こそ色々な男と関係を持ってるのではないか!?まあお前のような醜い女、相手にするような輩はろくでもないだろうがな!!」

 モリアもベニートも、好き勝手言ってくれてますね。
 これ、どうしたらいいんでしょう。

 どうすべきか悩んでいたら、目の前に父が立った。
 え、と思う間もなく胸ぐらを掴まれ無理矢理立たされて──

パアンッ!!!!

 思い切り頬を殴られた。

「──!!」

 不意をつかれたせいで、口の中がしたたかに切れた。血の味がする。
 痛みに顔をしかめていたら、乱暴に床に投げ飛ばされた。

「この屑が!王よ、どうかこの愚か者に罰をお与えください!我らを騙そうとした大罪人です!」
「そうだな」

 え、ちょっと待って。
 王様、あっさり信じるの?
 黒髪の……この国では疎まれる色を纏う私の言葉は、聞く必要も無いと言うの?

 弁解もさせてもらえないの?

 呆然とする私の目の前で、王は手を私に付き出して──

「呪われた色を纏いし公爵家次女ミレナよ、王家を謀った罪は重い!その命をもって償え!!!!」

 処刑宣告をしたのだった。




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