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プロローグ

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 光の国──そう呼ばれる国がある。
 私が住まう国、ボランジュ王国がそうだ。

 何がどう光なのか分からないが、確かに明るく輝いているのかもしれない。

 ──私の世界を除いては。

「何をやっていた、ミレナ!掃除をしておけと言っただろう!!」

 帰宅してばかりの父が怒鳴り、私の頬をぶつ。
 倒れ込んだ私は静かに微笑み、「申し訳ありません」と小声で呟いた。

「おおいやだ、掃除もまともに出来ないなんて本当にお前は公爵家の娘なの?」

 眉をしかめ、蔑んだ目で母が私を見る。
 それにも私は黙って微笑みを返すのみ。

「それ掃除用の服?え、ちがう?あまりに汚いから分からないわ、アハハ~!」

 そう言って、モリアお姉様が薄笑いを浮かべて私の服を踏みつける。
 笑みを浮かべたまま、終わるのを待って私は立ち上がった。

「ねえミレナお姉様、私の宿題やっといてくださいました?」
「ハンカチに刺繍ですね、こちらです」
「なにこれ、だっさ!こんな物持って行って私に恥をかけというの!?まったくお姉様は役に立たないわね!!」

 そう言って妹のカンナは、ハンカチを破り捨てた。きっと既に用意されてる別の者が作ったハンカチがあるのだろう。
 そう思いながら、静かに微笑み、ハンカチだったそれを私は拾う。

「ああ、お前を見ていたら折角楽しかった夜が台無しになるわ!とっとと部屋に戻りなさい!」
「ねえお母様、今日の舞台は本当に最高だったわ!また行きたい!」
「ええモリア、また行きましょうね」
「お父様ぁ、今日のお店はあまり美味しくありませんでしたわ。もっとデザートが美味しいお店がいいですぅ!」
「そうか、カンナには少し大人の味すぎたかな。良い店が無いか探してみよう」

 私以外の家族は皆が皆、楽し気に会話し、部屋へと戻っていった。
 それを頭を下げながら見送って、私もまた自室へと戻ろうと踵を返した。

 屋敷から一旦出て、庭に出て……離れた場所に建てられた小さな小屋に入る。

 中には簡素なベッドに小さなテーブルと椅子。小さな衣装ダンスは、それでも服はスカスカで余りある。
 足元に置かれた箱には、唯一の趣味である本が数冊入っていた。

 部屋に入ってベッドの上で少しボウッとしていたら、ノックの音がして扉を開ける。そこには、食事が乗ったトレイを手にしたメイドが立っていた。

「ありがとう」
「遅くなり申し訳ございません」
「いいのよ、気にしないで」

 どうせあの両親が、自分たちが帰宅するまで私には食事を与えるな……とでも言ったのだろう。

 質素な食事をテーブルに置いて、窓の外を見やる。
 月も無い今夜は、真っ暗だ。

 私以外の家族だけ仲が良く。
 私だけが理不尽に虐げられ。

 はたしてどちらが先なのかとふと考える。

 家族が居なくなるのが先か、私が先に居なくなるのが先か。
 家族が崩壊するのが先か、私が──崩壊させるのが先か。

 今は笑みを浮かべることもなく、無表情のまま。

 私の心のように暗い空を見上げて。

 私は無言で食事をとるべくテーブルに向かうのだった。

 そんな私を闇だけが見ている──



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