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15、私は姉を…
しおりを挟む「お姉様、お食事の用意が出来ましたよ」
そう言って、私はコトリと姉の前に料理の乗った皿を並べる。美味しそうな香りがフワリと鼻腔をつくけれど、それは姉の意識を奪うものにはならなかった。
姉は定まらない目線を宙にやりながら、ただ……ブツブツと呟いている。
「ほら、今日のシチューは美味しく出来ましたのよ」
そう言って、スプーンで掬って口元へと持って行くと、一応は口に入れて咀嚼する。
その様を愛し気に見つめながら、ゆっくりと、ゆっくりと姉に食べさせた。
食べ終わらせると次は自分の番だ。すっかり冷めてしまった、具の少ないスープ。それが今夜の夕飯だ。
あの日──クリスティナ嬢に飛び掛かった姉はその場で取り押さえられ、私と共に追放となった。
泣き叫び続けた姉だったが、国外へと運ばれる馬車の中で呆然自失となり……ついに正気を手放した。
恋とはかくも人を強くし弱くするものなのか。
恐ろしいものだ。
かつて一時とはいえ王太子に恋した私は、けれどそこまでの狂気を理解出来ない。
結局のところ、私の想いなどその程度だったという事だろう。そう考えれば、姉の方がよっぽど王太子を真剣に愛していたと言える。
「あんなことしなくても……いつでも婚約など解消したというのに……」
そもそも王太子が望んだ婚約だ。
嫌になったならそう言えば良いだけのこと。正式な手続きを行えば婚約を解消する事なんて造作もない。婚姻解消は難しくとも、婚約解消なんて珍しい事ではないのだから。
だがきっと姉はそれでは満足しなかっただろう。
だからこそ、あのような場で茶番を繰り広げようとしたのだ。
私の心をどん底に落とさないと気が済まなかったということか……。
それほどまでに、姉は私を憎んでいた、恨んでいた、嫌っていた。
それほどまでに強い思いで、姉は私の事を考えていた。強い、強い思い……そう考えると
「ゾクゾクするわね」
ねえお姉様?
チラリと見やれば、相も変わらず宙を見続ける姉。その目に映るは何か……。
大丈夫ですよお姉様。
私はずっとそばに居ますから。
私だけは貴女を愛してさしあげますから。
かつてのように。
互いを愛しい存在だと思っていたかつてのように。
私は姉を愛しましょう。
── 私は 姉を 溺愛したい ──
~fin.~
===あとがき===
主人公ハッピーエンド
姉バッドエンド
筆のノリが悪い作品でして苦労しました。お目汚し失礼しました(汗
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