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6、私は姉の悪意を見たくない

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「おはよう、二人共」

 馬車から降りたところで、そこには王太子が立っていた。
 待っててくれたのだろうか?もしそうなら嬉しい。

 浮かれそうになる心を宥めて、私は挨拶を返した。

「おはようございます」

 久しぶりにお会いするルーカス様は変わらぬ優しい笑みを浮かべてくださった。

 でも何だろう?
 変わらないはずなのに、どこか……

「おはようございます、ルーカス様」
「ああ、おはようマリナ」
「今日は良いお天気ですわね」
「そうだねえ、先日は随分荒れたからね」
「妹の学園初日が良い天気で良かったですわ」
「うん、そうだね」

 何気ない会話。
 私を思いやってくれてると嬉しくなりそうな、勘違いしそうになる姉の言葉。そしてそれに返すルーカス様。何気ない二人の会話。

 そのはずなのに。

「!?」

 目を疑った。
 だが現実に目の前で起きた状況に、私は言葉を失ってしまったのだった。

「じゃあねルナ。一年生はあちらの校舎になるわ。迷わないよう気を付けてね」
「ルナ、楽しい学園生活を!」

 言葉だけなら普通なのだ。本当に普通。
 だがそう言った二人は、あろうことか去って行ったのだ。

 ルーカス様の婚約者である私の目の前で。

 姉は彼の腕に自身の腕を絡めた。それはとても極自然な動きで、今日初めてそうしたとは……とても思えなかった。

 ルーカス様もまた、それに抵抗することもなく、自然に受け入れていた。

 私が居なかった一年。ルーカス様と姉の二人に接点が無かったなんて、思えない。思わなかった。

 だが予想以上の二人の接近に、否応なしに私の心はかき乱されるのだった……。



* * *



 今朝の一件で、私の心はかき乱され、入学の式典の内容は何も頭に入ってこなかった。

 教室から式場へ、そして気付けばまた教室に戻っていた。

 ずっと私の頭を占めるのは、朝の姉の行動。

 あれは特に他意の無い行動だろうか?
 ルーカス様と腕を組む行為……それは姉にとって大した意味を持たないのだろうか?

 否。

 姉は今もルーカス様に恋してる。その気持ちは静まるどころか、むしろ激しく燃え盛っているように私には感じられていた。
 ならばあの行動には、好意によるものが大きいだろう。
 そしてそれを私へと見せつける、悪意ある行為。そう考えるのが妥当だ。

 ではルーカス様は?

 彼はどうして姉の好きにさせてるのだろう?

 この1年、彼が学園に通って1年。
 たった1年、わずか1年。

 けれど、長い1年──。

 確実に、私と姉マリアとルーカス様との関係に……変化が起きてる事を、嫌でも感じた。

 確実に。
 亀裂が入ってる事を……感じざるを得なかったのだ。




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