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2、私は姉に誤解されたくない
しおりを挟むまさか。どうして。
王太子と私が婚約。
予想外の事態に、私は混乱していた。
だがお姉様はそれ以上だろう。
お父様の話を聞くや否やガタンと椅子を倒して立ち上がり。
そして怒り狂うのだった。
予想外だと思ってるのは私や姉だけではない。両親もきっと姉が選ばれるだろうと思っていた。
それほどにマリナお姉様は美しく──そして聡明だった。
来年から貴族が三年通う学園に入られるが、既に三年生まで予習は完璧だ。成績はトップ争いとなるだろう。
そして美しく品行方正。世の令嬢の憧れの的だった。
誰よりもそんな姉に憧れてるのは、誰あろう私だった。
優しく美しい姉は私の自慢だった。大好きな姉だ。
なのにその姉が、今目の前で。
私を──射殺さんばかりの目で睨みつけている。
「どうして!どうしてルナなんかが……!!」
なんか。
その言葉が胸に突き刺さる。
そこには既に優しい姉は居なかった。
居るのは、鬼の形相をした女──齢14歳にして、嫉妬に狂う女のみ。
「お姉さ……」
「許さないから!」
どうにか姉の心をなだめようと声をかけたが、それを遮るように叫ぶ姉。
「どうやって王太子を誘惑したのか知らないけど、お前だけは許さない!絶対許さない!!」
誘惑?そんな事した覚えはない。
王太子と会ったのはあのお茶会が初めてだ。そしてそのお茶会では、ほとんど姉と話していたではないか。私はただ黙って同席してただけにすぎない。
それは姉が、姉こそが一番よく知ってるはずだというのに。
なのに姉は私が王太子を誘惑したと思い込んでるのだ。
……恋とは、かくも人を変えるものなのか。
12歳の私にはそんな姉の変貌がただただ恐ろしく感じた。
きっと私の顔は青ざめてるだろう。
そんな私を忌々し気に見つめる姉。カチャンと残された私のカップが姉の手に触れた瞬間──
バシャア!!
「──!?」
何が起きたのか一瞬分からなかった。だが直ぐに状況を理解する。
姉の手に、私のカップが握られていたのを見て、理解した。
姉が私の顔に紅茶をかけたのだ。幸い、すっかり冷めたそれは火傷をするようなものではなかったけれど。
それでも、そんな事を姉がした事に、私はショックを受けた。
あまりの事に言葉が出ない。
「許さないから……」
呆然とする私に、姉は今度は低くくぐもった声で言った。
「お前だけは許さない。私は認めない。お前など、お前なんか……!」
「マリナ!いい加減に──」
「うるさい!!!!」
慌てて諫めようとした父にも乱暴に叫び、姉はドカドカと激しい足音を鳴らしながら部屋を出て行った。
ご丁寧にバンッ!!と激しく扉を閉めて。
一気に静まりかえる部屋の中。
ポタリポタリ……
紅茶が頬を流れ、顎を伝って落ちる音がやけに響いて消えた。
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