26 / 40
第一部
25、吸血鬼と独白(1)
しおりを挟む
※ギャグ無しの真面目です
何なのだ、あの女は。
今日の事を反芻しながらイライラを抑えられなかった。
やはりフィーリアラを町なんかに行かせるべきじゃなかったんだ。
あの愛しい存在を……少し気は強いが、とても優しくて暖かい……愛しくて仕方ない女性。
金髪金眼の彼女を見た時、太陽の女神が舞い降りたのかと思った。クオーターの私は陽の光も平気だが、それでも強い日差しにはふらついてしまう。その私が初めて正面から太陽を見たと思ったのだ。
あれほどまでに美しい存在に出会ったことは無かった。
あれほどに強い魂の光を持った存在を俺は知らない。
一目で惹かれた。一目で恋に落ちた。
父も祖父も、伴侶である母や祖母の事を褒め称えていた。お前も彼女たちのような伴侶を見つけろと言われていた。
だが少しとは言え、血を求める俺を好きになってくれる者など居るとは到底思えなかった。──母や祖母はかなり特殊なのだと思っていた。
勿論、女性の吸血鬼だっている。祖父のような純血から私のように混ざった者まで。何度か会った事もあるけれど。
誰も俺の気持ちを震わせる事は無かった。
そんな俺が。
出会ってしまったのだ。
──運命の相手に。
フィーリアラの気持ちは分からない。けれどもう手放す気など無い。
彼女が自分を受け入れてくれるまで待つ。自分を拒むのなら仕方ない。それでも誰にも渡すつもりは無かったけれど。
分かっている、これは非常に自分本位な我儘だ。
それでも、彼女が自分以外の誰かに微笑みかけるなど許せなかった。──ヨシュとエミリーとふわもふ達でギリだ。
それ以外の存在に──ましてや男に微笑みかけるのを見てしまったら、殺してしまうかもしれない。相手の男を。
それほどに自分は彼女に惹かれていた、囚われていた。
いつかちゃんと言いたい。
愛してると。結婚して欲しいと。
けれどまだ時期尚早だ。ちゃんと彼女の気持ちを確かめないと。
彼女の事が大事だから。
早く手に入れたい。早まってはいけない。
葛藤しまくった一ヶ月だった。
そんなわけで町に行くのも本当は嫌だったのだけれど。
「貴方の妻となる私がすべきことなんです!!!!!」なんて言われて舞い上がってオッケー出した自分を殴りたい。
まさか、あんな厄介者を連れてくる事になろうとは!
醜いとしか思えなかった。
愛しいフィーリアラの妹だとは思えないくらいに醜かった。
吸血鬼の能力なのか、俺には相手の魂の光が見える。体の周囲に色づいた光が見えるのだが。
フィーリアラは美しく光り輝いていた。
ヨシュやエミリーは、ごく一般的な乳白色の光。
そしてあのウェンティという女。
あれは何という色なのだろう。
どす黒いような薄汚い茶色というか灰色というか……とにかく汚い色を混ぜ合わせた色。
あんな色は初めて見た。不快でしかなかった。
抱きついてきたときは、本当に殺しそうになってしまった。体を擦り付けて来たときは、惨たらしい殺し方は何があったかと真剣に考えてしまったほどだ。
屋敷になんて一歩も入れたくなかったのだけれど。
「申し訳ありません、ゼル様。一晩だけ宜しいでしょうか?」
そう、心底申し訳なさそうにフィーリアラに頼まれて、断れるわけがなかった。
あの女が今、屋敷内に居る。
そのことがたまらなく不快だった。
ベッドに横になり、そっと目を閉じた。集中して警戒する。屋敷内に意識を巡らせる。
吸血鬼の能力は便利だ。意識すれば屋敷内の動きが手に取るように分かる。
ふわもふ達……は大丈夫だな。みな気持ち良さそうに眠っている。
エミリーは……部屋で熟睡か。今日も疲れただろう。彼女は本当によくやってくれている、何か礼をしたいと思ってるのだが。今度フィーリアラに聞いて、喜びそうなものを買ってあげよう。あとお給金も増やそう。
ヨシュは……せっかく買った肉が今日はお預けになって泣いてるのか。仕方なかろう、あの女が居るのだ。あの女が居なくなってからゆっくり食べた方が味わえると思うぞ。冷気魔法で保存してるのだから肉は大丈夫。泣くなっつーの。
そしてフィーリアラ……はまだ起きてるのか。妹が何かしないか心配なのだろう。本を読みつつ、扉の向こうに何かしらの気配が無いか気にしてるようだ。だがそれも限界のようで。コックリコックリ船をこぎ始めているのが微笑ましい。愛しさがこみ上げてくる。
──ほとんど覗きのようなこの能力は、ヨシュも知らない。知られたら怒られるから内緒な、とは父の言葉。確かにそうだ。だから余程の事がない限り、この力は使わなかった。今夜は特別だ。
さて、あの女はどうか──気配を探って。
ピクリと眉が動く。
何をやってるのだ……。
気付くのが遅れた自分を殴りたい衝動に駆られながら。
俺はベッドから体を起こした。
コンコンコン
予想通り。
女は俺の部屋の扉をノックした。
そして。
返事もしてないのに、扉が開かれる。
「公爵様……」
女が。フィーリアラの妹とは思えない醜い女が。
透け透けピンクのベビードールを着て部屋に入ってきたのを見た瞬間。
殺意を覚えた俺のことを責める者は、居ないのではないだろうか。
===作者の呟き=================
ここでD〇Cのクラ〇ザーさんが出てきたら面白いんだけど。「殺〇するぞ!」とか言って(笑(先日久々に見たもんで・・・)
にしても、なんで公爵はベビードールなんてものを知ってんだ
何なのだ、あの女は。
今日の事を反芻しながらイライラを抑えられなかった。
やはりフィーリアラを町なんかに行かせるべきじゃなかったんだ。
あの愛しい存在を……少し気は強いが、とても優しくて暖かい……愛しくて仕方ない女性。
金髪金眼の彼女を見た時、太陽の女神が舞い降りたのかと思った。クオーターの私は陽の光も平気だが、それでも強い日差しにはふらついてしまう。その私が初めて正面から太陽を見たと思ったのだ。
あれほどまでに美しい存在に出会ったことは無かった。
あれほどに強い魂の光を持った存在を俺は知らない。
一目で惹かれた。一目で恋に落ちた。
父も祖父も、伴侶である母や祖母の事を褒め称えていた。お前も彼女たちのような伴侶を見つけろと言われていた。
だが少しとは言え、血を求める俺を好きになってくれる者など居るとは到底思えなかった。──母や祖母はかなり特殊なのだと思っていた。
勿論、女性の吸血鬼だっている。祖父のような純血から私のように混ざった者まで。何度か会った事もあるけれど。
誰も俺の気持ちを震わせる事は無かった。
そんな俺が。
出会ってしまったのだ。
──運命の相手に。
フィーリアラの気持ちは分からない。けれどもう手放す気など無い。
彼女が自分を受け入れてくれるまで待つ。自分を拒むのなら仕方ない。それでも誰にも渡すつもりは無かったけれど。
分かっている、これは非常に自分本位な我儘だ。
それでも、彼女が自分以外の誰かに微笑みかけるなど許せなかった。──ヨシュとエミリーとふわもふ達でギリだ。
それ以外の存在に──ましてや男に微笑みかけるのを見てしまったら、殺してしまうかもしれない。相手の男を。
それほどに自分は彼女に惹かれていた、囚われていた。
いつかちゃんと言いたい。
愛してると。結婚して欲しいと。
けれどまだ時期尚早だ。ちゃんと彼女の気持ちを確かめないと。
彼女の事が大事だから。
早く手に入れたい。早まってはいけない。
葛藤しまくった一ヶ月だった。
そんなわけで町に行くのも本当は嫌だったのだけれど。
「貴方の妻となる私がすべきことなんです!!!!!」なんて言われて舞い上がってオッケー出した自分を殴りたい。
まさか、あんな厄介者を連れてくる事になろうとは!
醜いとしか思えなかった。
愛しいフィーリアラの妹だとは思えないくらいに醜かった。
吸血鬼の能力なのか、俺には相手の魂の光が見える。体の周囲に色づいた光が見えるのだが。
フィーリアラは美しく光り輝いていた。
ヨシュやエミリーは、ごく一般的な乳白色の光。
そしてあのウェンティという女。
あれは何という色なのだろう。
どす黒いような薄汚い茶色というか灰色というか……とにかく汚い色を混ぜ合わせた色。
あんな色は初めて見た。不快でしかなかった。
抱きついてきたときは、本当に殺しそうになってしまった。体を擦り付けて来たときは、惨たらしい殺し方は何があったかと真剣に考えてしまったほどだ。
屋敷になんて一歩も入れたくなかったのだけれど。
「申し訳ありません、ゼル様。一晩だけ宜しいでしょうか?」
そう、心底申し訳なさそうにフィーリアラに頼まれて、断れるわけがなかった。
あの女が今、屋敷内に居る。
そのことがたまらなく不快だった。
ベッドに横になり、そっと目を閉じた。集中して警戒する。屋敷内に意識を巡らせる。
吸血鬼の能力は便利だ。意識すれば屋敷内の動きが手に取るように分かる。
ふわもふ達……は大丈夫だな。みな気持ち良さそうに眠っている。
エミリーは……部屋で熟睡か。今日も疲れただろう。彼女は本当によくやってくれている、何か礼をしたいと思ってるのだが。今度フィーリアラに聞いて、喜びそうなものを買ってあげよう。あとお給金も増やそう。
ヨシュは……せっかく買った肉が今日はお預けになって泣いてるのか。仕方なかろう、あの女が居るのだ。あの女が居なくなってからゆっくり食べた方が味わえると思うぞ。冷気魔法で保存してるのだから肉は大丈夫。泣くなっつーの。
そしてフィーリアラ……はまだ起きてるのか。妹が何かしないか心配なのだろう。本を読みつつ、扉の向こうに何かしらの気配が無いか気にしてるようだ。だがそれも限界のようで。コックリコックリ船をこぎ始めているのが微笑ましい。愛しさがこみ上げてくる。
──ほとんど覗きのようなこの能力は、ヨシュも知らない。知られたら怒られるから内緒な、とは父の言葉。確かにそうだ。だから余程の事がない限り、この力は使わなかった。今夜は特別だ。
さて、あの女はどうか──気配を探って。
ピクリと眉が動く。
何をやってるのだ……。
気付くのが遅れた自分を殴りたい衝動に駆られながら。
俺はベッドから体を起こした。
コンコンコン
予想通り。
女は俺の部屋の扉をノックした。
そして。
返事もしてないのに、扉が開かれる。
「公爵様……」
女が。フィーリアラの妹とは思えない醜い女が。
透け透けピンクのベビードールを着て部屋に入ってきたのを見た瞬間。
殺意を覚えた俺のことを責める者は、居ないのではないだろうか。
===作者の呟き=================
ここでD〇Cのクラ〇ザーさんが出てきたら面白いんだけど。「殺〇するぞ!」とか言って(笑(先日久々に見たもんで・・・)
にしても、なんで公爵はベビードールなんてものを知ってんだ
21
お気に入りに追加
1,846
あなたにおすすめの小説
婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~
春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。
6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。
14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します!
前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。
【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】
聖女の妹によって家を追い出された私が真の聖女でした
天宮有
恋愛
グーリサ伯爵家から聖女が選ばれることになり、長女の私エステルより妹ザリカの方が優秀だった。
聖女がザリカに決まり、私は家から追い出されてしまう。
その後、追い出された私の元に、他国の王子マグリスがやって来る。
マグリスの話を聞くと私が真の聖女で、これからザリカの力は消えていくようだ。
【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。
異世界転生でチートを授かった俺、最弱劣等職なのに実は最強だけど目立ちたくないのでまったりスローライフをめざす ~奴隷を買って魔法学(以下略)
朝食ダンゴ
ファンタジー
不慮の事故(死神の手違い)で命を落としてしまった日本人・御厨 蓮(みくりや れん)は、間違えて死んでしまったお詫びにチートスキルを与えられ、ロートス・アルバレスとして異世界に転生する。
「目立つとろくなことがない。絶対に目立たず生きていくぞ」
生前、目立っていたことで死神に間違えられ死ぬことになってしまった経験から、異世界では決して目立たないことを決意するロートス。
十三歳の誕生日に行われた「鑑定の儀」で、クソスキルを与えられたロートスは、最弱劣等職「無職」となる。
そうなると、両親に将来を心配され、半ば強制的に魔法学園へ入学させられてしまう。
魔法学園のある王都ブランドンに向かう途中で、捨て売りされていた奴隷少女サラを購入したロートスは、とにかく目立たない平穏な学園生活を願うのだった……。
※『小説家になろう』でも掲載しています。
【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。
最強の一族は自由気ままに生きていく
夜月
ファンタジー
全ての世界で最強と言われている一族 ──月華──。
『 神族 』とも言われている。
月華の仕事は世界を監視すること。
無自覚主人公 月華 月とその双子の兄、月華 輝夜が男しかいない世界で自由気ままに生きていきながら世界を監視する話。
もふもふ好きな学生です!
語彙力ないです!
学生なんで、投稿めっちゃ少ないですがよろしくお願いします!
ひとつ言い忘れてました。
読むときの注意点
※この作品は1番最初がめっちゃ長いので、ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる