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「そしてここで朗報です」
「?」

 間髪入れずに私はデッシュを追い詰めるべく言い放った。

「貴方たちが散々うちのお金を使い込んだ事は分かってます。そしてその用途は──その内訳は、綺麗にまとめておりまして。その金額は……まあ凄い金額ですね、ビックリですよ。」

 本当にビックリだ。私とデッシュがまだ婚約関係にあった頃は、私が制していたので、私が許可した援助金しか無い。

 だが家を追い出されて数ヶ月。
 たった数ヶ月、されど数ヶ月。

 何に使えばこんな金額になるの?と思うくらいのお金が、公爵家に流れていたのだ。何してくれとんじゃ。

 内訳はある。調べれば呆気ないくらいに簡単に──それくらい堂々と使い込んでいたのだろう──調べはついた。本当にくだらないことにばかり使用されてて、泣きたいくらいだった。

 領民のために存在するお金……必死で貯めて、そろそろ一気に整地でもしようかと思っていたのに!不便な街道を改善しようと思ってたのに!

 ほんと、何してくれとんじゃーい!

「使い込んだお金、返して貰いますからね」

 ほらね、朗報だったでしょう?

 そう言って、もう慣れたもので作り笑いを届けてあげた。
 なのにデッシュの顔は真っ青から蒼白へと変わるのだから……どうしたというのだろう。

「どうしたのデッシュ?」
「……わけないだろ」
「え?」

 すみませんが声が小さくて聞こえませんでしたよっと。
 もう少し大きな声で言っていただけませんかね?

 問い返すと、バッと顔を上げて涙目になりながらデッシュは叫んだ。

「返せるわけがないだろう!!」
「でしょうねえ」

 だが何を言われるかなんて予想済みだ。そして想定通り過ぎて笑うこともせず、私は真顔でまた別の書類をデッシュに渡すのだった。

「そんな貴方に更なる朗報で~す!!」

 ピラッと見せたけど、どうせちゃんと読めないだろう。なので口頭で説明してあげよう!

「私では良いツテを持ってませんでしたので、ノウタム伯父様が用意してくださいました!とても割の良いお仕事ですよ!」

 そう、よそ様のお金を盗んだも同然なのだから。ちゃんと返すべきだろう。
 だが分かってる分かってる、私はちゃあんと分かってるよ。

 すぐに返せるようなら、そもそもうちのお金を使い込んだりしないよね。

 じゃあどうやって返す?

「働いて返してくださいな♪」

 労働で返すべきでしょう!

 子供でも分かることだよね!

 ニコニコして私はその紙をデッシュに渡した。そこには詳細が書かれてるからだ。ちゃんと読んでおいた方がいいと思うよ。

「な、な……ぼ、僕に働けと!?」
「安心してください、貴方だけではありません。漏れなく貴方のご両親もお付けします」

 三人で労働、まあなんて親切な返済計画なんでしょう!
 とんでもない金額を使い込んでますからねえ、1人で返すのはさぞや大変でしょう。
 でも!三人なら!
 返済も早いというものです。

「これまで散々遊んできたのですから。これからは汗水流して働くことをお勧めします」

 もう言葉にならない様子で、デッシュはまた鯉のように口をパクパクさせるだけとなった。

 パクパクしながら仕事内容を読んでるのだが……見る見るうちに血の気が引いていく。もう紙のような白さだ。ぶっ倒れるんじゃないかしら。

「バルバラ!」

 読み終わったのだろう、瀕死の顔でデッシュは私の名前を呼んだ。私は親切ですからね、無視せず相手してあげますよ。

「何でしょう?」
「これ!この仕事内容!!」
「ああ……素敵な内容でしょう?楽しく気持ちよくお金が稼げます。良かったですねえ」
「正気か!?これのどこが良い仕事なんだ!!」

 まあ分かってますけどね。
 でも貴方達にまともな仕事……頭使ったり肉体労働だったりは無理だと思ったのです。そもそも真っ当な仕事では返済なんてろくに出来ないでしょう。それくらいの金額を使い込まれたのですから。

 こちらとしては本気で返してもらう気ですからね。
 なので相応の仕事を伯父様に用意してもらったのだ。

「娼館ってなんだよ!それも男娼だって!?」
「良かったわねえデッシュ。顔だけはそこそこ良い顔に産んでもらえて。きっと稼ぎ頭になれますよ?」

 まあ稼ぎのほとんどは、こちらに返済として入るんですけどね。

「頑張って返済完了してくださいね。そしたら自由になれますよ」

 返済完了するのが早いか、死ぬのが早いか……分からないけど。かなり過酷なところを選んだと、伯父様は言ってたもの。

 声なき声は、デッシュには届かない。

 ブルブル震えるデッシュにそっと近づいて、私は見下ろしながらニッコリ告げたのだ。

「さようならデッシュ。もう二度と会う事はないでしょう」
「ば、バルバラ……」
「私、本当は貴方の事……」
「バルバラ!!」

 私の言葉が終わりに近づく頃。
 気配を感じて私は一歩後ろに下がった。

 代わりに誰かがデッシュの腕を掴んで立ち上がらせた。数人の屈強な男達。見た事ないけれど、おそらくは……伯父様を見れば頷かれたので、やはり伯父様の手の者ね。

「やめろ、離せ!僕は高位貴族なんだぞ、気安く触るな!」

 女のような、か細い声で必死に叫ぶデッシュを無視して、男達はデッシュの体を掴んで無理矢理引っ立てて連れて行こうとした。

 だから私は最後の言葉を投げる。

「デッシュ!私、本当は貴方の事……」
「ば、バルバラ、助けて……!」

 涙と鼻水でグチャグチャになりながら、私を見るデッシュに向けて。

「反吐が出そうなくらいに大嫌いだったわ!」

 満面の笑みで告げたのだった──











===筆者の独り言===

皆様からの優しい言葉に感謝しかありません。゜(゜´Д`゜)゜。
もうあと少しで完結です!
随分前置きが長かったせいか、ざまあ展開が書いてて楽しい
(・∀・)
あと少し、お付き合いください
<(_ _)>

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