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41、床に転がってのたうち回りたい
しおりを挟む「ふん、今日はこれくらいにしといてやろう」
「何もしてませんけど」
どこで覚えたそんな名セリフ。
一気に緊張感が溶けた中、長い黒髪をかき上げてゾルトは負け惜しみ宜しく言う。
いやあ、イケメンのそういう仕草は様になりますなあ。
最近麻痺してきたけど、やっぱイケメンはいいな。でも性格がおかしいと全然イケメンに見えなくなるとか不思議よね。ヘルンドルとかメンテリオスとかムサシムとか……。
キュリアス様とグリンマルトは相変わらずイケメン。というより愛らしいけど。
「それはこちらの台詞だ。さあ帰れすぐ帰れとっとと帰れ」
どこから出していつ装着したのか分からないが、眼鏡をクイッと上げたヘルンドルが、シッシッと手を振ってゾルトを追い返そうとする。
「そうだな。もうこの世に未練はないだろう。あるべき世界へ行け」
それに同調するのは肩に刀を担いだムサシム。腹筋割れた上半身が眩しいわあ。
この世に未練って……殺すな殺すな。
「こちらの世界に居ても居心地悪いでしょう。もう無力なんだからとっとと魔界に帰った方がいいですよ」
喧嘩売ってるとしか思えないメンテリオスの言葉には、さすがのゾルトもピクリと顔を歪ませた。
あああ、また殺気が~。
が、キュリアス様という最強人物が居るせいか、それはすぐに抑えられた。
フッと小さく息を吐いて精神を落ち着けたのか、ゾルトは私を穏やかな目で見つめてきた。
「魔界に戻るのもまあいいが……折角だから土産の一つでも無いとな」
「このクッキーでいいんじゃないすかね」
チェイシー達の食べさしクッキーを差し出す。
あ、駄目?なんでよ、美味しそうじゃないか!
「確かに美味そうだが……そうだな、どうせなら我はこちらを味見したい」
「は?」
何を?
と聞き返す間もない。
クッキーを差し出した手をグイと強く引っ張られた。
誰が止める間もなく。
一気に迫るゾルトの顔。
お~金色の目が綺麗だなあ……などと思ったのは一瞬。
「ん~~~~~!?!?!?」
唇をゾルトのそれで塞がれたのは……結構長かった。
なんだこれ、なんだこの柔らかい感触は、なんだなんなのだあぁぁぁ!?
パニックすると何もできなくなるのね。
突き飛ばすとか、ぶん殴るとか蹴るとか。
あまりの事に、何も出来ずに固まってしまった。
ゾクリ
不意に感じる悪寒。寒気。
バッと離れたゾルトがその場から飛びのいた。
見るとゾルトが居た場所に突き刺さる、無数の氷の刃。
そして逃げたゾルトに切りかかるムサシム。
「きっさまあ!」
「死ね!」
顔に青筋立ってる男が二人、ゾルトに襲い掛かった。
が、一歩ゾルトが早かった。
颯爽と逃げ回りながら、ニヤニヤと笑っている。
「ふははは!なんだ貴様ら、まだ口づけもしたことないのか!残念だったな、あれの初めてはいただいたー!」
その言葉で、私の体がようやく動いた。
「ふ……ざけんなあぁ!!!」
さすがの私も頭にきた!ムカついた!
ムカつくまま、なぜか側にあった剣を引っ掴んで走り出す!
私を放置で戦闘開始すんなぁ!まず私に殴らせろおお!
見よ、ムサシム直伝の剣さばきを!赤点ギリギリだった私の剣さばきをぉぉ!
と、切りかかった瞬間だった。
場違いにのほほんとした声がその場に響いたのは。
「あ、お嬢様の初めてはあなたじゃないですよ魔王さん。初めては私ですから」
ビキッ!!!
──これは私の体が固まった音。
ピシッ
──これはヘルンドルの眼鏡にヒビが入る音。
バキッ
──これはムサシムの剣のグリップ部分が割れる音
ピキッ
──これはゾルトのこめかみに青筋が走る音。
一斉に、見事に音が出ましたよ。
爆弾発言にみんな一斉にメンテリオス見ましたよー!
ギギギ……と音がしそうなぎこちないゆっくりさで、みんなでメンテリオスを見る。
こいつ……今なんて言った?何言ってくれちゃった?え?何?幻聴?
「メンテリオス、今とんでもない発言を聞いた気がするが、気のせいだと思う。もう一度言ってはくれまいか?」
どうにかこうにか口を動かしたヘルンドルが、ヒビの入った眼鏡をクイッとやってから聞きなおした。
「ですからアイシュラお嬢様の初キスは私と──」
「ふぎゃあああ!!!」
叫ぶと同時に体が動いた!
ドーンッと体当たりしつつメンテリオスの口を手で塞ぐ!
おっま!何言ってくれてんじゃああ!!!
「なななな、何言ってんのよメンテリオス!」
冗談よね、冗談よね~!?
必死で私は「空気読めや!」と言外に告げたわけだが。
「やだなお嬢様、忘れたんですか?昨日クレープ食べた後にクリームがついてた唇を……」
「のおおおお~~~~!!!」
もうお前黙れ!しゃべんな!口閉じろ、息すな!
「死んじゃいますよ」
いっそ死んで!
いや、むしろ私を殺してええぇ!
まさかここで恥ずか死するとか予想してなかったわ!
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