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29、なんと!ギャグが無いのです!
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※本当にギャグ無いです。悪しからず……
「あれ、それ何ですか?」
とりあえず残りの二人を完全にまくためお店から離れるよう移動していたら、メンテリオスが聞いてきた。
指さす先には、私が先ほど購入した物が入った小さな袋。
「これ?さっきのお店で可愛いな~って、一目惚れして買っちゃった!」
言って袋から出す。
出して手の平に乗せてメンテリオスに見せる。
「鳥……?」
青い鳥のピンバッジだ。
全身は薄い水色、トサカと長い尾羽だけは綺麗な瑠璃色で、羽ばたいてる様を模している。
これを見た瞬間、可愛いと思った。綺麗だと思った。
自由だと思った──
別に今の生活に不満があるわけじゃあない。今日の食べ物に困っていたあの頃より、遥かに幸せだ。
だけど、ふと。
ふと考えてしまうのだ。
何不自由ない生活と言うけれど……不自由ない、不自由じゃない生活=自由な生活、ではないのだと。
教え込まれる貴族のマナーにルール。反したからと言ってお咎めがあるわけじゃないけれど、だからと言って反して良いわけでも無い。
壁に囲まれた狭い世界の中での自由なんて、それは自由と言えるんだろうか。
ふとした瞬間に衝動に駆られる。飛び出してしまいたいと思ってしまう。
こんな私は、やっぱり貴族に向いてないんだろう。
34歳OLしてた前世の私の方が、よっぽど自由で自分らしかったと思う。
父がいて妹弟がいて執事がいて友がいて。
こんな幸せな事はないというのに。
贅沢な悩みだと、衝動が落ち着くといつも凹んでしまった。
「つけてあげますよ、貸してください」
ピンバッジを見つめたまま黙り込んでしまった私に、メンテリオスは何も言わない。
その代わりに、ピンバッジを手に取って私の帽子に手を伸ばしてきた。
水色のリボンがあしらわれた白いつば広帽子に。
夏の日差しが強いからと、今回の旅行に合わせて購入したそれに。
てっきり頭から帽子を取ってつけると思ったのに、メンテリオスはかぶった状態のまま付け始めた。
「刺さないでよ」
「ちょっとくらい刺さっても大丈夫ですよ。面の皮と同様、頭も厚いでしょうから」
「ほっとけ!」
なんだかシリアスな雰囲気が台無しだよ!
溜め息ついて、前を見る。
正面から作業をしてるので、おのずと目の前にはメンテリオス。
つば広なのでチラリと見上げても顔が隠れて見えない。一体どんな憎まれ顔で話してるのやら。
嫌でも目に入る広い胸元は、薄い夏服のせいでラインがはっきりと見て取れた。
痩せてるようで、ガッシリしてるんだよなあ……。一応は成長期の男子ってことか。
ヘルンドルも鍛えてるようだが、どうも筋肉がつきにくい体質なのか、スラっとしすぎてる。
逆にムサシムは出会った頃は「無駄のない筋肉はまさに芸術」とか言ったけど、最近鍛えすぎててちょっとムキムキしてきた、暑苦しい。
メンテリオスは理想的な肉体美を持ってるんだろう。裸体なんて見た事無いが、大体の想像がついた。
湖水浴で本気で泳ぐ気なんだろうか。
男性水着ってトップスあるんだろうか。
────って、何考えてんだ!
一瞬、メンテリオスの上半身裸スタイルを想像しそうになって、慌てて首を振った。
「動かないでくださいよ」と、すぐに注意が飛んできたけど。
本当に何を考えてるんだ。
これじゃあただの変態だぁ!
顔を見られなくて良かったと思う。きっと今私の顔は真っ赤だ。
「はい、出来ましたよ」
そう言ってメンテリオスが離れる頃には、顔色が戻ってる状態であることを願う。
顔を見られたくなくて周囲を見回して、手頃なガラス張りのお店に近付いた。
ガラスに映る私と帽子。斜め横を向くと、そこには青い鳥が飛んでいた。
思った通り可愛い。
なんだかウキウキしてくる。
ありがとう、とお礼を言おうとしてメンテリオスを見ようとしたら
「へぶっ!?」
突然口を塞がれ、お店とお店の間にある狭い路地に引っ張りこまれてしまった。
な、何事!?
文句を叫ぼうとするけれど口を塞がれているから、むーむーと変な声しか出ない。
えーい、離せぇ!
「静かにしてください。ムサシム様が居ます」
ドキッとした。ムサシムが居るから、じゃあない。
背後から抱きしめられているからだ。
急いで隠れるために引っ張られ、後ろから抱きしめられて、口を塞がれた。
そして耳元で話されると何だかくすぐったいんだ!
ふおおおおおおおおおおお!!!
し、心臓に悪い!
そう言えば前にもこんなことがあったな。
確かヘルンドルに告白された時。
邪魔に入ったメンテリオスに、後ろから羽交い絞めの様に抱きつかれたことがあったっけ。
あの時は「おっふおっふ」言うしかなかったが。今は
おおおおおっふ!!!
……あまり進歩がないようだ。
狭い路地は人一人がやっとこさ通れるような狭さで。
だからこそ後ろから抱きしめる形になってるのだろうけど。
……いや、抱きしめる必要なくない!?
隠れてればいいんだから、もう離してくれてもいいんじゃない!?
そう思ってしまえば、ますます羞恥で顔が熱くなるのが分かった。
これはまずい、非常にまずい。
何とかしてこの場を切り抜けなければ!
そうして身をよじって逃げようとしたら
「動かないでください」
耳元で囁くなあぁぁぁ!!!!
もう私に逃げる気力はなかった。
とりあえずメンテリオスの好きにさせておくのが平和。大人しくしてます、はい。
===============
あれ、ギャグ無いよね?無いよね?
執事とデート編、続きます。
「あれ、それ何ですか?」
とりあえず残りの二人を完全にまくためお店から離れるよう移動していたら、メンテリオスが聞いてきた。
指さす先には、私が先ほど購入した物が入った小さな袋。
「これ?さっきのお店で可愛いな~って、一目惚れして買っちゃった!」
言って袋から出す。
出して手の平に乗せてメンテリオスに見せる。
「鳥……?」
青い鳥のピンバッジだ。
全身は薄い水色、トサカと長い尾羽だけは綺麗な瑠璃色で、羽ばたいてる様を模している。
これを見た瞬間、可愛いと思った。綺麗だと思った。
自由だと思った──
別に今の生活に不満があるわけじゃあない。今日の食べ物に困っていたあの頃より、遥かに幸せだ。
だけど、ふと。
ふと考えてしまうのだ。
何不自由ない生活と言うけれど……不自由ない、不自由じゃない生活=自由な生活、ではないのだと。
教え込まれる貴族のマナーにルール。反したからと言ってお咎めがあるわけじゃないけれど、だからと言って反して良いわけでも無い。
壁に囲まれた狭い世界の中での自由なんて、それは自由と言えるんだろうか。
ふとした瞬間に衝動に駆られる。飛び出してしまいたいと思ってしまう。
こんな私は、やっぱり貴族に向いてないんだろう。
34歳OLしてた前世の私の方が、よっぽど自由で自分らしかったと思う。
父がいて妹弟がいて執事がいて友がいて。
こんな幸せな事はないというのに。
贅沢な悩みだと、衝動が落ち着くといつも凹んでしまった。
「つけてあげますよ、貸してください」
ピンバッジを見つめたまま黙り込んでしまった私に、メンテリオスは何も言わない。
その代わりに、ピンバッジを手に取って私の帽子に手を伸ばしてきた。
水色のリボンがあしらわれた白いつば広帽子に。
夏の日差しが強いからと、今回の旅行に合わせて購入したそれに。
てっきり頭から帽子を取ってつけると思ったのに、メンテリオスはかぶった状態のまま付け始めた。
「刺さないでよ」
「ちょっとくらい刺さっても大丈夫ですよ。面の皮と同様、頭も厚いでしょうから」
「ほっとけ!」
なんだかシリアスな雰囲気が台無しだよ!
溜め息ついて、前を見る。
正面から作業をしてるので、おのずと目の前にはメンテリオス。
つば広なのでチラリと見上げても顔が隠れて見えない。一体どんな憎まれ顔で話してるのやら。
嫌でも目に入る広い胸元は、薄い夏服のせいでラインがはっきりと見て取れた。
痩せてるようで、ガッシリしてるんだよなあ……。一応は成長期の男子ってことか。
ヘルンドルも鍛えてるようだが、どうも筋肉がつきにくい体質なのか、スラっとしすぎてる。
逆にムサシムは出会った頃は「無駄のない筋肉はまさに芸術」とか言ったけど、最近鍛えすぎててちょっとムキムキしてきた、暑苦しい。
メンテリオスは理想的な肉体美を持ってるんだろう。裸体なんて見た事無いが、大体の想像がついた。
湖水浴で本気で泳ぐ気なんだろうか。
男性水着ってトップスあるんだろうか。
────って、何考えてんだ!
一瞬、メンテリオスの上半身裸スタイルを想像しそうになって、慌てて首を振った。
「動かないでくださいよ」と、すぐに注意が飛んできたけど。
本当に何を考えてるんだ。
これじゃあただの変態だぁ!
顔を見られなくて良かったと思う。きっと今私の顔は真っ赤だ。
「はい、出来ましたよ」
そう言ってメンテリオスが離れる頃には、顔色が戻ってる状態であることを願う。
顔を見られたくなくて周囲を見回して、手頃なガラス張りのお店に近付いた。
ガラスに映る私と帽子。斜め横を向くと、そこには青い鳥が飛んでいた。
思った通り可愛い。
なんだかウキウキしてくる。
ありがとう、とお礼を言おうとしてメンテリオスを見ようとしたら
「へぶっ!?」
突然口を塞がれ、お店とお店の間にある狭い路地に引っ張りこまれてしまった。
な、何事!?
文句を叫ぼうとするけれど口を塞がれているから、むーむーと変な声しか出ない。
えーい、離せぇ!
「静かにしてください。ムサシム様が居ます」
ドキッとした。ムサシムが居るから、じゃあない。
背後から抱きしめられているからだ。
急いで隠れるために引っ張られ、後ろから抱きしめられて、口を塞がれた。
そして耳元で話されると何だかくすぐったいんだ!
ふおおおおおおおおおおお!!!
し、心臓に悪い!
そう言えば前にもこんなことがあったな。
確かヘルンドルに告白された時。
邪魔に入ったメンテリオスに、後ろから羽交い絞めの様に抱きつかれたことがあったっけ。
あの時は「おっふおっふ」言うしかなかったが。今は
おおおおおっふ!!!
……あまり進歩がないようだ。
狭い路地は人一人がやっとこさ通れるような狭さで。
だからこそ後ろから抱きしめる形になってるのだろうけど。
……いや、抱きしめる必要なくない!?
隠れてればいいんだから、もう離してくれてもいいんじゃない!?
そう思ってしまえば、ますます羞恥で顔が熱くなるのが分かった。
これはまずい、非常にまずい。
何とかしてこの場を切り抜けなければ!
そうして身をよじって逃げようとしたら
「動かないでください」
耳元で囁くなあぁぁぁ!!!!
もう私に逃げる気力はなかった。
とりあえずメンテリオスの好きにさせておくのが平和。大人しくしてます、はい。
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あれ、ギャグ無いよね?無いよね?
執事とデート編、続きます。
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