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23、そしてフラグはまたも立つ

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「幼馴染み同士が結婚するのってラブストーリーの王道よね」
「さあどうなんでしょうね」
「兄のように妹のように思ってた相手が急に大人びてきたのを見て、ドキーッとときめいて恋になるのよね」
「さあどうなんでしょうね」
「そう言えば私とメンテリオスも幼馴染みみたいなもんよね」
「幼馴染みが結婚するのは王道だと思います!」

 変わり身早いな、この執事!

「幼馴染みといえば、私とアイシュラもそうだな。やはりこれは運命だな!」
「どちらさまでしたっけ?」

 幼馴染みと認めたくない存在がここに……!
 涙するヘルンドル、鬱陶しい。

「そんなことより」

 そんなことで済まされましたよ。ヘルンドル、あなたの幼馴染みはそんなことで済ましましたよー。

「追試の勉強は進んでるのか」

 冷静なムサシムの一言で、一気に現実を直視させられる(泣
 ああ、うん、そうだね……。
 現実に引き戻された私の眼前には、教科書とノートの山。

 追試の科目は山とあるんだなあ。
 そして追試まであと数日。
 一向に勉強が進んでない現実に、いい加減ヤバイと思ったのでチェイシーに泣きついたのだけど。

 なんで呼んでないヘルンドルとムサシムまでいるんですかね。今日は剣術特訓無かったよね。ヘルンドルはお呼びじゃないよね。

 ムサシムの声で一気に場が引き締まり、皆が私が広げる教科書とノートを覗き込んだ。

「……なにこれ」
「え、偉人の写真」

 我が国の歴史を学ぶための教科書には、昔この国に襲来した大量の魔物から守ったという、英雄の絵姿が載っていた。
 その横には、その魔物を操ったという魔王の恐ろしい絵姿もある。

「いや、なんなのこの『にく』って」
「おでこが寂しそうだったから?」

 なんで白い目で見るのチェイシー!教科書の人物画に落書きするのってお決まりじゃないの!?英雄のオデコ広くて、何か書けと訴えてるんだもの!

「授業中にこんなことしてるから頭に入らないんでしょ!」

 ひーん怒られたー。

「だって顔が気に入らなかったんだもん!」
「どこが!」
「ドヤ顔なとこ!」
「許す!」

 許すのか!
 そんなチェイシーが好きだ!嫁にこい!

「チェイシーは俺の婚約者なんだが」

 冷静に突っ込んでくるな、ムサシム。

「もうすぐ解消予定ですわよ」

 そして冷静に言うチェイシー。
 何この二人、仲いいの悪いの?

「仲悪いんですか、この二人?」

 ヘルンドルに聞いてみると「いつもこんな感じだが?」とのこと。

 これが通常運転とな!冷気吹きすさぶこの状況が!

 そういやヘルンドルは昔「チェイシーは誰にもやらんぞ」とか言ってなかったっけか。
 ムサシムはいいのか。

「以前から婚約を解消すると言ってたからな」

 シスコンはまだ健在でしたね。

「こんなにまともな人ってそうそう居ないのに、勿体ない。暑苦しいくらい良いじゃ無い、冷気魔法で冷やせば無問題てきな?」

 言ってみたらすんごい顔をしかめられた。そんなに嫌なのか。チェイシーの理想のタイプってどんなんだ。

「そうねえ、アイシュラみたいに楽しい人なら喜んで結婚するんだけど」
「よし結婚しよう」
「しないわよ」

 振られた!結婚するとか言っておきながら1秒で振られたわ!

「ムサシム先生、失恋の心を癒やして下さい」
「辛いときは運動がいいぞ。共に走るか?」
「謹んでご遠慮申し上げたてまつりそうろう云々」

 何言ってんですかとメンテリオスに言われたけど、敬語のなってないお前には言われたくないわ!今頭回んないんだよ!

「今この状況で走ってる時間は無いわ」
「そう思うならちゃんとやりなさいよ」
「じゃあこの英雄の髭をもう少し長く……あだっ!」

 流石に殴られました。チェイシーマジ怒り。恐い。

「や、やります……」
「そうよ、頑張りなさい。無事に追試通ったら、楽しい夏休みよ」
「夏休み────っ!!」

 忘れてた、そうだ、もうすぐ夏休みなんだ!
 だが追試駄目だったら休み返上の地獄の補習が待っている。

 ぬおおお、燃えてきたぁ!

「チェイシーとシュリエッタ様の水着姿のため、アイシュラ頑張ります!」
「え、水着なんて着ないわよ」
「着ないのかあ!」

 やる気一気に萎むわ!夏の楽しみが……!

「そんなに見たいなら仕方ない、私のを見せてやろう」
「海の藻屑になれ」

 誰がヘルンドルの水着姿なぞ見たいか!目が腐るわ!

 あーなんかやる気スイッチ入るもんないかなあ。

 ウダウダ机に突っ伏してたら、天の声が届いた。

「あらいいですわね、我が公爵家所有の湖で湖水浴しましょう」
「シュリエッタ様!」

 突然の天使降臨!今日は用事があるとのことだったので別行動だったのに!用が終わった、そうですか、なんてグッドタイミング!

 水着有りですか?有り?そうですか。
 メンズは抜きですか?そうですか居ますかチッ。
 あ、キュリアス様も来る?そうですかそうですか。

「お嬢様……ヨダレを拭いてください」

 あらやだよ、キュリアス様の水着姿とか想像したら!もう!

「よし、やる気が出たところで」
「魔王の方に落書きとかも駄目よ」
「しないわ!」

 しないよ!魔王の方はなんか恐いから落書きなんてしないよ!

 こうしてガッツリ集中して勉強出来た私は、万全の状態で追試に挑めたのであった。

 なんか……嫌な予感がするようなしないような?







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お読みいただきありがとうございました。
書いてませんがチェイシー、ヘルンドル、ムサシムは幼馴染みです。
主人公もチェイシー達とは幼馴染みですが、ムサシムには会ったことないです。
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