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しおりを挟む子供の記憶力を当てにしてはいけない。幼ければ幼いほど。昨日の事でさえ忘れるものだ。
ましてや一年も会わない相手のことなど、綺麗サッパリ忘れて当然。
一年ぶりにアルバートに会った時、最初私は「どちら様で?」な状態だった。
だがそれも一瞬。
強烈なことは流石に覚えてたのか、急激によみがえった一年前の恐ろしい記憶。トラウマ。
一年ぶりに会ったその日にアルバートと何を話したかなんて覚えては居なかった。とにかく「この人恐い!」しか印象になかったのだが……。
「顔を合わせずらいとかで一年も会わなかったわけではない」
「でも実際そうでしたでしょ?」
逃げてたんでしょ?
そう言えば、泣きそうな顔でアルバートは言った。
「あまりに情けなくて言いたくないのだが……」
「今更です。言ってください」
もう全部洗いざらい吐け!
私が睨めば観念したように口を開いた。
「実は……通常生活に復帰できるまでに時間がかかったのだ」
「…………は?」
たっぷり間をおいて聞き返してしまった。ちょっと事情が呑み込めないもので。
え、通常生活に復帰?何だそれ?
「もしや記憶喪失にでもなってたんですか?」
頭が悪かったのかな。違った、頭の打ちどころが悪かったのかな。
「そうじゃない」
「じゃあなんですか」
「……体で受け止めた衝撃で……あばらが折れたのだ」
「あばば?」
「あばら。肋骨だ」
敢えて間違えてみたのだが、冷静に訂正されてしまいましたよ。どうやら私の頭はかなり混乱してる模様。
「情けない話……ミリアを受け止めた衝撃で、肋骨が折れて、しばらく動けなかった」
「えええ……」
「いやほんと、情けなぃ……」
最後の「い」が聞こえなくなるくらいに声がどんどん尻すぼみ。どうやら本当に情けないやら恥ずかしいやら、のようだ。
まあそりゃねえ、受け止めてやる!と意気込んでみたのに、蓋を開ければ体で受け止め……というか、私の下敷きになっただけ。更には骨折となれば……。
「いわゆる恥ずか死しかけてたということですか」
「やめろ、それ以上言うな、言わないでくれ」
「真っ赤になって手で顔を覆うのとかキモイのでやめてください」
「お前も大概言うな」
「誰かさんのお陰で毒舌勉強出来ましたもんで」
「誰かとは誰だ」
「胸に手を当ててください」
そしてまた胸に手を当てる。本気で自分の言葉遣いに問題があると思ってないようだ。
これはかなり教育する必要があるなあ。
でもそうか。
アルバートは私を置いて逃げたのではなかった。精一杯受け止めたのだけど、結局あばら折っちゃう程の大怪我を負ったと。それも結構治るのに時間がかかっちゃって……治った頃には時間があき過ぎてるわ、情けないわで恥ずかしくて会いに来れなかったと。
「でも結局一年後に会いに来たでしょ?どうしてですか」
「会いたかったからに決まってるだろう」
「決まってるんですか」
「決まってる」
そうキッパリ言われるとなんか照れますね!
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(他「エブリスタ」様に投稿)
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