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しおりを挟む「兄と何かあったのですか?」
私の様子が変だと思ったのだろう。心配そうに見られては、誤魔化すのも気が引ける。私は小さく溜め息をついて「婚約解消すると言われたのですが……冗談だったと言って無しになったのです」と説明した。
「なんだそれは……」
不快気に眉根を寄せ、ハンス様は苛立ちを隠そうともせずに頭をガリガリと掻いて、大きく溜め息をつく。
「まったく、あの人は……何を考えてるんだか」
「何も聞いておられないのですか?」
「初耳です」
キッパリと目を見て言われてしまいました。
婚約解消の話をされたその日のうちに、私は父に話をした。失礼な話だと激怒した父が王家に説明を求めたのは翌日のこと。そうして、あれは冗談だったと返答が来たのが今日の事なのだ。
つまり国王様には話がいってるけれど、ハンス様はまだ耳にされてない、ということなのだろう。
「デニス様は会えばいつも文句ばかりで……さぞや私に不満だらけだったのでしょう。本音が出たと思われますが、やはりそんな簡単に解消出来ないと思われて考え直されたのではないでしょうか」
「どうなんでしょうね。あの人の考えは今一つ分かりにくいから……」
言って、どちらからともなく……同時に大きな溜め息が出た。
婚約者からも弟からも呆れられる存在。それってむしろ凄い。お馬鹿すぎて凄いね。そんなのが王太子で、この国大丈夫なのかしら。
だがそれは私が心配することではない。いや、この国の民としては心配すべきなんだろうけど。
今私が最も心配すべき案件は、婚約がどうなるか、のみである!
「エレナ様はどうしたいのですか?」
心の中で決意の拳を握りしめていたら、ハンス様に聞かれてしまった。答えは決まっている。
「婚約も結婚も嫌です」
「つまり?」
「解消できないなら破棄させていただきます!」
決意は固いのだ!!
もう私の婚約解消は決定事項だった。それなのに、やっぱなしとか言われてハイそーですかとなるわけないでしょ!あの阿呆は私の事を全く理解できてない!そんな人と結婚できるかっての!
「かりにも王太子という立場ある方が、そう簡単にご自分の発言をコロコロ変えるなんて許されるわけがありません。そんないい加減な方と結婚できると思いますか?これは正当な理由だと思うのです!」
そして私は今度こそ本当に拳を握りしめて言った。
「絶対!婚約破棄します!!」
宣言してしまえば、どうしたことか不思議と心が軽くなった。
そうだそうだ、相手が無しだと言って来たところで私の方から申し立てれば問題ないではないか。
理不尽な理由だと、慰謝料が……とか、父の立場が……とか色々悪い事になりそうだけど。
今回の場合は、言い出しっぺはデニス様の方なのだ。そしてそれを聞いた学生──つまりは証人は大勢居る。ご丁寧に私の教室に来て、私とデニス様自身の学友の前で婚約解消宣言してくださったのだから。
ちなみに、あれから毎日のように友人達にどうなったのかと心配されている。……どうも楽しんで見えるのは、退屈な日々を送る令嬢達には仕方ないのかもしれない。娯楽欲しいよね。
決心がついたところで、私は早々に帰る事にした。
ハンス様に挨拶をして、私はいそいそと王城を後にするのだった。
背中がウキウキしてる私を、見えなくなるまで見つめるその視線に気付くことなく──
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