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しおりを挟む「あのね、エルシー。イリアと王太子との婚約は、王家と言うより王太子の要望なのよ?」
そこで初めて母が発言した。ポリポリとクッキー食べながら話さないでくれますか、こぼれてますよ。
私の美の元となった母は、美しいのだけどちょっと残念な中身を持ってる。おおよそ元伯爵令嬢とは思えない。そんな母に父が惚れ込んで結婚したらしいのだけど……。
つまり父もまた、母の容姿に魅せられた一人なのだろう。
やっぱり美しさは重要なのよ!
そう再認識するも、母の言う事がよく分からないのでとりあえず聞き返しておこう。
「王太子の要望とは?」
「王太子が。イリアと。結婚したいとおっしゃったのよ」
そんないちいち区切って言わなくても理解できます。
言ってる事は理解出来たが──理解出来ない。
「王太子が?どうしてお姉様を?」
「何でも学園でイリアに一目惚れされたそうよ」
「んな馬鹿な~」
ご冗談を!と手をヒラヒラ振ってケタケタ笑ったら。
スパーン!
はいスパーン頂きました。痛いですお父様、いい加減馬鹿になりそうです。なったらどうしてくれるんですか。
「もう馬鹿だから、寧ろマシになるんじゃない?」
「煩いですお姉様」
ツッコミはいいから黙れ。
そして母の言葉を噛み締める。
一目惚れ。
一目惚れとな?
確かに姉と王太子は貴族向けの学園に通っている。学年は一つ違えど出会う事もあるだろう。
で。
一目惚れしたと?
「んな馬鹿な!」
思わず叫んだら父が振りかぶったので慌てて口を押さえた。口は災いの元、知ってますよそれくらい。
でも頭の中では叫び続けている。
馬鹿な馬鹿な馬鹿な!
お姉様に一目惚れ?
有り得ない。
美しい私もまた、一年生として学園に通っているのだ。学園は4年制で、私は一年、姉は三年、王太子は四年生。残念なことに、一二年生と三四年生の学舎が違うので、王太子と会った事は無かった。
──つまりはそれか。
そういう事か!
つまりだ。私を見れば王太子様もきっと気が変わるだろうということ。
姉との婚約式で私は王太子を見た。
だが親族席に居た私の事を王太子はご覧になってない。
王太子と姉が会う時は、必ず姉が王城に出向いていて王太子が当屋敷に来られた事もない。
そう、王太子は私の存在を知らないのだ!
正確には、流石に妹の存在は知ってるだろうから、顔を知らないのだろう。遠目で見てるくらいでは分からないに違いない。
そうかそうか、なんだ簡単な事じゃない!
となれば後は行動あるのみ!
私は睨みつけて来る姉と、スリッパをペシペシして威嚇する父から視線を外し。
紅茶を飲んで今後の計画を練るのだった。
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