上 下
3 / 10

3、

しおりを挟む
 
 
「あのね、エルシー。イリアと王太子との婚約は、王家と言うより王太子の要望なのよ?」

 そこで初めて母が発言した。ポリポリとクッキー食べながら話さないでくれますか、こぼれてますよ。
 私の美の元となった母は、美しいのだけどちょっと残念な中身を持ってる。おおよそ元伯爵令嬢とは思えない。そんな母に父が惚れ込んで結婚したらしいのだけど……。
 つまり父もまた、母の容姿に魅せられた一人なのだろう。

 やっぱり美しさは重要なのよ!

 そう再認識するも、母の言う事がよく分からないのでとりあえず聞き返しておこう。

「王太子の要望とは?」
「王太子が。イリアと。結婚したいとおっしゃったのよ」

 そんないちいち区切って言わなくても理解できます。

 言ってる事は理解出来たが──理解出来ない。

「王太子が?どうしてお姉様を?」
「何でも学園でイリアに一目惚れされたそうよ」
「んな馬鹿な~」

 ご冗談を!と手をヒラヒラ振ってケタケタ笑ったら。

スパーン!

 はいスパーン頂きました。痛いですお父様、いい加減馬鹿になりそうです。なったらどうしてくれるんですか。

「もう馬鹿だから、寧ろマシになるんじゃない?」
「煩いですお姉様」

 ツッコミはいいから黙れ。

 そして母の言葉を噛み締める。

 一目惚れ。
 一目惚れとな?

 確かに姉と王太子は貴族向けの学園に通っている。学年は一つ違えど出会う事もあるだろう。

 で。
 一目惚れしたと?

「んな馬鹿な!」

 思わず叫んだら父が振りかぶったので慌てて口を押さえた。口は災いの元、知ってますよそれくらい。

 でも頭の中では叫び続けている。

 馬鹿な馬鹿な馬鹿な!

 お姉様に一目惚れ?

 有り得ない。
 美しい私もまた、一年生として学園に通っているのだ。学園は4年制で、私は一年、姉は三年、王太子は四年生。残念なことに、一二年生と三四年生の学舎が違うので、王太子と会った事は無かった。

 ──つまりはそれか。
 そういう事か!

 つまりだ。私を見れば王太子様もきっと気が変わるだろうということ。

 姉との婚約式で私は王太子を見た。
 だが親族席に居た私の事を王太子はご覧になってない。

 王太子と姉が会う時は、必ず姉が王城に出向いていて王太子が当屋敷に来られた事もない。

 そう、王太子は私の存在を知らないのだ!
 正確には、流石に妹の存在は知ってるだろうから、顔を知らないのだろう。遠目で見てるくらいでは分からないに違いない。

 そうかそうか、なんだ簡単な事じゃない!

 となれば後は行動あるのみ!

 私は睨みつけて来る姉と、スリッパをペシペシして威嚇する父から視線を外し。
 紅茶を飲んで今後の計画を練るのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

【完結】ああ……婚約破棄なんて計画するんじゃなかった

岡崎 剛柔
恋愛
【あらすじ】 「シンシア・バートン。今日この場を借りてお前に告げる。お前との婚約は破棄だ。もちろん異論は認めない。お前はそれほどの重罪を犯したのだから」  シンシア・バートンは、父親が勝手に決めた伯爵令息のアール・ホリックに公衆の面前で婚約破棄される。  そしてシンシアが平然としていると、そこにシンシアの実妹であるソフィアが現れた。  アールはシンシアと婚約破棄した理由として、シンシアが婚約していながら別の男と逢瀬をしていたのが理由だと大広間に集まっていた貴族たちに説明した。  それだけではない。  アールはシンシアが不貞を働いていたことを証明する証人を呼んだり、そんなシンシアに嫌気が差してソフィアと新たに婚約することを宣言するなど好き勝手なことを始めた。  だが、一方の婚約破棄をされたシンシアは動じなかった。  そう、シンシアは驚きも悲しみもせずにまったく平然としていた。  なぜなら、この婚約破棄の騒動の裏には……。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても

亜綺羅もも
恋愛
クリスティーナ・デロリアスは妹のエルリーン・デロリアスに辛い目に遭わされ続けてきた。 両親もエルリーンに同調し、クリスティーナをぞんざいな扱いをしてきた。 ある日、エルリーンの婚約者であるヴァンニール・ルズウェアーが大火傷を負い、醜い姿となってしまったらしく、エルリーンはその事実に彼を捨てることを決める。 代わりにクリスティーナを押し付ける形で婚約を無かったことにしようとする。 そしてクリスティーナとヴァンニールは出逢い、お互いに惹かれていくのであった。

このままだと身の危険を感じるので大人しい令嬢を演じるのをやめます!

夢見 歩
恋愛
「きゃあァァァァァァっ!!!!!」 自分の体が宙に浮くのと同時に、背後から大きな叫び声が聞こえた。 私は「なんで貴方が叫んでるのよ」と頭の中で考えながらも、身体が地面に近づいていくのを感じて衝撃に備えて目を瞑った。 覚悟はしていたものの衝撃はとても強くて息が詰まるような感覚に陥り、痛みに耐えきれず意識を失った。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ この物語は内気な婚約者を演じていた令嬢が苛烈な本性を現し、自分らしさを曝け出す成長を描いたものである。

甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。 そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。 しかしその婚約は、すぐに破談となる。 ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。 メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。 ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。 その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。

婚約破棄されたから、とりあえず逃げた!

志位斗 茂家波
恋愛
「マテラ・ディア公爵令嬢!!この第1王子ヒース・カックの名において婚約破棄をここに宣言する!!」 私、マテラ・ディアはどうやら婚約破棄を言い渡されたようです。 見れば、王子の隣にいる方にいじめたとかで、冤罪なのに捕まえる気のようですが‥‥‥よし、とりあえず逃げますか。私、転生者でもありますのでこの際この知識も活かしますかね。 マイペースなマテラは国を見捨てて逃げた!! 思い付きであり、1日にまとめて5話だして終了です。テンプレのざまぁのような気もしますが、あっさりとした気持ちでどうぞ読んでみてください。 ちょっと書いてみたくなった婚約破棄物語である。 内容を進めることを重視。誤字指摘があれば報告してくださり次第修正いたします。どうぞ温かい目で見てください。(テンプレもあるけど、斜め上の事も入れてみたい)

「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」 侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。 「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」 そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。

処理中です...