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「キミは聖女じゃあない。神殿が聖女を選ぶんじゃない、私が選ぶのだから」

 あまりに突然の発言に、ロアラは一瞬ポカンとして。

 そして込み上げる笑いを我慢できなくなったかのように噴き出して。

「ぶふっ……あっはっは!何言ってんの何言ってんの、何言っちゃってんの!?あたしが聖女じゃないって!?ばっかじゃないの、神殿に神託が降りたのよ?私が聖女だって神託があったんだから!」
「神殿を脅したってさっき言ってたくせに!」

 たまらず叫べば。
 フンと鼻で笑われた。

「真実なんてどーだっていいのよ!この国は弱って来てるから、誰でもいいから聖女が必要だったのよ。だから私がなってあげたんじゃない!聖女が居るってだけで人々はやる気になる、元気になれる!退屈で面倒な聖女の役を私がやってあげるんだから、感謝されて当然よ!」

 ギリと唇を噛み締める。
 こんなやつに、こんな女に……この国を盛り上げるなんて事が出来るものか!

 きっとロアラはこれから国益を我が物顔で吸い上げる。私にしていたように!そうなれば、寧ろ国は衰退の一途を辿る事になる。

「そうだ、ロアラという聖女が居るだけで民衆はやる気を出す。そうして国は勢いを増す。その聖女を妻にする私もまた、名君主となるわけだ」
「だから私を捨てたと?」
「捨てたとは聞こえが悪いな。国の為を思ってやった、苦渋の選択というやつだ」
「どこが……!ロアラの誘惑に勝てなかっただけの愚か者のくせに!」
「言うではないか……」
「偽物で良かったのなら、私を聖女にしても良かったはず。でも貴方はそうしなかった。淫行をさせてくれるロアラを選んだだけでしょう!?」
「まあ確かにこれの体は魅力的だな」

 その言葉にカッとなった。冷静にと思ってはいたけれど、やっぱり無理だ。

 怒りでブルブルと震える私をニヤニヤと見ながら。

 不意にテルディスが立ち上がった。

「──!?」

 その手には、短剣が握られている。

「王族たるもの、どこにでも武器は仕込んでおくものだ。このソファにもな!」

 叫ぶや否や、テルディスが剣を振りかぶって私目掛けて振り下ろす──!
 刺される!
 逃げる間もなく、私はその剣がこの身に刺さるのを覚悟した。

 が、その刃は届かない。
 届く前に、それは木っ端微塵に砕け散ったのだ。テルディスの右手と共に!

「ぐぎゃあ!?」
「テルディス!?」

 テルディスとロアラの悲鳴が重なる。
 血まみれになった右手を押さえて、テルディスはその場に倒れ込んだ。

「馬鹿が」

 それを見下ろすは冷たい金の瞳。

 冷えた目で、ゴミを見るような目で。
 スピニスはテルディスを見下ろしていた。

「リーナに……私の愛しい聖女に手を出した罪、その身を持って償え」

 宣言は為された。
 スピニスはここに、私を聖女と宣言したのだ。

「はあ!?何言って……あんた正気!?私が聖女なのよ!?リーナが聖女って馬鹿にもほどが……」
「神殿に聖女の神託などおりん。聖女は精霊王が選ぶものなのだから」

 青ざめた顔で、ロアラはスピニスを見る。
 言ってる意味が理解出来ないのか、言葉が出てこない様子に。

 スピニスはクスリと笑う。

「分からないか?私は闇の森で何千年も前から生きる──精霊王だ。生きとし生けるもの全てを司る……お前たちが神と呼ぶ存在だ」
「何を言って……」
「信じられないか。ならば証拠を見せてやろう」

 そう言ってスピニスが右手をかざしたその直後。
 シュルリと奇妙な音が聞こえて。そして──

「きゃあ!?何、何よこれ!?」

 壁から生えてきた蔦が、見る見るうちにロアラを絡めとったのだった。


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