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 悪夢というものは随分と長く見続けるものなんだなと思った。

 私は父の先妻との間に出来た不出来な娘。らしい。

 元愛人で現在の本妻である義母との間にできた娘……妹のロアラは、良く出来た娘。なんだそうな。

 食事は私だけ家族と共にせず、残飯処理のような酷い物を食べさせられた。
 服は使用人以下レベルの、安価で粗末な物を与えられ。
 ロアラが腹の立つことがあれば、八つ当たりの道具として殴り蹴られ。
 気に食わないことがあれば、意味不明な父の叱責を受け。
 母には年中屋敷内外の雑用を言いつけられた。……真冬に外で屋敷の壁を水拭きしろと言われたのが、最もつらかったっけ。

 そして季節は違えることなく訪れる、冬。



ポタリ
ポタリ



 私は前髪から滴る水を呆然と見つめていた。

 水、である。冷え切った水。真冬は氷のごとく冷たい、水。

 けして私は真冬に水浴びする奇抜な趣味を持ってるわけではない。断じてない。
 けれど現実として、私は全身水をかぶってずぶ濡れとなっていた。

 理由は一つ。
 目の前の妹──異母妹のロアラの仕業だ。その右手には、バケツが握られている。

 およそ公爵令嬢に相応しくないそのバケツは、不思議と彼女にフィットしている……鬼の形相をしている彼女には。

 フーフーと、鼻息荒く、彼女は私にその中身である水をぶっかけて。そしてガコンッ!と凄まじい音を立ててバケツを床に叩き付けたのだった。

 耳を覆いたくなるような大きな音に、けれどビクリと体を震わせても私は声を出さなかった。出してはいけないと感じていたから。

 ロアラの機嫌が悪くなるなんて事はいつもの事だ。毎日どころではない、数時間、下手すれば数分ごとにブチ切れて手当たり次第に物を破壊し、使用人や私に当たり散らしているのだ。

 これが理由のないものなら、どこか精神が病んでるのではないかと思うのだけれど。
 そうではない。彼女が苛立つ理由なんて一つしかなかった。

「どうして私じゃなく、あんたなんかに贈り物が届いてんのよ!!!!」

 そう言って、彼女はバッと私の目の前にとある物を差し出した。
 それは小さな箱。手の平に収まる程度の、小箱。
 けれどピンクの包装紙で包まれ、可愛らしい黄色のリボンが施されてることから、それがプレゼントである事は一目瞭然だった。

「あ、それは……!」

 そしてそれは見覚えがあった。
 それは確かに昨日、私が学園にて、とある方から貰った物だから。

 とても大切な、愛しい人からの大切な贈り物……けしてロアラに見つかってはいけないと、念入りに隠したというのに。なのにどうして、それを彼女が持ってるというのか。

 驚き慌てて、思わず手を伸ばしたら──。

 バシッとその手を叩かれてしまった。
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