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 そういえばと思い出す。

 王太子の婚約者として、私が決まった時。

『どうしてお姉様なの!?私も公爵家の娘なのに!』
『レイシア、カーラと王太子は年齢が近く、気の合うご学友でもあるんだよ。だからカーラが最適となったのであって……』
『年齢なんて、お姉様と王太子は一歳違いなだけでしょう!?私とお姉様も一歳しか違わないわ!私が王太子妃になるのに何ら問題ないじゃない!』
『だが王家がどうしてもと……』
『ふざけないでよ!』

 レイシアがどれだけ駄々をこねても。
 王家が決めた事に反対することは、流石の公爵家でも無理があった。

 確かにレイシアの年齢でも問題は無いと思う。
 ただ、私と王太子は学年は違えど不思議と気が合ったのだ。更には私の成績も王太子に引けを取らないものだったから。

 逆にレイシアの評判はよろしくなかった。
 成績も落ちこぼれ、令嬢としての振る舞いもなってなかった。

 何より。
 学園中の高位貴族令息とやたら親密にしており、噂では何人かの婚約が無くなったとも……。

 あくまで噂だったが、それでもそんなレイシアと王太子が婚約は有り得ないと思われたのだろう。

 結果、私が王太子の婚約者となった。
 まさかそんなものまでレイシアが欲しがるとは思わなかったが。

『いいわよ、役立たずのお父様なんか当てにしないわ。私が自分で……』

 ブツブツと呟くレイシアの言葉を聞いたのは、おそらくは私だけ。
 嫌な予感を感じたのは、私だけだったろう。

 それから数日後。
 王太子がレイシアと腕を組んでる姿を見た瞬間、嫌な予感ははずれない事を悟った。




 そうして学園での催しであるパーティで。
 王太子は私に宣言したのだ。

『公爵令嬢カーラ、私は君との婚約をこの場をもって破棄とする!私の新たな婚約者はレイシアだ!そして君にはレイシア殺害未遂の疑いがある、覚悟しておけ!!』

 それから処刑が決まるまで、あっという間だった。

 私がどうやってレイシアを殺そうとしたのか。
 何の証拠をもってそんな事を言われるのか。

 全く理解出来ないまま、あれよあれよと、今私は処刑台の上だ。

 私があれこれ考えた民衆のための商売や保障、全てがレイシアに奪われ。
 結果、レイシアは聖女扱い。

 そんな聖女を殺そうとした私は悪女。

 結果がこれだ。

 両親も全く私をかばってはくれなかった。

 皆が皆、私の敵だった。
 味方など皆無だった。

 皆がまるで魔法のようにレイシアに魅了され。

 王太子も。
 大魔導士も。
 最強の剣士も。
 全ての貴族が、民衆が。

 レイシアの味方となっていた。



「早く死ね」

 そうレイシアは囁いて笑う。
 私だけに向けて。

 私の中に憎悪を芽生えさせ。
 彼女は悪魔のような笑みを浮かべた。

「よくも──」

 視線だけで射殺さんばかりの目を向けた瞬間
「いやあ!!」
 レイシアが叫んで飛びのいた。

「どうした、レイシア!」

 慌てて貴族令息たちが駆け寄る。

「お姉様が……私を殺してやるって……!ひどい、反省してくださるなら助命を嘆願しますと言ったのに……絶対に私を殺すと言って恐ろしい顔で睨みつけて……」
「なんと──!!」

 ガタガタと震えるレイシアの肩を抱くのは、大魔導士マルセイ。

「この魔女め!心優しいレイシアの気持ちを踏みにじりおって!」

 叫んで剣を向けるのは王太子。

 ああ、駄目だこれは……

「王太子様、早くこの女を殺してください!」

 叫ぶのは民衆。

「早く死んじゃえ!」

 石を投げるは小さな子供。

 ああ、もう本当に駄目だな、これは。

 私は拘束されたまま。
 血を流しながら。

 空を仰ぎ見た。

 視界の隅で、剣を振りかざす王太子が見え。

 男に囲まれながら、ほくそ笑むレイシアを目にして。

 殺せ殺せとヤジを飛ばす民衆の声を受けながら。

 私は小さく呟いた。

「ふざけんな……」



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