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「な、な、な……!!」

 何するんですか!
 そう叫びたいのに叫べずプルプル震える私をクスリと笑ってから。
 ヘンラオはスザンナにもう一度目を向けた。

 その顔はもう、作り笑いさえ無かった。

「そもそも私はアデラと話してたんだ。いきなり割って入り自己紹介もしない。失礼極まりないな、不愉快だ」
「わ、わたくしは公爵令嬢よ!?」
「だからなんだ?公爵家だから無礼を働いてもいいのか?そもそもアデラも公爵令嬢だ。姉に対する無礼は許されるとでも?」

 姉だろうと妹だろうと。家族だろうと他人だろうと。
 無礼な発言は許さない。

 そう言って、ヘンラオは立ち上がった。

 その長身に見下ろされ、ビクッとたじろぐスザンナ。そんな彼女を見下ろしながら、ヘンラオは冷たく言い放った。

「もう一度言うが、不愉快だ。今すぐアデラに謝罪しろ。そしてこの場から居なくなってくれ」
「な──」

 もうスザンナに余裕の色は無かった。
 その気迫に押され、真っ青になったかと思えば、瞬時に真っ赤になった。おそらくは怒りで。

「言われなくても居なくなるわよ!何よ、ちょっとした冗談でしょう!?どうして私が姉に謝らなくてはいけないのよ!ふん、所詮お姉様に興味を持つだけのことはあるわ!折角私が相手してあげようと思ったのに!お姉様の相手なんて可哀そうだと思ったから来てあげたのに!こんな変な男、こちらから願い下げよ!」

 とんでもなく無礼な発言を……言いたいことを言って、憤慨してスザンナは立ち去るのだった。

バタンッ

 荒々しく絞められた扉のガラスが、ガタガタと振動していた。

 そんな一連の騒動を、私は呆然と見ていた。この私が。様々な魑魅魍魎渦巻く貴族とやり合ってる私が。
 何も言えないなんて。

「はは、怒らせてしまったかな。悪かったね、キミの妹にキツク言ってしまって」

 ちっとも悪いと思ってない風に笑いかけられて、私に出来る事があっただろうか。
 首をブンブンと横に振る以外、何か出来ただろうか。

 そんな私にニコッと笑みを向け、ヘンラオは再び腰かけた。まだここに居てくれるという事だろうか。

「折角のケーキが美味しくなくなっちゃったね。別のを取ってこようか?」

 私の手が止まってるのを見て、申し訳なさそうな顔をしながら言われてしまった。それにも私は力いっぱい首を横に振ってから、再び手を動かすのだった。

「こ、これで十分です!このケーキ美味しいので!」
「そう?」

 正直に言えば先ほどから味などしてない。だが兎に角早く食べ終わりたい!食べ終わって、冷静に頭を働かせたい!

 そう思いながら残り少しとなったケーキにフォークをブッ差す。もうマナーなど完璧に頭から吹っ飛んでいた。

「それ、そんなに美味しいの?」
「ええ、美味し──」

 口元に運びかけたケーキ。あと少しで私の口に入ろうかというその瞬間。

 フッと目の前が暗くなった。
 何だ?と視線を上げれば目の前に真っ青な空。夜なのに、青い空──。

 違う、これは瞳だ。青い瞳の色……。

パクリ

 気付いた時には既に遅く。
 私のケーキは食べられてしまった。

 なのに私は怒れない。
 目の前の存在から目が離せなくなっていた。

「確かに美味しいね」
「──!?!?!?」

 うおへふあ!?

 ──叫ばなかった私を褒めて欲しい。でも限界だ、近すぎるイケメンに限界を感じて顔を離そうとした瞬間。

 ガシッとフォークを持ったままの手を握られてしまった。

 何を──と問う間もなかった。どんどん近付いて来る顔に吸い寄せられる。目が、離せない。

 不意に。

ペロッ

「え……?」
「うん、甘い」

 何が起きたのか分からないままヘンラオは私から離れ。
 スッと立ち上がって歩き出すのだった。

「ごめんね、今日はもう時間が無いから。またいずれゆっくりと会おう」

 そう言って、スタスタとバルコニーから出て行ってしまった。

 残された私の耳に響く、テラスドアの閉まる音。
 そして。

カチャーン!!

 手から落ちたフォークの音で我に返り。

「なーーーーーーーーーーーーーー!?」

 思いっきり叫ぶのだった!!


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