7 / 37
7、
しおりを挟む「な、な、な……!!」
何するんですか!
そう叫びたいのに叫べずプルプル震える私をクスリと笑ってから。
ヘンラオはスザンナにもう一度目を向けた。
その顔はもう、作り笑いさえ無かった。
「そもそも私はアデラと話してたんだ。いきなり割って入り自己紹介もしない。失礼極まりないな、不愉快だ」
「わ、わたくしは公爵令嬢よ!?」
「だからなんだ?公爵家だから無礼を働いてもいいのか?そもそもアデラも公爵令嬢だ。姉に対する無礼は許されるとでも?」
姉だろうと妹だろうと。家族だろうと他人だろうと。
無礼な発言は許さない。
そう言って、ヘンラオは立ち上がった。
その長身に見下ろされ、ビクッとたじろぐスザンナ。そんな彼女を見下ろしながら、ヘンラオは冷たく言い放った。
「もう一度言うが、不愉快だ。今すぐアデラに謝罪しろ。そしてこの場から居なくなってくれ」
「な──」
もうスザンナに余裕の色は無かった。
その気迫に押され、真っ青になったかと思えば、瞬時に真っ赤になった。おそらくは怒りで。
「言われなくても居なくなるわよ!何よ、ちょっとした冗談でしょう!?どうして私が姉に謝らなくてはいけないのよ!ふん、所詮お姉様に興味を持つだけのことはあるわ!折角私が相手してあげようと思ったのに!お姉様の相手なんて可哀そうだと思ったから来てあげたのに!こんな変な男、こちらから願い下げよ!」
とんでもなく無礼な発言を……言いたいことを言って、憤慨してスザンナは立ち去るのだった。
バタンッ
荒々しく絞められた扉のガラスが、ガタガタと振動していた。
そんな一連の騒動を、私は呆然と見ていた。この私が。様々な魑魅魍魎渦巻く貴族とやり合ってる私が。
何も言えないなんて。
「はは、怒らせてしまったかな。悪かったね、キミの妹にキツク言ってしまって」
ちっとも悪いと思ってない風に笑いかけられて、私に出来る事があっただろうか。
首をブンブンと横に振る以外、何か出来ただろうか。
そんな私にニコッと笑みを向け、ヘンラオは再び腰かけた。まだここに居てくれるという事だろうか。
「折角のケーキが美味しくなくなっちゃったね。別のを取ってこようか?」
私の手が止まってるのを見て、申し訳なさそうな顔をしながら言われてしまった。それにも私は力いっぱい首を横に振ってから、再び手を動かすのだった。
「こ、これで十分です!このケーキ美味しいので!」
「そう?」
正直に言えば先ほどから味などしてない。だが兎に角早く食べ終わりたい!食べ終わって、冷静に頭を働かせたい!
そう思いながら残り少しとなったケーキにフォークをブッ差す。もうマナーなど完璧に頭から吹っ飛んでいた。
「それ、そんなに美味しいの?」
「ええ、美味し──」
口元に運びかけたケーキ。あと少しで私の口に入ろうかというその瞬間。
フッと目の前が暗くなった。
何だ?と視線を上げれば目の前に真っ青な空。夜なのに、青い空──。
違う、これは瞳だ。青い瞳の色……。
パクリ
気付いた時には既に遅く。
私のケーキは食べられてしまった。
なのに私は怒れない。
目の前の存在から目が離せなくなっていた。
「確かに美味しいね」
「──!?!?!?」
うおへふあ!?
──叫ばなかった私を褒めて欲しい。でも限界だ、近すぎるイケメンに限界を感じて顔を離そうとした瞬間。
ガシッとフォークを持ったままの手を握られてしまった。
何を──と問う間もなかった。どんどん近付いて来る顔に吸い寄せられる。目が、離せない。
不意に。
ペロッ
「え……?」
「うん、甘い」
何が起きたのか分からないままヘンラオは私から離れ。
スッと立ち上がって歩き出すのだった。
「ごめんね、今日はもう時間が無いから。またいずれゆっくりと会おう」
そう言って、スタスタとバルコニーから出て行ってしまった。
残された私の耳に響く、テラスドアの閉まる音。
そして。
カチャーン!!
手から落ちたフォークの音で我に返り。
「なーーーーーーーーーーーーーー!?」
思いっきり叫ぶのだった!!
21
お気に入りに追加
4,936
あなたにおすすめの小説
学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。
朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。
そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。
だけど、他の生徒は知らないのだ。
スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。
真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」
まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。
私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。
私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。
私は妹にはめられたのだ。
牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。
「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」
そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ
※他のサイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
王子に買われた妹と隣国に売られた私
京月
恋愛
スペード王国の公爵家の娘であるリリア・ジョーカーは三歳下の妹ユリ・ジョーカーと私の婚約者であり幼馴染でもあるサリウス・スペードといつも一緒に遊んでいた。
サリウスはリリアに好意があり大きくなったらリリアと結婚すると言っており、ユリもいつも姉さま大好きとリリアを慕っていた。
リリアが十八歳になったある日スペード王国で反乱がおきその首謀者として父と母が処刑されてしまう。姉妹は王様のいる玉座の間で手を後ろに縛られたまま床に頭をつけ王様からそして処刑を言い渡された。
それに異議を唱えながら玉座の間に入って来たのはサリウスだった。
サリウスは王様に向かい上奏する。
「父上、どうか"ユリ・ジョーカー"の処刑を取りやめにし俺に身柄をくださいませんか」
リリアはユリが不敵に笑っているのが見えた。
〖完結〗記憶を失った令嬢は、冷酷と噂される公爵様に拾われる。
藍川みいな
恋愛
伯爵令嬢のリリスは、ハンナという双子の妹がいた。
リリスはレイリック・ドルタ侯爵に見初められ、婚約をしたのだが、
「お姉様、私、ドルタ侯爵が気に入ったの。だから、私に譲ってくださらない?」
ハンナは姉の婚約者を、欲しがった。
見た目は瓜二つだが、リリスとハンナの性格は正反対。
「レイリック様は、私の婚約者よ。悪いけど、諦めて。」
断った私にハンナは毒を飲ませ、森に捨てた…
目を覚ました私は記憶を失い、冷酷と噂されている公爵、アンディ・ホリード様のお邸のベッドの上でした。
そして私が記憶を取り戻したのは、ハンナとレイリック様の結婚式だった。
設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全19話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる