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しおりを挟むゆっくりと味わった朝食を終え、私は父と共に客間へと向かう。部屋に入れば、腕を組んでソファにもたれかかり、ムスッとした表情のサルボスが居た。
「遅い」
簡潔な文句が出るも、私は元より父も何も言わずにサルボスの正面に腰かけた。
「随分と早い時間にお越しですな」
「俺は休日だろうと早起きなのだ。早起きは良い事があると古来から言うであろう?」
そんなドヤ顔で言われても知らんがな、そんな古来の言葉。私もいつも通りの早起きだったが、良い事どころか悪い事が起きたよ。というか今目の前で悪いことが起きてる。いっそ寝坊してたなら、都合よく追い返せたかもしれないのに。
「エリス、お前は俺の妻となるのだ。お前も早起きの習慣づけておけよ?」
「……」
誰が誰の妻になるですって?冗談は顔だけにしろ。
なんとも恐ろしいことを言われ、私はブルッと身震いして自分の体を抱きしめた。もうね、指一本触れられたくないくらいに嫌いになってますよ。なんなら顔も見たくない。
そんな私をチラリと横目で確認した父は、正面にいるサルボスを見据えて言った。
「その件ですが、サルボス様。エリスともう一度婚約なんて本気でしょうか?」
「当たり前だ、俺は冗談が嫌いなんだ。本気に決まってるだろう?」
存在そのものが冗談な奴が、何を言ってるんだ。
……おっといけない、つい毒舌が出そうになる。うっかり声に出さないよう、気を引き締めなければ。
「ですがエリスは……」
「エリスも俺に未練があるようだしな!昨日この再婚約の話をしたら、とても嬉しそうな顔をしていたぞ!」
物凄く不愉快な顔をしてたはずなのですが……サルボスは記憶喪失にでもなってるんじゃないか?それとも記憶変換の術でもかけられたの?
自分でも分かるくらいに無表情でサルボスを見ていれば、彼が私の方を見ました。
──直後。
なんと、パチンとウインクするではないか!ひいいいい!!
何かが飛んできそうな気がして、思わず右手でババッと払いのけたよ!
「そう照れるな!」
「……」
誰かお願い。今にも吐きそうになってる私を、お願いだから助けて。
一体どうしたらこの気持ちの悪い男を追い払えるのだろう。再び婚約なんて死んでも嫌なんだけど。
泣きそうな顔でお父様の顔を見たら、強い眼差しでこっくりと頷かれた。
「サルボス様。申し訳ありませんが、再度の婚約は致しかねます」
「なぜだ!愛し合ってる二人なのだから問題なかろう!」
「あい……サルボス様はエリスを愛しておられるのですか?」
「当然だろう?」
「とう……つい先日まで男爵令嬢と愛し合っておられたと聞いておりますが?」
「誰だそれは!」
なんとも都合のよい記憶喪失が存在したものだ。まさか、誰だ、と言われてるとは、件の男爵令嬢も思いもしないだろう。
もはや話にならない。お父様は深々と溜め息をついて、疲れたかのように眉間をギュッと指で押さえる。それから目を開いて、サルボスを睨むかのように見やった。
その圧に一瞬たじろぐサルボス。だが、断られるとは微塵も考えてない自信満々な顔をしている。非常にイラッとくるなコレ。
「サルボス様……エリスは既に別の方と婚約しております。あなたと婚約は不可能ですのでお引き取りを」
「冗談は顔だけにしておけよ!」
「お前がな!!!!」
お父様落ち着いて、落ち着いてー!ほらお茶でも飲んで……!
サルボスのふざけた発言に、とうとう父が切れた。私は慌てて父の背中をさする。
どうにか父が冷静さを取り戻しかけたところで、とどめのサルボス発言。
「伯爵はなかなか面白い方だな~」
呑気に笑ってるサルボスに、私と父の両方が殺意を感じても……これはもう致し方ないことだと思うの。
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