上 下
3 / 7

3、

しおりを挟む
 
 
 ゆっくりと味わった朝食を終え、私は父と共に客間へと向かう。部屋に入れば、腕を組んでソファにもたれかかり、ムスッとした表情のサルボスが居た。

「遅い」

 簡潔な文句が出るも、私は元より父も何も言わずにサルボスの正面に腰かけた。

「随分と早い時間にお越しですな」
「俺は休日だろうと早起きなのだ。早起きは良い事があると古来から言うであろう?」

 そんなドヤ顔で言われても知らんがな、そんな古来の言葉。私もいつも通りの早起きだったが、良い事どころか悪い事が起きたよ。というか今目の前で悪いことが起きてる。いっそ寝坊してたなら、都合よく追い返せたかもしれないのに。

「エリス、お前は俺の妻となるのだ。お前も早起きの習慣づけておけよ?」
「……」

 誰が誰の妻になるですって?冗談は顔だけにしろ。
 なんとも恐ろしいことを言われ、私はブルッと身震いして自分の体を抱きしめた。もうね、指一本触れられたくないくらいに嫌いになってますよ。なんなら顔も見たくない。

 そんな私をチラリと横目で確認した父は、正面にいるサルボスを見据えて言った。

「その件ですが、サルボス様。エリスともう一度婚約なんて本気でしょうか?」
「当たり前だ、俺は冗談が嫌いなんだ。本気に決まってるだろう?」

 存在そのものが冗談な奴が、何を言ってるんだ。
 ……おっといけない、つい毒舌が出そうになる。うっかり声に出さないよう、気を引き締めなければ。

「ですがエリスは……」
「エリスも俺に未練があるようだしな!昨日この再婚約の話をしたら、とても嬉しそうな顔をしていたぞ!」

 物凄く不愉快な顔をしてたはずなのですが……サルボスは記憶喪失にでもなってるんじゃないか?それとも記憶変換の術でもかけられたの?

 自分でも分かるくらいに無表情でサルボスを見ていれば、彼が私の方を見ました。
 ──直後。
 なんと、パチンとウインクするではないか!ひいいいい!!
 何かが飛んできそうな気がして、思わず右手でババッと払いのけたよ!

「そう照れるな!」
「……」

 誰かお願い。今にも吐きそうになってる私を、お願いだから助けて。

 一体どうしたらこの気持ちの悪い男を追い払えるのだろう。再び婚約なんて死んでも嫌なんだけど。
 泣きそうな顔でお父様の顔を見たら、強い眼差しでこっくりと頷かれた。

「サルボス様。申し訳ありませんが、再度の婚約は致しかねます」
「なぜだ!愛し合ってる二人なのだから問題なかろう!」
「あい……サルボス様はエリスを愛しておられるのですか?」
「当然だろう?」
「とう……つい先日まで男爵令嬢と愛し合っておられたと聞いておりますが?」
「誰だそれは!」

 なんとも都合のよい記憶喪失が存在したものだ。まさか、誰だ、と言われてるとは、件の男爵令嬢も思いもしないだろう。

 もはや話にならない。お父様は深々と溜め息をついて、疲れたかのように眉間をギュッと指で押さえる。それから目を開いて、サルボスを睨むかのように見やった。
 その圧に一瞬たじろぐサルボス。だが、断られるとは微塵も考えてない自信満々な顔をしている。非常にイラッとくるなコレ。

「サルボス様……エリスは既に別の方と婚約しております。あなたと婚約は不可能ですのでお引き取りを」
「冗談は顔だけにしておけよ!」
「お前がな!!!!」

 お父様落ち着いて、落ち着いてー!ほらお茶でも飲んで……!

 サルボスのふざけた発言に、とうとう父が切れた。私は慌てて父の背中をさする。
 どうにか父が冷静さを取り戻しかけたところで、とどめのサルボス発言。

「伯爵はなかなか面白い方だな~」

 呑気に笑ってるサルボスに、私と父の両方が殺意を感じても……これはもう致し方ないことだと思うの。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

婚約は破棄なんですよね?

もるだ
恋愛
義理の妹ティナはナターシャの婚約者にいじめられていたと嘘をつき、信じた婚約者に婚約破棄を言い渡される。昔からナターシャをいじめて物を奪っていたのはティナなのに、得意の演技でナターシャを悪者に仕立て上げてきた。我慢の限界を迎えたナターシャは、ティナにされたように濡れ衣を着せかえす!

婚約破棄?本当によろしいのですか?――いいでしょう、特に異論はありません。~初めて恋を願った彼女の前に現れたのは――~

銀灰
恋愛
令嬢ウィスタリアは、ある日伯爵のレーゼマンから婚約破棄の宣告を受ける。 レーゼマンは、ウィスタリアの妹オリーブに誑かされ、彼女と連れ添うつもりらしい。 この婚約破棄を受ければ、彼に破滅が訪れることを、ウィスタリアは理解していた。 しかし彼女は――その婚約破棄を受け入れる。 見限ったという自覚。 その婚約破棄を受け入れたことで思うところがあり、ウィスタリアは生まれて初めて、無垢な恋を願う。 そして、そこに現れたのが――。

その令嬢は、実家との縁を切ってもらいたい

キョウキョウ
恋愛
シャルダン公爵家の令嬢アメリは、学園の卒業記念パーティーの最中にバルトロメ王子から一方的に婚約破棄を宣告される。 妹のアーレラをイジメたと、覚えのない罪を着せられて。 そして、婚約破棄だけでなく公爵家からも追放されてしまう。 だけどそれは、彼女の求めた展開だった。

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

婚約なんてするんじゃなかったが口癖の貴方なんて要りませんわ

神々廻
恋愛
「天使様...?」 初対面の時の婚約者様からは『天使様』などと言われた事もあった 「なんでお前はそんなに可愛げが無いんだろうな。昔のお前は可愛かったのに。そんなに細いから肉付きが悪く、頬も薄い。まぁ、お前が太ったらそれこそ醜すぎるがな。あーあ、婚約なんて結ぶんじゃなかった」 そうですか、なら婚約破棄しましょう。

悪役令嬢の私が転校生をイジメたといわれて断罪されそうです

白雨あめ
恋愛
「君との婚約を破棄する! この学園から去れ!」 国の第一王子であるシルヴァの婚約者である伯爵令嬢アリン。彼女は転校生をイジメたという理由から、突然王子に婚約破棄を告げられてしまう。 目の前が真っ暗になり、立ち尽くす彼女の傍に歩み寄ってきたのは王子の側近、公爵令息クリスだった。 ※2話完結。

殿下はご存じないのでしょうか?

7
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」 学園の卒業パーティーに、突如婚約破棄を言い渡されてしまった公爵令嬢、イディア・ディエンバラ。 婚約破棄の理由を聞くと、他に愛する女性ができたという。 その女性がどなたか尋ねると、第二殿下はある女性に愛の告白をする。 殿下はご存じないのでしょうか? その方は――。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

処理中です...