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2、
しおりを挟む翌日。
いつもなら楽しみな休日なのに、今日は朝から憂鬱だ。なぜって昨日の一件があったから。
「はあ……」
思わず漏れる溜め息。
「まったく!あの馬鹿男は何を考えておるのだ!」
プンプンという効果音が似合いそうなくらいに怒っているお父様は、それでも朝食をとる様は優雅。さすがですわお父様。
優雅な手の動きとチグハグに、父の口からは怒りの言葉が次々に飛び出す。
「自分が勝手に婚約破棄したというのに、また婚約したいだと!?あいつは貴族同士の婚約をなめてるのか!?」
実際なめてるのでしょう。そして私のこともなめられてるのだと思います。腹立つ。
「旦那様、急ぎ調べた結果報告が届きました」
「話せ」
食事中にも関わらず、執事が声をかけてきた。時間が無いからだろう。それはお父様も理解してるようで、ナプキンで口を拭いてから執事に命じた。
執事はパラパラと報告書をめくりながら、要点を話し始めた。
「どうやらサルボス様は、懸想していた令嬢に振られたようです」
「……まあそんなとこだろうな」
「なんでもサルボス様が侯爵家後継でない事を、件の令嬢はご存知なかったようですね。サルボス様の兄上様が後継と知った途端に手の平を返したそうです」
「ふんっ、実に軽い愛があったものだ」
サルボスが『他に好きな奴ができた』と言って新しい婚約者とした女性。男爵令嬢は、結局サルボス様の地位を魅力に思っていただけだったのね。
そう、サルボスは次男で侯爵家の後継ではない。だから私と彼は婚約したのだ。一人娘である私の婿となり、この家の後継となる予定だったのだ。つまり私との婚姻がなくなったなら、男爵令嬢の家に入るしかないのだけれど……。
「男爵令嬢は非嫡出子──どうやら愛人の子であったようで、成人後は男爵家を出る事が決まっております」
「なるほどな……サルボスも家を出なければならない。つまり二人が一緒になった場合、路頭に迷うということだな」
男爵令嬢のほうは分からないが、サルボスの侯爵家は、いくらなんでもサルボスを見捨てはしないだろうが……最低限の援助しか望めないだろうな。なんたって彼は私との婚約を、親を通さず勝手に破棄したのだ。侯爵夫妻──ご両親は怒り心頭のご様子だったっけ。破棄直後は、平身低頭で謝罪にこられたよねえ。バカ息子がすみませんって。
結果、我が伯爵家とサルボスの侯爵家とは、関係は悪化しなかったが、気まずいものとなった。
だが問題の二人の関係は、アッサリ終わったのだという。
愛よりお金。
それが二人の出した結論ということか。
お父様の言う通り、なんと軽くて薄っぺらい愛だったことか。
だがまあつまるところ、私のサルボスへの思いはそんな薄い愛に勝てなかったということだ。私のサルボスへの思いも、所詮その程度だったのだ。そりゃ忘れるの早いよね。
今更ながらに、考えなしな二人に呆れてしまう。本当に婚約破棄になって良かった。と、心底思うわ。
「さて、どうしてくれようか」
顎に手を当てて思案するお父様。
考えがまとまらぬうちに、サルボス来訪の知らせが届いたのは、直後のこと。
「このような朝早くからだと?どこまでもふざけた奴だ」
休日でも、普段と変わらぬ時間に起きて朝食をとる我が家。当然来客があるには早すぎる時間。つまり、非常識な時間帯ということだ。
「来てしまったものは仕方ない。客間に通して待たせておけ」
そう指示を出したお父様は、食事を再開する。いつもよりゆっくり食べてるように見えるのは気のせいかしら?多分気のせいだろう。
でも。
ま、急ぐ必要もないでしょ。
そう考えた私もまた、朝食をゆっくり味わうことにするのだった。
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