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第四章〜戦士の村
10、
しおりを挟む「今の『あ』は、なに……」
嫌な予感がすると振り返ったその瞬間。
「危ない!」
「え!?」
エリンの叫びに、俺は反射的に身構える。
「うぐっ!!」
身構えて力を入れていた腹を、思い切り殴られる。なにをするんだとエリンに抗議しようと顔を上げる俺の目の前に、それは落ちて来た。
ズウウン……と重々しい音を立てて落ちて来たもの。それは壁であった。天井から、壁が落ちて来て、俺達の間に立ちふさがった。見れば正面の大階段からすべて、部屋を真っ二つに分断する壁。小さなビータンが入る隙間もない。
「なんだこれは!?」
ガンガンと落ちて来た壁を叩けば「ごめん」と、壁の向こうから小さな声が聞こえて来た。
「エリン?」
俺を突き飛ばした本人は、明らかに落ち込んでいる様子。
「何かあったなと壁を見てたら、赤いボタンがあったの」
「それ、押したの?」
「押した」
「押すか、普通!?」
明らかに怪しいだろ、それ!
思わず責める声を出したら、消え入るような声でまた「ごめん」と聞こえてきた。これは壁が邪魔しての小声ではない、確実に凹んでいる声だな。
つい責めてしまったが、気付かなかった俺の落ち度でもある。
「いや、俺も悪かっ……」
悪かった。
言う間もなく、「お前が悪いんだろうが!!!!」というガジマルドの怒鳴り声に、「トイレ行ってたやつが言うな!」って怒鳴り返したわ!
「大体お前、最近たるみすぎてないか!? 腹もたるんでるが、気が緩み過ぎだ! 自分の娘がさらわれそうになってる時に気絶してるわ、腹が痛いと言ってトイレ駆けこんで見事にパーティー分断されてるわ! お前、それでも大戦士ガジマルドか!?」
「俺の腹はたるんでねええええ!!!!」
俺の言葉に言い返すのと同時、ドーンと音が響いて、目の前の壁に穴が開いた。
これぞ『ガジマルドを怒らせて壁を破壊してしまおう作戦』うん、見事にそのままのネーミングだ。俺ってセンスいい!
「さすが武闘家にならなかった戦士」
「俺は剣が好きなんだよ」
出会った頃から強かったガジマルドは、筋肉ムキムキで武闘家のほうが向いているんじゃないのかと思った。
だが本人曰く「剣の感触が好き」だそうな。でも接近戦になると、「面倒だ!」とか言って、グーパンが出るんだよな。戦士兼武闘家が正式な職業なんじゃないのかってくらいに、腕っぷしは強い。
薄い壁とかなら余裕で破壊するんだが、どうやら今回の壁は手ごわかったらしい。
狙い通りに壁に穴は開いたが、残念ながら通れるほどの隙間は無い。ビータンなら通れるかな。
「俺が剣で破壊してもいいが、ヘタすりゃ城ごとブッ潰れかねんな」
「そうだな」
俺の言葉に、そこは否定しないとガジマルドが頷くのが穴の向こうに見えた。
「しょうがねえ、二手に分かれるか」
ガジマルドの提案に、仕方なしと頷いたところで、俺はハッとなった。
「し、しまった!」
「なんだどうしたレオン! 怪我でもしたか!?」
「エリンをこっちに引っ張っておけば、俺とエリンが二人きりだったのに!」
「……ビータンがいるだろうが」
「ビータンはこの穴通れるから、お前のとこに行かせられるだろ!」
後から悔いると書いて後悔! これほどの後悔があろうか! うまくやっていれば今頃エリンと、アハンな大人の時間を過ごせていたかもしれないのに! のに! ちくしょお……「うおおっ!?」無言で穴から剣を突き刺してくんなやあ! 頬をピッとかすめたぞ!?
「ちっ」
「残念そうに舌打ちすんな!」
「ビータン、こっちに来い」
「え、それだけはやめて」
俺が避けたことを悔しそうに舌打ちして、ガジマルドがビータンを呼ぶ。ビータンはいそいそと、開いた穴から向こうへ行こうとした。その尻尾を慌てて引っ張る俺。噛むな痛い。
「一人は寂しいから嫌だ! ビータンで我慢する……いっでえ!!!! 嘘です、ビータンと一緒がいい!!」
勇者や大人のプライドなんてどうでもいい。
一人は寂しいと本音を言えば、「しょうがねえな」とガジマルドの一声でビータンは戻って来た。はあ、良かったあ……。
「お前、シャティアの前ではもうちょっと父親らしくしろよ」
つまり威厳もてよと。
「お前が言うな」
と返しておきました。
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