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しおりを挟む「酷いのよ、ルリアナ様ったら私の教科書を破ったの!」
「中庭に出た直後、校舎から水が降って来たの!見上げたらルリアナ様がバケツを持ってニヤニヤ笑ってたわ!」
「たかが男爵家の者がカルシュ様に近付くなって……ルリアナ様に頬をぶたれたの」
「ルリアナ様とすれ違う時に、見すぼらしい女は端を歩けって壁に押し付けられたわ」
「……さっき階段を上ってたら、下りてくるルリアナ様と出くわしたのだけど……思い切り突き飛ばされたの。危うく階段を落ちかけたわ!幸い手すりを掴んで事なきを得たけれど……なんて恐ろしい方かしら」
……
…………
………………ふ~~~~~~~ん
そうですかそうですか。
私、そんな酷いことしてるんですか。
いやあ知りませんでしたねえ。自分の事なのに全っ然、知りませんでした!
私は廊下の片隅で、設置された花瓶台の陰でコソコソしながら聞き耳を立てておりました。コソ泥ではありません。
つまりは噂の出どころと思われる人物が、話している現場を。
つまり、つまりは……ビスタ男爵令嬢がご学友と話しておられる現場を。
見ちゃいました!
ご令嬢達を問い詰めたら、噂を誰から聞いたのかは又聞きもあった為になかなか時間がかかりましたが。
行き着いた出どころは、ビスタ男爵令嬢ご本人だということなんですよね。
──なんですか、それは。どういうことですか、これは。
一度もお話したことありませんのに、ここまで恨まれるとは……。全く身に覚えのない内容に、私は怒りよりも呆れが先に感じられました。そして遅れて……怒りです。
そのあまりに酷い内容に、低レベルな嫌がらせの内容に。
もし虐めるなら、私ならもっと酷い方法をやるのに!
──とは声を出して言いませんけどね。
さて、噂の出どころは分かりました。となれば私はどうすればいいでしょう?
このまま噂が消えるのを待つ?
それとも噂は嘘だと否定し続ける?
いっそカルシュ様に訴える?
もしくはビスタさんに直接やめてくれと言ってしまう?
……どれも面白くありませんね。
いえ、面白い面白くないで動くのはおかしいのかもしれませんが。
なにせ私……結構鬱憤がたまって……コホン、退屈してるもので。思わず本音が出そうになりましたよ、危ない危ない。いえ、退屈してるのも本当ですけどね。
毎日単調すぎる日々には飽き飽きしてたところです。
ちょっと刺激を求めても罰は当たらないでしょう。
ということで、突撃です。
え、誰にって?ビスタさんに決まってるでしょう。先ほど考えた『もしくはビスタさんに直接やめてくれと言ってしまう?』ではありませんよ。それじゃ面白くないって言いましたものね。
鬱憤晴らし、もとい、退屈しのぎのために、彼女には頑張ってもらう事にしましょう。
私は花瓶台からスックと立ち上がって、スタスタと歩き出しました。目標、ビスタ男爵令嬢、です。
「え、ルリアナ様!?」
「ごきげんよう、ビスタさん」
突然の私の登場にギョッとなって大声を出すビスタさん。側にいたご友人達も驚いておられますね。それを私は気にすることなくニッコリと悪魔スm──ではありませんね、悩殺スマイルを浮かべました。いけないいいけない、本音が漏れやすくなってます。気を引き締めねば。
あっさりと頬を赤らめるビスタさんとご友人達。う~ん、チョロいですわねえ。これからやる事に耐えられますでしょうか?ちょっと不安です。
が、先の事を心配しても仕方ありません。
私はビスタさんの顔を見ました。
ビクッと体を震わせて、今度は顔色が青に変わってきました。あらあら、庇護欲を感じさせるいいお顔ですわね。なるほど、その顔で私がしたという嘘の悪行を言いふらしたわけですね。そんな可愛らしいお顔で言いふらせば、皆さん信じてしまうのも仕方ないのかもしれません。
でも嘘はいけません、嘘は、ね。
「ビスタさん、貴女、私が貴女を虐めてるという嘘を広めておいでのようですね?」
「──!!う、嘘じゃありません!!」
いいえ、嘘ですね。
その瞳の奥にあるのは焦りの色です。まさか人前で私から直接話しかけてくるとは思ってなかったのでしょう。そうですね、私は人付き合いが苦手ですから。そして勉学に夢中で……結果として、随分大人しくしていたと思いますから。
そんな勘違い、当然するでしょうね。
私が何も言わないと。
そう、勘違いするのは仕方ないのでしょう。
ですが違いますよ。本当に勘違いですよ。
私──そんないい子ちゃんではありませんから。
「ビスタさん、嘘はいけませんよ?」
「嘘じゃないでしょう!?ルリアナ様、またそうやって私を悪者にしようと……ギャ!?」
鬱陶しいので話を最後まで聞きません。
私は涙目で訴えて来るビスタさんの頬を思い切り──ビンタしたのでした。
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