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もう一つのエンド~ぶりっこ聖女のお話~(5)
しおりを挟む「ここが貴方の村なの?」
神殿にやってきたイケメン。その依頼内容はよくあるやつで、村が魔物に襲われたってやつだ。
最初は田畑が荒らされ。そのうちエスカレートした魔物が人にも危害を加えるようになったらしい。
男衆が警戒して対処したものの、やはり限界があるらしく、どうにかして欲しいってのが今回の依頼だ。
「別に聖女必要無いのでは?」
アンナの素朴な疑問。
分かる、分かるわよ言いたいことは。
確かにこんなの聖女の仕事レベルじゃあない。
魔の国からはじかれた下級魔族なんて、神殿の並の神官が光魔法で蹴散らすか、そこそこレベルの冒険者がちょちょいのちょいで倒せばいいのだから。
だが私は敢えて、チッチッチと人差し指を立てて横に振った。
「甘いねえ、アンナ君」
「酸っぱいよ」
「何言ってんのよ。……どんな小さな事件でも、辺境の村でも!聖女はいつどこへだって助けに来てくれる、そうアピールする事って重要なのよ!」
「へ~ほ~は~ん」
そんな殊勝な考え持ってたっけ?なんて声が聞こえたけど聞こえない。私にはなんも聞こえないっす!
「ヒーローは事件の大小にこだわらない!みんなを助けるのがヒーローよ!」
「へ~へ~さいでっかさいでっか」
「……もっとやる気出しなさいよ!!」
村を目の前にしても、未だやる気ゼロのアンナのお尻を引っぱたく!いたあ!と涙目で見られたけど、ふん、泣いても喚いても帰さないわよ!
え、なんでアンナが一緒なのかって?
そんなの決まってる。
……連れて来たのよ!
一人じゃ恐いから!!
「なにドヤ顔してるのよ、腹立つわあ」
「安心しなさい、腹がすっくと立つ姿をあたしは見た事ないわ!」
「ぶりっ子がかつてないほどの馬鹿に……!」
言ってればいいわよ!
だっておかしくない!?聖女が出陣するってのに、誰も付いて来ようとしないなんて!?
『あ、聖女様がお行きになる?それは良かった、聖女様ならお一人で大丈夫でしょうし。無駄に人員を割く必要もありませんね~』
ときたもんだ!なめんとんかい、あの大神官!!
そんなわけで、アンナの首ねっこ掴まえて強引に連れてきました。赤ん坊が心配ってんで、一旦アンナの実家寄ってから来たあたしってなんて優しいの!メイドにアンナの両親、あとは旦那が面倒みるでしょ。
……どうせなら、アンナよりあの旦那と一緒に来たかったんだけどね。
「さすがに不倫はね、不倫はねえ……」
あたしは純愛希望なので、不倫願望はゼロ。だけどやっぱ一緒に行動するならイケメンがいいと思うの!
と力説したら、アンナが溜め息つきながら付いて来た。犠牲者を出さないためにって何よそれ。文句言いたかったけど、依頼者の男性が早くして欲しいって顔してたから我慢した。
そしてあたしの能力で三人まとめて飛んでやってきました、辺鄙な村へ。
こぢんまりした村は一時間どころか数分で全て見て回れそうだ。
一応の警戒として作られた柵を通り、村の中心へ。そこで、なんかよぼよぼのご老人がお出迎え。村長さんだそうです。依頼者はこの孫。
「なんかゲームの世界みたいだなあ」
「激しく同意」
呟くアンナに頷くあたし。
これで依頼をこなしたら、なんかお宝ゲットできるのかしら。まあ既に報酬が神殿に前払いされてるので、あたしが貰えるもんなんて無いんだろうけど。
そもそも小さな村からそんな大金せしめるわけもなく。気持ちだけって程度、雀の涙な献金だけだ。
でもいいの!あたしが狙うのは宝石やお金じゃないのだから!
あたしが狙うお宝は!イケメン!それ以外いる!?
「……涎垂らして血眼で男性を物色するのやめれ」
「うるさいわよアンナ。見てるだけならタダよ!」
「なんか減る気がするからやめたげて」
「何が減るってえ!?」
減るか!見てるだけで減るか!
小うるさいアンナはやっぱり連れて来るべきじゃなかったかしらねえ。
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