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3、いよいよ悪役令嬢の出番ですね!
しおりを挟む平和な一年が終わり、私はついに二年生となった。王太子は三年生だ。
新学年初日の校門前で、私は感慨深く校舎を見上げていた。
ああ、いよいよだ。
いよいよ始まるんだ!
決意を胸に心の中で握りこぶしを作っていたら、背後から悲鳴が聞こえた。
「きゃあ!」
・
・
・
・
・
きぃたあぁぁぁ!
バッと勢いよく振り返る!と、そこには!
「いたた、ころんじゃった」
んもう、私ったらドジなんだから!テヘペロ!
そんな感じで地面に座り込む女生徒が一人。
ちょっぴりイラっときたけど、今はとりあえずスルーだ。耐えろ私!
この世界では珍しい黒髪ロングの可愛らしい女の子。
大きな声出してこけたみたいだけど、怪我は無さそうだ。とにかく私自身は冷静に事を見守る。これ大事。
ヒロインの一挙一動と周囲の動きを要チェック!
するとそこへ一人の男性が歩み寄ってきた。
原作通り、攻略対象筆頭の、あの方ですよ。
「大丈夫?」
「あ……えと……」
「私はベルシュだ。きみは……見かけない顔だね」
「あ、えと、転入してきました二年生のミサキです!」
「ああそうか、キミが例の聖女候補の……。宜しくね、立てる?」
そう言って紳士よろしく手を取ってミサキを立たせる王太子──ベルシュ様。当然のように周囲から大注目ですよ。
顔を真っ赤に染めて立ち上がったヒロインは──原作通りによろける。勿論ベルシュ様のほうへ!
う~ん、見事に原作通りだなあ。何度も見たからよく覚えてるわあ。
でもちょっと待って、密着しすぎじゃない?
たしか原作スチルでは軽く体が触れる程度だったと思うんだけど。もうそれ抱きついてるよね。
なんだろう、ゲームと現実の違いなのかなあ。
などと思っていたら。
「ベルシュ様、おはようございまっす!」
能天気に元気よく挨拶してくる男子が居た。
私の親友シンディの婚約者にして宰相子息のロルスだ。真っ赤な髪が寝ぐせでグシャグシャですよ。それをいつも直してくれるシンディは今日は一緒じゃないの?いつも一緒に登校してくるのに。これが原作の力というやつか、恐ろしい。
「ああ、ロルス。おはよう……」
「きゃ!」
ベルシュ様が挨拶を返そうとしたところで。
なぜそこでよろける!
理解不能によろけたヒロインが……ロルスに抱きつくようにしがみついた。
おいおいおいおいおいおいおいおい
何回でも「おい」と言いたい。
おいおい、何やってんの貴女。
ベルシュ様の次はロルスかあ……もうターゲットロックオンなんだろうか。
この場合、私はどうすべきなんだろうか。
まだ今は沈黙しておくべきなのか。
早速いびりにいくべきなのか。
それとも……
悩んでいると、パチッと目が合ってしまった。ベルシュ様と。
ニッコリ微笑まれて手を振られては、無視できないよね。王太子を無視なんて出来るわけ、ない!
仕方ないなとため息をついて、私は三人に合流すべく足を向けた。
のだけど!
ガッ!
「え」
え、だわ。え、しか言えないわ。
何で私まで躓くのお!?
これじゃあヒロインの事言えないじゃないか!いやでもわざとじゃないんだよお!
一瞬のはずなのに、やけにスローモーションで地面が近づく。
(顔をぶつける!)
綺麗な顔のアンナシェリの顔が傷まみれるなるなんて!
どこか他人事のように考えながら、襲い来る痛みに備えて目をギュッと瞑った。
けれども──
「?」
いつまで経っても痛みは訪れず。
なんというか、体が……
そ~っと目を開けてみれば、私の体は「う、浮いてる!?」浮いていた。
え、え、何これ何これ。どゆこと!?
そう、私の体は浮いていた。その高さ、地面から30センチくらい。
顔面が床にキスする寸前の状態で、ふよふよ浮いていたのだ!!
「えええええ!何ですの、何ですのこれー!?」
一応令嬢らしく叫ぶよ!
本当は「何じゃこりゃあ!」て叫びたいけど、そこはグッと我慢よ!
どう体制を保っていいのか分からず心もとない状態で、手足をバタつかせていたら。
「よいしょっと。もう大丈夫だよ」
と、体を支えて起こしてくれる存在がいた。あ、どもども。
トンと地面に足がついてホッとする。
地面大好き、空飛ぶの勘弁!
などと思いながら、礼を言おうとして相手の顔を見て。
固まった。
「ぞ、ゾルゼンス様……!」
公爵令嬢の私が「様」をつける相手。
まずは王族、これ当然。
伯爵家以上の貴族。これは礼儀として、やはり当然。
そして。
何者にも縛られない。
王家でも貴族でもない。
ある意味、王族よりも重要人物。
この世界で魔法を使う事が出来る稀有な存在。
その中でも最強と謳われる、大魔法使い。
紫の髪と瞳をもった、神秘的な存在──ゾルゼンス、その人が目の前に居た。
ちなみに、私の腰を抱いてるその手が気になるんですけど。これ払いのけていいのかなあ。
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