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第二章 今度こそ

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「やあ、よく来たね」

 そう言って優しい笑みを浮かべ、ベントス様は迎えてくださった。
 ベントス様は元侯爵で、現在は息子に爵位をゆずって引退の身だとか。かつては祖父と共に、その手腕をいかんなく発揮していた優秀な方と聞いている。今は街中の、一人暮らしとしては少し大きめの家に数名の使用人と共に住み、気楽な引退生活を送っている。

 趣味は魔法の研究で、祖父と気が合うのだとか。古い友人らしいのだが、祖父とは真逆な穏やかなその物腰に、祖父と本当に気が合うのか? と不思議になる。だが先日訪問した際は、なんだかんだでお互い熱くなりながら、あれやこれやと討論していたから、こと趣味に関してだけは気が合うのだろう。

「急な訪問、申し訳ありません」
「かまわないよ。いつでもいいと言ったのは私だからね」

 そう言って屋敷内の一室へと案内してくださり、大きなソファを勧められた。子供の体では沈んでしまいそうなフカフカのそれは、先日の訪問時と同じ。そっと座ってお土産のケーキを差し出した。

「甘い物がお好きと聞きましたので……」
「そんな気を使わなくてもいいのに。でも嬉しいよ、この店のケーキは大好きなんだ。特に白クリームにフルーツがトッピングされた……」

 それはあれか、私が狙って黒服青髪氷の目の男に横取りされた、あれ。そんなことを聞かされたら、また悔しくなるではないか。

「? どうかしたかい?」
「いえ、なんでも……」

 肉体が幼くなると、つい精神が引っ張られてしまう。このようなことで拗ねるとか、17歳まで生き何度もループしてる身であるというのに、恥ずかしいやら情けないやら。

(もっと気をひきしめねば)

 思わず背筋をただす。
 見れば、いつのまにかケーキはお皿に乗せられ、紅茶まで用意されている。この屋敷の使用人は実に優秀だ。

「うん、美味しい」

 でもって、ベントス様はもう食べてるし!
 目を垂れさせて、心無し頬を赤らめてケーキを頬張る。祖父より高齢なのにどこか幼さを感じさせるその様に、思わずクスリと笑ってしまった。

「ああゴメン、私だけ食べてしまって。ささ、キミが持って来てくれたんだ、話は後にしてまずは食べて」
「はい、ありがとうございます」

 お礼を言って、私はフォークを手にした。結局買ったのは白いクリームに、フルーツをふんだん……ではなく、イチゴだけが上に置かれたやつ。少々寂しいが、これも十分に美味しいと聞く。
 イチゴを最初に食べるか、最後に食べるか、それが問題だ。
 などと考えることなく、まずはイチゴを……と、今まさにフォークがイチゴに刺さろうとした、その瞬間!

「お、美味そう。もらい」
「……へ?」

 消えたのだ。
 イチゴが消えたのだ。
 本当なら、今頃フォークに刺さったイチゴが私の口に入っていたはずなのに。
 フォークはスカって、イチゴが消えたのである!

「え? えええ?」
「うん……酸っぱい」
「えええ!?」

 驚く私の頭に置かれる大きな手。潰す気かというくらいの重みを感じて顔を上げれば、私のイチゴがその口に収まるのが目に入った。

「なにするのよ!」

 驚き抗議の声を上げた私は、バッと頭に乗った手を払う。払って、相手の顔を見て。

「あ、あなたは!?」

 青い髪を揺らし、氷の目が私を射抜く。
 その冷たさに、思わず身震いする。

 ケーキ屋で私からラスイチのケーキを奪った男が、今また私からイチゴを奪ったのである。
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