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11、復讐その4~全てを終わらせる(1)

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「郁美!?一体どうしたんだ!なんであんな──!!」

 壊れた玄関ドアの前で呆然と佇む人影を目にして、私はゆっくりと近づいた。

 その人は、明彦は近付く私に向けてそう言葉をかけて。

 そして徐々に近づいてくる私の姿をハッキリ目に捉えて、目を見開くのだった。

「お、まえは……!?」

 夕焼けで顔を真っ赤にしながら、明彦はバッと庭に目を向ける。
 その先には──

『そうね、私の遺体は庭にあるはず。あなたと郁美が埋めたんだから、間違いないわよね』
「──!!ひ、ひいいいい!」

 ニッコリ微笑んで告げれば、蒼白な顔で、庭へと駆けて行った。

『あら酷い、幽霊でも見たような顔で……って幽霊か』

 そうだったそうだった。私は今、幽霊なんだっけね。
 明彦にも見えるように姿を現してたから忘れてたよ。

 独り言ちて、私は明彦をゆっくりと追いかけた。どうせ壁に囲まれた小さな庭だ。逃げ場は無い。

 案の定、その姿はすぐに捉える事が出来た。

 そこは庭の一番奥まったところ。
 肩で息をする明彦の足元には、土が山盛りになっていた。

 私はゆっくり手を上げて、そこを指さした。

『そこ……』
「ひ!」
『私、そこに眠ってるんだよね?お墓でも何でもない。ただの庭に』
「ひいい!許してくれえ!」

 情けない声を出してその場に蹲る明彦を、私は冷えた目でただ見下ろす。

 ふと、視界の隅に映ったそれを、何気なく手に取った。念じて浮かしてるのだけど、明彦にはそう見えるだろう。

『酷いよねえ……あんなに尽くしたのに。私、頑張ったのに』
「な、何を……」
『ねえ明彦、プロポーズの言葉、覚えてる?』

 私の言わんとしてる事が分からないのだろう。
 明彦は肯定も否定もせず、茫然と地面に座り続ける。

 返答を期待などしてなかった私は、空を仰いで思い出す。

『必ず幸せにするって。誰よりも仲のいい夫婦になろうなって。そう、言ってくれたよね』

 それは最初だけ守られた誓いの言葉だった。

 幸せは一瞬。
 地獄は永遠。

 結局約束はほとんど守られずに、私を殺害という形で終わりを告げた。

 虚しい人生は幕を閉じた。

『酷いよねえ、殺すなんて』
「あ、あれは……郁美が!」
『決定打はそうだったとしても、明彦が何もしてないなんて言わせないよ』
「ぐ……」

 私の睨みに、明彦は言葉を失う。なんの反論も出来ない事は本人が一番よく分かってるのだろう。

 私は再び手の中のショベルに目をやった。

『酷いよねえ、埋めるなんて……なんの供養もしてくれないなんて』

 無事に転生出来たのが奇跡のようだ。よく怨霊にならなかったなとしみじみ思う。

 ふと思いついて、私はショベルを明彦の目の前に落とした。

「なに……」
『掘り返してよ』

 その行為の意味が分からず、不思議そうに私を見上げた明彦に向かって。
 私は簡潔に命じた。

『私の遺体、掘り返して。ちゃんと供養してよ』

 その言葉に、明彦は絶句した。

 それはそうだろう。人間の遺体がどうなるかなんて、見た事無くても知ってるだろう。

 埋められてからどれくらい経過したか分からないけれど、まだ白骨になるには早い。今が一番なかなかやばい状態だろう。

 それを掘り返せなんて正気の沙汰ではない。
 だから私は正気では無いのだろう。

「な!そんなこと出来るわけ……!」
『出来ないなら自首してよ』

 そしたら警察が遺体を掘り起こしてくれる。

 自分で掘るか。
 人に掘ってもらうか。

 さあ、どちらかを選べ!


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